第8話・ダンジョン点検(2)(挿し絵付き)
一.
王都を出てダンジョンに向かう三人。まるでピクニックに向かうかのごとき気楽さで喋りながら移動する。そんな折、カールの頭に疑いが浮かんだ。
「そういえばリューさん。ふと思ったんだが」
「なんじゃ」
「リューさんって今みたいに浮かびながら移動したり魔法殻のような防衛魔法が使えるのは知ってるけど攻撃はどうなんだ?」
真剣な顔で聞いてくるカールにライオネルは下唇を軽く噛んで笑いを堪えた。カールの目の前にいる可愛らしい女性の正体が魔王であることを知っているからだ。
そしてそんな可愛らしい女性リューは慎ましい胸を力強く叩くと誇らしげに語った。
「使えるぞ!」
「マジ!?どんな魔法なんだ?火か?氷か?」
「もちろんそれも使える。じゃが一番得意なのは【波】じゃ」
「なみ……?なみって海で水が動いてる時に出てくる波のことか?」
「そうじゃ」
「……弱そう」
「なんじゃとッ!」
カールの心ない言葉に怒りを露にするリュー。そんな烈火の如く怒るリューにカールは思わず頭を下げて謝る。
「いや、ごめんって。ただ聞いたことが無くてさ。本当に強いのか想像出来なかったんだ」
軽い笑みを浮かべながら謝るカール。そんな彼に真剣さが感じられないリューは波魔法の一つ【探知】を周囲に使う。
跳ね返ってきた波にリューが笑みを浮かべるとカールに話しかける。
「実際に弱いかどうかは見たら分かるじゃろ」
そう言って草むらの方向に手をかざすと大きな破裂音を立てて緑色の何かが草むらから飛び出してきた。
「あ、あれはゴブリン!」
草むらから飛び出してきたのは背丈は100cmほどの小さな二足歩行の緑色の魔物ゴブリンだった。ゴブリンは耳障りな金切り声を上げる間もなく左半身を内側から吹き飛ばされ絶命していた。
「すいませんでしたッ!!」
そんな凄惨な光景を見たカールは笑みを止め腰を曲げて真剣な表情でリューに謝罪した。リューが誇らしげで得意気な顔をしていると草むらから音がした。
カールが顔を上げると一匹のゴブリンが草むらから出てきて倒れたゴブリンの体を揺すっていた。
「もう一匹いたのか。胸の膨らみから見るにメス。おそらくあの二匹のゴブリンは番か兄妹なのだろう」
ライオネルはそう言うとふと微笑む。カールがリューを怒らせてしまった為に場の空気が悪くなっていた。それを解決する手段を思い付いたのだ。
「なぁリュー。カール先輩。せっかくゴブリンが一匹出てきたんだ。『アレ』をやらないか」
ライオネルの提案にリューは頭に?マークを浮かべるがカールはライオネルの意図を察知して了承する。
「任務までまだ時間が有るしやろう!ゴブリン吉凶占いを!」
その言葉を聞いてリューはようやく合点がいき頷いた。
・ゴブリン吉凶占いとは
かつて大陸ではゴブリンによる家畜の襲撃に人々は頭を悩ませていた。そんなある時、地方の領民が領主の監視の元でゴブリンの駆除をした。その時の楽しげな様子を見て領主が気に入り年中行事とした。
行事にする際に、吉凶を占う祭事として他の領主に話した。それを聞いた他の領主も興味を持ちこぞって吉凶占いをした。次第にそれは国王の耳に入り宮中行事となった。
そうして全国的に広がった吉凶占いは種族の壁を超え魔族にも知り渡りいつしか人魔で愛される共通行事となったのだった。
・ゴブリン吉凶占いの手順
①まずゴブリンを半殺しにします。
リューは出てきたゴブリンに手をかざし殺さないように気を付けて波を発生させる。波は上手くいきゴブリンの右手を吹き飛ばした。(出血多量で死ぬのでは?という疑問が有るかもしれないが後で皆殺しにするので問題は無い)
②巣を特定する
逃げるゴブリンを遠くから追跡する。
「ん?あのゴブリン草むらに入ってしまった。姿が見えんぞ」
「大丈夫じゃパイセン。こんなこともあろうかと思って腕を吹き飛ばしたのじゃ。血の跡を辿れば良いのじゃ……ほれ居たぞ」
「さすが俺の嫁。賢母すぎてつり合いが取れないかもしれない……あっ穴蔵に入ったぞ!あそこだ!」
③巣に可燃性の液体及び火魔法を投入する
「本来なら大量の油を入れたりと手間が掛かるがリューさんがいればあっという間だな」
「ふふふ。では放つぞ」
リューが指をゴブリンの巣に指すと同時に指先から火が噴き出す。無詠唱で火魔法を使うリューにカールは感嘆の声を上げる。そしてそんな2人を後方で腕を組みながらライオネルは微笑んでいた。
リューが火を放ち終わると5秒も経たず巣の入り口からゴブリンの悲鳴が聴こえてきた。
④出てきたゴブリンを数える
悲鳴を上げて出てきたゴブリンは全身に炎を纏わせ体の1部を炭化させながら一匹、また一匹と出てくる。
巣から出てきたゴブリンが地面に転がり火を消そうとするが消えない。リューの放つ火魔法は特製で粘性を持っている。故に地面に転がろうが水を掛けようが消えないのだ。
なお、魔王リューと対峙したライオネルはこの絶死の魔法に対し、近くの魔族や死んだ仲間を盾にして対処するというライオネルらしくない守りの姿勢を取っていた。それ程までにリューの火魔法は驚異であった。
そうして巣から出てきたゴブリンは3匹を数えた。その結果を見て3人は喜んだ。なぜなら3は大吉を表していたからだ。しかしそれも束の間。カールが指差す。
「マズい!4匹目だ!」
4は大凶を表す。2人が慌てる中でライオネルの行動は早かった。巣穴から出ようとするゴブリンの腹を蹴りもう一度燃え盛る火の中に蹴り落とした。
「ラ、ライオネル!?」
突然のライオネルの行動にカールは戸惑うがライオネルは静かに語る。
「俺の故郷のルールでは巣穴から出てなければセーフなんで」
「おおッ!!」
カールはライオネルの故郷のローカルルールに感謝した。
⑤後片付け
ゴブリン吉凶占いをやったあとは後片付けを忘れてはならない。後片付けをしなければゴブリンの死骸からの悪臭。そしてその臭いを嗅ぎ付けた他の魔族が食い漁り人を襲う可能性があるのだ。
これは法律で定められてはいないが占いを行った者のマナー。人間も魔族も関係ない社会的常識である。
3人は虫の息のゴブリン3匹に止めを差して巣に放り投げて巣穴を埋める。後片付けをし終えた3人の顔は明るかった。これで幸先良く仕事を始められると、そう思っていた。こうして3人は巣穴から立ち去りダンジョンへ向かった。
しかし彼らは気付かなかった。埋め立てた巣穴から炭化した腕が1本飛び出したことを。
その為、ルール的に身体の1部が出ていれば+1と扱われるため腕1本でもカウントされる。彼らの運勢が大凶であることを。
二.
「ダンジョンか。そういえば久々だな……」
ライオネルが小さく呟く。街中なら雑踏で聞こえなかった言葉も洞窟という静けさが言葉をカールの耳に届ける。
「なんだライオネルさん。ダンジョンに潜ったこと有るのか」
「……故郷にいた時に……ですね」
ダンジョンの中に入りしばらくしてライオネル達は雑談をしていた。最初は警戒をしていたものの整備された洞窟で魔物は一匹もいない。
照明魔法も使われているためランプも不要ということもあり任務とは名ばかりの散歩になってしまい警戒心が途切れてしまった。
アクビをしたリューは暇潰しがてらに地図を眺めていたが早々に止めてしまいカールに返却し雑談を始めた。
「どうやら昔はこのダンジョンの中に珍しい鉱石が埋まっていたそうでな。それをマケト商会が王国から買い取ったそうだ」
「ほぅ。珍しい鉱石が眠っているのによく王国が認めたのう」
「鉱石を掘るには人も設備も必要なんだが当時は魔族との戦争中でな。資金不足ってことで売られてたのを買ったそうだ」
「そんな金のなる木を今も商会は持っておるのか」
「そうですね。今は枯渇したそうですがだいぶ儲かったそうですよ」
「へぇ~」
感心したリューが相槌を打つ。魔族なら事が済めば武力を用いて奪い返すが王国は、ひいては人間は契約を重視する。そこに感心した。
そうして話ながら歩いていく内に道は二又に別れていた。右か左どっちに歩いていけば良いのか、地図を持っているカールの顔を見る。カールはライオネルとリューで右に行くよう指示をした。
「分かったのじゃ。ところでパイセンはどうするんじゃ?」
「俺は左に行くよ」
「何か有るのかの?」
「何も無いよ。行っても行き止まりだ」
「それって行く意味有るんですか?」
「地図に書かれているどおり行き止まりかどうかを調べる訳だからね。意味は有る」
「なるほど」
そうして会話もそこそこにカールは左に、ライオネル達は右にと歩いていった。
洞窟を2人で雑談しながら歩く。整備されているとはいえダンジョン。周囲の警戒はしているものの動くものは無くリューは退屈そうに欠伸をする。
歩いて10分ほど経ちライオネルは洞窟の側面に小部屋のような空間を見つけた。横からは見えないが正面に立てば全容が見える程の地図には記載されない程度の些細な空間である。
ライオネルはその空間を見て思った。リューを連れ込んで抱けるのでは?と。カールが走ってきたとしてもここまで来るのに5分は掛かるだろう。
―――それだけ有れば充分
立ち止まったライオネルに不審な目を向けるリューを横目に抱く算段をするライオネル。リューを小部屋に運び込もうと手に力を込めようとした。
その瞬間だった。
轟音、詳しくは爆発音がライオネル達が来た道から響く。緊急事態にライオネルが叫ぶ。
「リュー!」
「うむ」
リューは目をつむり意識を集中させる。探査魔法で確認している。5秒も経たずリューは目を開けるとライオネルに言う。
「困ったのぅ。パイセンが行った行き止まりの道に巨大な魔力反応がある」
「巨大な魔力反応……それはもしや」
「うむ。恐らく封印されている上級魔族じゃ」
「ならばカール先輩が危ない!急いで助けにいこう!」
「待て!!」
来た道を走って戻ろうとするライオネルにリューが制止の声を上げる。
「なんだリュー!」
「今から走っても恐らく5分は掛かる!間に合わん」
「ならばどうする?見捨てるのか」
「パイセンには何度も食事を奢ってもらった恩がある。敵対した種族といえど恩を捨てるような軽薄なマネはせん」
「ならどうするんだ!?」
「こうするのじゃ」
リューは洞窟の壁に両手を置くと魔力を込める。身体から白いオーラが噴き出しているのを見て莫大なエネルギーが込められているのが分かる。
「波ッ!!」
音と風。衝撃波が離れているライオネルにも伝わる。土煙が晴れると目の前には新しい洞窟が出来ていた。覗き込むと光が見える。
「ショートカットじゃ」
「ヨッシャッ!!ありがとう!」
ライオネルが駆け出すとその後ろをリューが付いていく。2分程だろうか。ショートカットを抜けるとそこには2人いた。
血を流し倒れ伏したカール。
そして、古代人が作ったような見た目をした無機物な宙を浮く存在。上級魔族だ。




