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第7話・ダンジョン点検(1)

マケト商会の朝は早い。


日が昇る頃、一番下っ端のライオネルとリューが起きて商会建物を掃除をする。エントランスや住み込み部屋だけでなく物置、トイレなど執務室以外の全てを掃除をする。


この日リューは魔法で浮かんで照明の裏側に溜まったホコリをはたきで叩いていた。そうして落ちてきたホコリをライオネルがほうきで掃いて床を綺麗にしていた。


そんな時に商会入り口の扉が開く。こんな朝早くに商会が開いていないことは王都の人間なら知っている。ならばと思い当たる人物は1人しかいない。ライオネルの口が綻ぶ。


「よぉ!しっかりやってるか!」


「カール先輩!おはようございます!」


「よくやってるな感心感心。手伝おう……あれリューは?」


「おはようなのじゃカールパイセン」


「上にいたのか」


現れたのは先輩カール。本来、商会の掃除は一番下っ端の仕事。ゆえにカールが手伝う道理は無いのだが彼は面倒見がよく時々ライオネル達の手伝いに来ていた。


リューの独特な呼び方にも驚くことなく慣れたカールは物置から雑巾を取ってくると鼻歌交じりにテーブルを拭き始めた。


そうして普段よりも掃除が早く終わったライオネル達はいつの間にか来ていたエリカに朝食を誘われパンとゆで卵、牛乳を頂いた。


和気あいあいとした朝食の雰囲気。そんな和やかな雰囲気の時にこのような会話が始まる。


「頑張った後の飯は美味じゃ!特にこの牛乳は濃厚で旨いのぅ!」


「そうだろうそうだろう!なんせ俺の故郷にいる幼馴染みが端正込めて搾った牛乳だからな!」


カカッと笑うカールに連れて笑うエリカ。エリカは微笑みつつリューにゆで卵を勧めながら話し始める。


「にしても2人はよく働いてくれて助かるわ」


「いやいや、役に立てて俺も嬉しいよ」


微笑みながらライオネルは返礼をした。リューは両手にゆで卵を持ち、口に頬張りながら頷いた。


「特にリューちゃんには驚いたわ。失礼だけど、こんな小さい子を戦闘員にするなんて母さんはイカれたのかと思った」


「それは俺も思った」


エリカの言葉にカールは同意して頷く。


「でもまさかこんなスゴい魔法使いとは思わなかったわ。空を飛べるんですもの」


「なんなら無詠唱でな。王宮で働いててもおかしくないほどの逸材だぜ」


4個目の卵を胃に落として口内を空にするとリューは尋ねた。


「なんじゃ王都でもそんなに珍しいのか。まぁ確かに故郷でも空を飛べるのはワシの父親くらいじゃったが……」


「まあ!お父さんも!?スゴいわね」


「飛翔魔法は上級の魔法だからな。身体を浮かばせるだけでも一苦労するらしいのに思うがままに無詠唱で飛べるなんてスゲーよ」


「どうだ俺の嫁は!スゴいだろ!」


「むふふー!」


皆に褒められ今年一番のドヤ顔をするリュー。


「ほんとリューちゃんには助かってるわ。今日だって天井の照明に被っていたホコリを取ってくれたんですもの」


「確かに、俺が下っ端の頃は目に見えるレベルになってから脚立を使って拭いていたからな」


「ほんとアンタはズボラなんだから」


「なにを!そもそも脚立なんか1人は足元を支えないといけないルールなんだからそう滅多にできねぇもんなの!」


「ジョンの奴に頼めば良かったじゃない!」


「アイツは嫌いなタイプだから話し掛けたくなかったんだよ」


「だからって私にだけお願いするのはどうなのよ!」


「嫌だったのか?」


ライオネルの問いにエリカは頬を赤くする。

一方リューは5個目のゆで卵を食していた。


「そもそもカールったらドジなのよ!足を踏み外して下にいた私に落ちてきたのよ!しかもその時に事故でキ、キス……しちゃったし」


「その話は蒸し返さないでくれよ。不可抗力なんだしさ」


「不可抗力ってなにさ!私のファーストキスなのよ!責任取りなさいよ!」


「うるさいなぁ!キス程度で責任取るわけないだろ!」


「キス程度で責任取れるのに要らないのか?」


ライオネルの問いにカールは頬を赤くする。

一方リューは6個目のゆで卵を食していた。


「と、ところで!リューちゃん食べすぎじゃない?」


「そうかの?まぁ仕事も有るし腹八分にしておくかの」


「そ、その方が良い!今日は壁外任務が有るからな!」


エリカとカールは慌てた様子で話を変えてきた。先日、話していた仕事の話を持ち出してきた。


本日の仕事は王都近くの商会が保有しているダンジョンの点検。特に地下深くにいる魔族が確実に封印されているかの確認だとのこと。


「む?わざわざ封印されてるか確認しなくても殺せば良いのではないのかの?手間が省けるぞ」


そう言うのはかつて魔族を率いていた魔王リュー。元仲間に対して血も涙も無い魔王の言葉にライオネルも頷いた。


「確かに。それに王都近くに魔族がいるなんてセキュリティ上の観点で危なすぎる。たしか近衛騎士団……だったっけな?彼らに討伐を依頼した方が良いのでは?」


「彼らも出来るならそうしてると思うんだがな……」


カールは首を横に振る。


「封印されているのは上級魔族なんだ」


「上級か……まぁ強いな。早急に動くべきなのに騎士団は危機意識が足りないんじゃないか?」


「騎士団の人もそうしたいらしいが魔族との戦争で実力者が居なくなっちまってな。封印するのが限界だったらしい」


「そうか……」


そうカールが答えるとライオネルは思い詰めた表情をした。考え込みカールが必要な道具を取りに倉庫に行ってもエリカが任務に必要な書類を用意しに受付の奥の部屋に行ったことにも気付いていないようだった。


エントランスホールで2人きりになったのを確認するとリューは小声でライオネルに尋ねた。


「なんじゃライオネル。そんな思い詰めた顔をして」


「いや、実力者が大勢死んだと言って思ったんだ。俺がもっと早く魔族を始末していたらと思うと……」


うつむくライオネルにリューがため息を吐く。


「あんまり調子に乗るでないぞライオネル」


冷たく言い放つリューの顔をライオネルが見る。


「もう少し上手くやればとか、もう少し早くとかは結果論に過ぎん。あの時の最善をヌシは尽くした。結果、人類は大量の死人を出して魔族を退けることに成功した。それだけの話よ」


だいたい……とリューが話そうとすると何を思い付いたのか吹き出してしまった。そしてツボにハマったのか次の言葉が中々出てこなかった。


牛ライオネルに背中を擦ってもらいながら笑いが治まると牛乳を飲み喉を潤す。そして楽しげな表情でライオネルの背中を叩く。


「ライオネルは上級魔族80人倒したんじゃぞ。普通の勇者なら上級魔族10人倒しただけでヤバイ奴なのに……面白い冗談じゃ!ライオネル以上に上手く倒したいならタメトモを連れてこいという話じゃ!だからそんな気に病むことはないぞ」


「それもそうだな」


「もうちょっと余韻をもてよ!」


ライオネルの表情は少しは柔らかくなっていた。彼自身納得はしていた。あとは誰かが背中を押してくれるのを無意識に待っていたのだろう。


雰囲気が良くなった部屋にカールが倉庫から道具を持ってきた。中にはランプやロープといった探検には欠かせない道具だった。


それらの道具を三人分有ることを確認し、確認し終えた物をそれぞれバックに入れていく。荷物の確認を終えると次は装備を着こんだ。


といってもライオネルは皮鎧──上半身のみ──だけでリューに至ってはいつもと同じでローブを羽織っているのみである。


カールは金属性の鎧を頭部や胸、腕や足と重要箇所に取り付けていた。身に付ける装備は商会ではなく自前で用意しなければならない。一介の戦闘員が揃えるには高価過ぎる代物にリューは疑問に思い口にした。


「む?実はパイセンの実家って太いのかの?」


「いや、実家は普通の家だよ」


「実はさるやんごとなき身分……?」


「いやいや!ただの平民だよ!」


「ならばその鎧はどうやって調達したんじゃ?盗賊からかの?」


「違うよ!俺にそこまでの実力は無いよ。俺が王都に行く時に領主様の娘が餞別でくれたんだ」


リューが首を傾げる。


「領主というと貴族じゃろ?なぜそんな身分の者が平民なんぞに餞別するんじゃ」


「実は俺、その娘を助けたことがあってね。その恩だとよ」


「へぇ~」


そう返事をするリューは既に装備を整え準備万端である。それはライオネルも同様だった。無言の時間が耐えられなかったカールは装着しつつ2人に尋ねた。


「そんな装備で大丈夫なのか?」


「ワシはこれでOKじゃ」

「俺も」


2人は頷いた。しかしどこか納得のいかない表情を浮かべるカールは質問を続けた。


「まぁ百歩譲ってライオネルはいいや。皮とはいえ鎧を着ているし。リューはそんな布切れで敵の攻撃を防げると思っているのか?」


「心配は無用じゃ。ワシは魔法使いじゃぞ。魔法(かく)で全身を覆っているから問題無いわ。むしろ体力の無いワシが鎧を着たら逆に弱くなってしまうわ」


クスクス笑うリューに納得のいった表情を浮かべるカールは次にライオネルの顔を見る。


「ということはライオネルも魔法殻を?」


「いや、俺は魔力を持ってないから使えない」


「ならもう少し着こんだ方が良いんじゃないか?せめて頭や胸だけにするとか」


ムフフとリューが笑みを浮かべながらライオネルの代わりに話す。


「実戦を意識しているのであろう。ライオネルのこの装備は機動性を上げて敵の攻撃を躱す為の意味があるのじゃ」


この意見は実体験に基づいた意見であった。かつてリューはライオネルと闘っていた時に不可視の即死魔法を繰り出したが殺気を読まれ全て避けられたことがある。


ドヤ顔をするリューにライオネルが何か言おうと口を開こうとしたがそれよりは早くカールが言葉を出した。


「そう言うんなら隠密性を上げる為なんじゃないのか?イザベラさんを助けた時とかみたいに音が出たらマズい場面でも対処出来るように金属音がでない皮鎧を着てるんじゃないのか?」


思い付かなかったカールの意見に軽く頷くリュー。彼女は柔軟性が有り他人の意見を尊重することが出来た。そして幾つか話した後に2人はライオネルを見る。答えを求めたのだ。


ライオネルの表情は変わらず柔らかい笑みを浮かべている。しかし、こめかみに一筋の汗が流れる。


「で、どっちが正しいんじゃの?」

「機動性か?隠密性か?」


2人の問いにライオネルが答えた。


「実は俺、金属アレルギーで触れたら皮膚が赤く荒れるんだ」


素頓狂な答えに2人はずっこけた。


ライオネルとリューは既に事を済ませていると書いておく。

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