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第6話・先輩カール

一.

先導するイザベラの後ろをライオネルが両手に荷物を抱え、リューが魔法で荷物を浮かばせながらついていき建物に入る。


玄関から入って直ぐのエントランスホールは営業前ということもあり静かで中には1人の若い男しかいない。彼は黙々と掃除をし床をホウキで掃いていたがイザベラの入室に気付き駆け寄ってきた。


「イザベラさんお帰りなさい。馬車の旅は大変でしたでしょう。湯の準備はできております」


「ただいまカール。お風呂ありがとうね。いやぁもう歳かねぇ馬車の旅がキツくなってきたよ」


「お疲れ様でした……ところでそちらのお二方は?」


カールと呼ばれた男性がライオネルの方を見る。その視線はどこか訝しげな感情を含んでいる。そんな疑問を払うかのようにイザベラは明るい声でライオネルの背中を叩く。


「紹介しよう!こっちの男はライオネル。刀の使い手だ。女の方はリューちゃん。魔法使いだよ。2人は今日からマケト商会に入社することになったから先輩として頼んだよ!」


「せ、先輩……!俺に後輩が……!」


カールは先輩になったこと、後輩もとい部下ができたことに小さく身震いをして喜んでいた。そんな喜んでいるカールに2人が近づいて挨拶をする。


「ライオネルです。よろしくお願いしますカール先輩」

「リューじゃ。よろしくお願いするのじゃ先輩」


「先輩!……よーし!2人とも諸々の手続きを終えたらここに来てくれ!王都について詳しくないだろ色々案内しよう!」


胸を叩くカールにイザベラは微笑みつつ2人に指示を出す。


「じゃあ2人ともまずは荷物を物置に置いといておくれ。右の部屋が物置だよ。それが終わったら身分証の更新をするから2階の事務室に来るように」


「了解!」

「分かったのじゃ!」


そう言って2人は物置へと荷物を運びに行った。2人が部屋に入り扉が閉まるとカールはイザベラに尋ねた。


「ところで護衛として同行したジョンさん達は?」


「あぁ。実はな帰りの途中で盗賊に襲われてね」


「まさかジョンさん達はその時に……」


「いや、盗賊の手引きをしたのはそのジョンの奴でね。まさか護衛が全員、盗賊と繋がっているなんて思いもしなかったよ」


「ジョンさんが我々を裏切るなんて……そんな素振りは見せなかったのに。理由は何だったんでしょうか」


「さぁてね。機をうかがって聞こうとしたんだけどそのタイミングでライオネル達が来てね。盗賊10人皆殺しにしたわけさ」


「皆殺し!?他はともかくジョンさんは銀級(シルバークラス)でそう簡単にやられるとは思えませんが……」


「まぁ私も現場を見た訳じゃないからなんとも言えないけど状況証拠的に2人が殺ったのは確かだ。しかも無傷で」


「そんな強い人達なんですね……先輩としてやっていける気がしないんですけど」


「心配しなさんな。さっきみたいに堂々としていれば格好はつく!どちらにせよ旦那が上級の戦士を全員引き連れて出張に行っちまったんだ。人手不足でいずれ人員補強はするのは確定していた。それが今日になった。それだけさ!」


「は、はぁ」


カールは先輩としてやっていけるのか不安を抱きつつもイザベラの決定に従うことにし掃除の続きを再開した。


二.

荷物を置き終えたライオネルらは2階の執務室へ案内された。ライオネルらを部屋の中央に立たせるとイザベラは壁際にある棚に移動し引き出しを開けて何かを探している。


<何をやっとるんじゃイザベラは?>


干渉魔法でライオネルの脳内に語りかけるリューにライオネルが答える。


<おそらく身分証の用意をしているんじゃないか?>


そう返答すると目当ての物が見つかったイザベラが椅子に座り金属の板に右手を当てる。すると手の平が発光すると金属板に文字が写る。


「ほぉああやって作るのじゃな。面白いのぅ」


魔族として魔法には並々ならぬ思いがあるのかリューが小さく感嘆の声を漏らす。見たことが無い魔法らしく目を輝かせてながら作業を見つめる。


「よし出来たよ」


大きく息を吐きながらイザベラが椅子にもたれ掛かりながら額に浮き出た汗をハンカチで拭いた。身分証の記入が終わったようだ。


渡された身分証をライオネルが見つめる。50年前と比べてそう大差は無かった。しかし一点、大きな違いがある。身分証には名前と所属先の会社名が書かれているがその上に石の球体が嵌め込まれていた。


この石は何なのか?そう訊ねようと思ったライオネルだったが言葉は出ない。石の球体が一般常識であれば訊ねること自体が怪しまれるキッカケになる。


「この石はなんなのじゃ?」


そんなことを気にしないリューがイザベラに訪ねてライオネルは冷や汗をかく。イザベラはというと微笑みながら答えてくれた。


「それはねマケト商会限定の身分証でね。戦闘員の階級(ランク)を示しているのさ」


おぉとリューが感嘆する。一方のライオネルは内心で安堵の感情を浮かべた。マケト商会限定なら外から来た人間は知らなくても不思議じゃない。逆に尋ねたリューのお陰で怪しまれることは無い。


「ということは他にも階級があるんじゃな!どんなのが有るんじゃ?」


イザベラが微笑みながら話す。ライオネルは思う。リューの可愛く小さな姿に絆されて口が軽くなっているんじゃないかと。


「下から木・石・鉄・銅・銀・金となっていてね」


「ワシは下から二番目じゃな!……二番目か……」


肩を落とすリューにイザベラがフォローする。


「本来なら新入社員は一番下の木よ。そこから実績なり経験を積んでから昇格だけど貴方達の実力を鑑みて石にしたわ」


「じゃあワシらは特別か!」


「そうよ!」


リューとイザベラが手と手を取って踊ってる。何はともあれ怪しまれずに済みそうだとライオネルを思った。


「ライオネル。あんたはどうだい?何か質問は有る?」


「えっ?あ~そうだな」


ライオネルは頬をポリポリと掻く。特に聞きたいことは無いが話を振られた以上、何かしら聞いておかないといけない気がする。


「そういえばイザベラさん。あんたもリューと同じ魔法使いだったんだな。文字を書く魔法なんて初めて見たよ」


「確かにそうじゃな。ワシの系統とは違う魔法使いなのかの?」


「あぁ身分証のヤツかい?あれは魔法なんて大層なモンじゃないよ。私には魔力なんてモノは無いからね。コレを使ったのさ」


そう言ってイザベラは右手の手の平を見せる。身分証を書いてる時は発光して気付かなかったが、よく見ると人差し指に指輪が嵌められていた。


「それは……?」

「魔物の骨じゃな」


首を傾げるライオネルにリューが答える。


「リューちゃん正解♪魔物の骨を加工して作られたマジックアイテムでね力を込めると反応して魔力が発生するのよ!」


「へぇ初めて見た」

「そんなのが有るんじゃな」


「フフッ!これは王立魔法院で開発された、市場には出回ってない一品なのさ!」


「「ほぉ~」」


イザベラが自慢気に話し2人が感嘆詞をあげる。一瞬静かになると三人は気付いた。何やら階下が騒がしいことに。


「む?何じゃ?客でも来たのか?」

「それにしては騒がし過ぎないか?」


ライオネルとリューが来訪者?に疑問を持つとイザベラはこめかみを押さえる。


「娘だ」


「なぬ!?イザベラには娘がおったのか!」


「まぁね三人の娘を産んでるよ。この声は三女のエリカだ。やれやれ……またカールと喧嘩してるのかねぇ」


イザベラがため息を吐く。


三.

ライオネル達が階下に降りるとカールとカールと同い年くらいの女性が口喧嘩をしていた。その勢いたるやまるで猛犬のように互いに顔を近づけて吠えていた。


「カールパイセン。これは何事かの?」


リューの呼ぶ声に喧嘩を中断して振り向くカール。リューの呼び方に少し驚いた表情しつつも後ろにいるエリカを水に親指を向けて苦笑いをする。


「パ、パイセン!?あぁリューさんか。実はなエリカの奴が突っ掛かってきて……」


「突っ掛かるって何よ!私はあんたにアドバイスしてあげてるだけだってのに!それを無下にして!」


「だからそれが余計なことだと言ってるんだよ!だいたい掃除はもう終わったってのにあれこれ言ってきやがって!」


「なにさ!」

「なにを!」


再び口喧嘩をするカールとエリカ。互いに顔を近づけて、というより額をくっつけて言い争いをしている様にライオネルは逆に仲が良いのではと感じた。それを指摘すると……。


「「ちがう!!」」


と2人が口を揃えて怒鳴る様にライオネルはやはり仲が良いのではと訝しむが口に出すと新たな火種となって収拾が着かなくなると感じたライオネルは強引に自己紹介をした。


「ライオネルだ。本日付でマケト商会に戦闘員として入社することになった。よろしく頼む」


「リューじゃ。以下同文」


「エリカよ。マケト商会で事務員をしているわ。カールから聞いたけど母を盗賊から助けてくださったのね。感謝するわ」


頭を下げるエリカにライオネルは昔を思い出した。かつて自分が勇者として活動していた初期の頃、魔族を倒すと市民は感謝の言葉を述べていたことに。もっとも一年経つ頃には誰も何も言わなくなっていたが。


そんなことを思い出しているとエリカが一枚の紙をカールに渡した。


「なんだこれは?」


「依頼されてる任務よ。『町中を警邏してほしい』だってさ。暇なら町案内も兼ねて行ってきたら?」


「暇じゃねぇよ!……まぁだが2人にはこの町のことを知ってほしいし、この任務受けるよ」


「じゃ頼んだわよ」


「ありがとうなエリカ」


「ふぇ!?」


唐突な感謝の言葉に驚くエリカの横を通り抜け扉の前に立ったカールがライオネル達を呼ぶ。


「さぁ行こうぜ!」  


カールの表情は扉から射し込む光でよく見えなかった。しかし顔の色が赤くなっていることはかろうじて視認できた。


ライオネル達はカールの後に続いてマケト商会を後にした。

備忘録

名前・カール

身長・170cm

年齢・18歳

入社一年目の新人。最近ようやく壁外任務を任せてもらえるようになった。一番の下っ端として雑用ばかりだったがライオネル達が入社してきたことにより先輩と呼ばれ舞い上がる。ライオネル達に掃除などの雑用を任せた今も時々手伝いにくる。


名前・エリカ

身長・160cm

年齢・18歳

イザベラの娘。マケト商会で事務員として働いている。カールと毎朝のように口喧嘩をするのが日課。この世界において18歳は結婚適齢期で行き遅れないようにイザベラから数多くの見合いを勧められているが全て断っている。

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