第5話・ようこそマケト商会へ
備忘録・年齢
ライオネル28歳
リュー150歳(人間換算で30歳)
イザベラ42歳
一.
ライオネル一行は王都に辿り着いた。しかし直ぐに入城できる訳ではない。まずは城門へ行き門番を突破しないといけないからだ。
城門付近は交易・旅行問わず馬車で混雑しており幸いにして尋問されるまでに時間ができた。ライオネルは顔が利くイザベラに御者をしてもらおうと提案するがイザベラは少し考え断った。身分証を保有しているイザベラが担当すれば手間が省けるじゃないかとライオネルは問うたがイザベラの考えは違った。
イザベラは答える。盗賊の拠点でも言われていた事だがイザベラは偉い立場にいる。それこそ城門を顔パスで通ることが出来るくらいに。そんな偉い人が部下がいるにも関わらず自ら御者席に座って手綱を握っている。それを見た門番は訝しるだろうと。
「だから私は荷台の方で座っていた方が都合良いのさ。対応はライオネル。アンタがしな」
「ちょっと待てよ!身分証も持ってないのに突破できる気がしないぞ!」
「まぁ正直これは試験みたいなもんさ」
「し、試験!?なんでそんな……」
「仕事をする上でアンタをいずれは単独で仕事をさせようと思っている。世間知らずの田舎者が善人悪人入り雑じる王都でもやっていけるかどうか確かめてやるよ」
「だとしても今言うなよ!俺にだって準備ってのが……」
「しょうがないさね今思い付いたんだから。さぁ前の馬車が進んだよ。後ろの迷惑だ。さっさと前に行きな」
───アンコウのくせに食えない女だ
ライオネルは内心でそう毒づきながら馬車を前に進めた。リューの声援を背中に受けつつ前を見ると4人の門番がいる。2人は城門のアーチ下通路で馬車の強行を防ぐ為に拒馬を置いている。
恰幅の良い男が拒馬の門番2人に指示をしつつ残った槍を持った門番を馬車に向かわせている。指示を出しているこの門番は他とは違い腕章を着けていることから城門の指揮官なのだろう。槍を持った門番が近づきライオネルの前に突き出す。
「今すぐ降りて身分証を提示しろ!」
門番の威圧的な態度にライオネルはため息をバレない範囲で吐く。声は勇ましいが槍先が震えている。
───この門番……新入りだな
威圧的な態度を取る人間には2つの種類が存在する。1つは相手を支配したいタイプ。もう1つは相手からの攻撃を恐れているタイプ。この門番は後者だ。
この門番は不安を抱えている。門番という危険な職業。しかも王都という重要拠点の警備を新人が受け持つなんてさぞ心理的重圧が掛かるだろう。攻撃的な態度も仕方ないとライオネルは思う。
───そんな新人に申し訳ないがこちらも生活が掛かっているので……すまんね
内心で軽く謝罪しつつライオネルは新人門番を見つめ勢いよく御者席から降りる。勢いよく降りたことで新人門番は驚き1歩後ろに下がる。ライオネルの急な行動に怒鳴り声をあげようとするが先手を制したのはライオネルだった。
「失礼だぞ貴様!!この馬車に誰が乗っておられると心得る!!」
怒鳴るライオネルに新人は後退り顔を横に向けて上官に後ろ目で助けを乞う。
「もういい!!上官と話したい!!」
「私が上官です。いったいどなたが乗っていると言うんですかな?」
腕章を着けた門番が近づいてくる。そして新人の肩を掴んで後ろに下がらせた。この男は恰幅が良い。しかし太ってはいるが無駄の無い動き。新人とは違い心に余裕がある。
「まずは身分証を。貴方のだけでよろしいので」
そう言って手を差し出した。
───厄介だ。この男はマニュアル型だ
典型的なマニュアル型はよく臨機応変に弱いと揶揄されるが決して悪い訳ではない。規律を厳格に守り型に沿っているからこそ間違いに気付きやすい特徴を持っている。犯罪者から見れば門番に置いてほしくない人材である。
───この上官を突破するにはハッタリしかない。真面目な労働者に心苦しいが夫婦の生活の為だ
そんな優秀な門番の手をライオネルは一瞥すると身分証を取り出すことなく親指を立てて馬車に指差す。
「あの紋章が見えないのか?」
上官がライオネルが指差した方を見ると『♡マークの中に∞』の紋章が馬車の幌の部分に書かれていた。王都に向かう道中、イザベラから聞いたマケト商会の紋章である。
イザベラの話を聞くにマケト商会の影響力は王都で絶大と聞いたが本当に影響力が高いのか。高いとしても行政を動かせるものかライオネルは悩んだが上官の目が泳いでいるのを見てイザベラの言が正しいと確信した。
この上官は規律に厳格だ。しかし社会常識を知らないということは無い。むしろ規律=常識を守るからこそ社会常識から外れた行動を取ることはできない。
「どなたが乗っていると貴官は言ったな。数日前の退城記録に記載されているはずだ。さる御方が退城したと」
「も、もしや……」
「あぁそうだ。『上』の御方が乗っている。『一番上』だ」
ライオネルの言葉を聞いて上官の呼吸が少し早くなる。そして直ぐに拒馬を担当する門番らに顔を向けると大声で叫ぶ。
「おいッ!今すぐどけろッ!!」
「「は、はいッ!!」」
怒鳴られた門番らは困惑した表情を浮かべるが直ぐに命令を実行し数秒で拒馬は門外へ置かれた。退かれたのを確認すると上官は頭を下げて手を門へ向けた。
「どうぞ!」
「理解に感謝する」
真面目な労働者にパワハラをしたことに罪悪感を抱きつつライオネル一行は入城することに成功した。
二.
城下町の中に入ると目の前にマケト商会の道筋が書かれた看板を見つけた。ライオネルはそれに従って馬を歩かせているとイザベラが馬車の荷台からライオネルに声を掛けた。
「よくやったよ!さすが私が見込んだだけはある!」
「……あぁ」
「なんだいしょぼくれた声をして。落ち込んでいるのかい」
「非の無い奴にあんな威圧的な態度すればそりゃ落ち込むさ」
「アンタが使える奴って証明する為なんさ。アンタは悪くないよ。まぁアンタの罪悪感を無くすために後であの門番より偉い奴に掛け合っておこう。次会う時は階級が1つ上がってるだろうさね」
そんなイザベラの返答にライオネルは短く『ああ』とだけ返答した。会話を終わらせるとライオネルを呼ぶ声が聞こえた。
<あーテステス。聞こえるかのライオネル>
「なんか言ったか?」
「なんも言ってないよ」
違和感を抱きつつ馬車の方を振り向いてライオネルが訊ねるがイザベラが答える。首を傾げライオネルが正面に顔を向けると再び声が聴こえた。
<聞こえるかのライオネル。聞こえたら頭の中で返答するのじゃ>
再び聞かれてライオネルは違和感に気づいた。この可愛らしい声は耳から聴こえた訳でなく脳内に直接響いているのだ、と。
<この可愛らしい声。もしやリューか?>
<そうじゃ干渉魔法で直接ライオネルの脳内に語りかけているのじゃ>
<そうか良かった。てっきりリューと長く会話してないから幻聴が聴こえたと思ったよ>
<長くって……そんな時間経ってないじゃろ>
<個人的には二週間くらい話してないと思ったんだ>
<フフッなんじゃそれメタじゃの>
<?にしてもそんな魔法が使えるなんて知らなかったよ……魔法が使えるということは魔力が回復したんだね>
<食事して一晩寝れば全回復じゃ。……ライオネルよ。さっきのイザベラの話を聞いていたが……なんじゃヌシ落ち込んでるのか。フフッ、ヌシらしくない>
<笑いながら言うなよ。まぁ勇者を辞めたとはいえ悪人になった訳じゃないからな。あんな上からの物言いは気が引けるよ>
<ほぉそういうものなのか。まぁこの世界に労基は無いし訴えられることは無いじゃろうからそんな心配はしなくてもよいじゃろ>
<ろうき……なんだそれ?>
<……にしても王都というのは凄いのぉ。魔王城よりかは低いが高い建物が沢山じゃ>
<まぁ確かにそうだな。50年前より発展しているよ。まぁ50年前の王都のことはあまり覚えていないが>
改めてライオネルは王都を見る。目につく建物全てが五階建ての建物ばかり。そうじゃない建物も立派な石造りの建物だ。詳しくないライオネルでも発展してるのが分かる。
<なんじゃ勇者のくせに王都のことは知らないのか>
<王都なんて勇者決定戦の時と新しい仲間を補充する時だけで基本は立ち寄らなかった。魔族を倒した時とかの報告も手紙で終わらせてたしな>
<そういうもんなのか、勇者とは>
<たぶんこれは俺だけだろう。先代勇者は魔族を1人倒す度に王都に凱旋していたと聞いてるからな。俺はあまり王都に好かれていない>
<まぁヌシは変わり者じゃからのぉ。そう思われても不思議ではない>
<俺が変だって!?何を根拠に>
<だってそうじゃろ。勇者辞めて魔王と夫婦になるなんて正気じゃ思いつかんわ>
<むぅ>
正論にライオネルは言い返せれなかった。
<まぁ勇者と夫婦になる魔王も正気じゃないがの>
上ずった声で答えるリューにライオネルは通信魔法越しでも彼女が照れていることが分かる。ライオネルは改めて思いやりのある可愛らしい妻を持てたことに神に感謝した。
そうして馬車を走らせていると馬が止まる。ライオネルは手綱を動かして馬を歩かせようとするが馬は1歩も動かない。すると荷台からイザベラが飛び出した。
「くぅ~ようやく着いたさね!アンタらも降りな!」
御者席からライオネル、荷台からリューが降りるとイザベラは立派な屋敷の前に立ち2人の正面に身体を向ける。
「ようこそマケト商会へ。歓迎するよ」
イザベラは早速仕事だと言わんばかりに馬車の荷物をライオネルとリューに持たせて中に招き入れる。人使いの荒さに改めて辟易するライオネルだった。




