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第3話・救出

一.

盗賊達は洞窟を再利用した拠点、その中で一番の広さを持つ部屋を広間として利用している。そんな広間で盗賊団達は宴会をしていた。その数は10人程。皆一様に悪事を働いたとは思えない程の満足感のある顔をしていた。


「しっかしよぉ。こうも上手くいくとは思わなかったぜ」


「んだな。こんな順調にいけるなんて農村に居た時には思わなかったずら」


「……おい。そのだな、とか、ずらっつーのは止めろと言っただろ」


「す、すまねぇっす」


男が頭を下げる。雰囲気が悪くなり頭を下げられた男((かしら)と呼ばれている)が苦虫を噛み潰したような顔をすると他の盗賊達に向かって怒鳴るかの勢いで叫ぶ。


「俺達は村と畑と家族を捨てて盗賊に成り下がった。もうこれ以上は下がらねぇ!俺たちゃ盗賊団としてここから成り上がっていくぞ!!」


「「「おおッ!!!!」」」


頭の叫びに雰囲気が明るくなったのを確認すると近くに居た部下に命じた。


「そうだ。あの捕らえた女を連れてこい」


「えっ?どうするおつもりで?」


「やつの商会に身代金を請求する前にな……『味見』をしておこうと思う」


下卑た顔をする頭に部下は目を見開き驚いた顔をする。


「あんな口がでかいアンコウみたいな女とヤるんすか!?」


「うるせーッ!さっさと連れてこい!」


頭は部下の尻を蹴りあげ女を軟禁させている部屋に向かわせた。どよめく盗賊団に頭が一喝する。


「いいかお前ら!ここからどんな悪事も躊躇わずこなしていくんだ。テメェらもあの女を抱いて覚悟を決めろ!!」


「「「えぇーッ!!!!」」」


悲鳴をあげる盗賊団を横目に頭は女が居る部屋の方向を見てため息を吐く。頭の脳内にはあのアンコウ似の女を抱けるビジョンが見いだせなかった。


───酒に酔った勢いでとんでもねぇことを口走っちまった……くそッ!ここでヤれなければ盗賊団の結束にもヒビが入るだろうし……もうちょっとマシなこと言えば良かったッ!


自らの浅はかな考えに後悔している際にふと気付いた。先程命じた部下が来るのがあまりに遅いことに。


この拠点は洞窟を簡便に再利用したものなので拠点としては手狭で部屋数も少なく、盗賊団が宴会をしている広間と入り口付近の通路横に小さな穴を利用した倉庫くらいしかない。


倉庫の中で軟禁している女も縄で手と足を縛られている。そんな女を連れてくるだけなら3分も掛からないだろう。例え、女が身の不幸を察して必死の抵抗をし運び出すのが困難だとしてもその時は仲間を呼びに戻れば良いだけだ。


───なぜ来ない?


頭は嫌な予感をして近くに居た部下に様子を見てくる様に命じようとする。しかし口を開く前に入り口から飛来する物を見て言葉を飲み込んだ。


それは女を連れてくるよう命じた部下の生首だった。


「ひっ!なんだよこれ!?」

「お、おいジョン!なんでこんな姿に!?」


盗賊団がざわめく中、頭は何も喋らず洞窟の入り口を見つめていた。それは上に立つ者としての立場、年長者としての経験というものではなくむしろ恐怖による硬直に等しかった。


入り口通路の陰から人影が映り、やがて広間の松明に照らされ人影の招待を映す。


「やあ。お前らに縁や所縁は無いが消えてもらう」


腰に差してある刀に手を置いて暗闇からライオネルが現れた。


二.

ライオネルが拠点の扉を開けると悪そうな顔をしている男が目の前に立っていた。後ろ姿しか見ていないから顔は知らぬが女性が人質であることは知っている。


男が肺に空気を溜め叫ぼうとするのをライオネルが見抜くと素早く男の喉を両の手で掴む。呼吸が出来ずくぐもった音しか男は出せない。ライオネルは掴んでいる両手に力を込める。天性の怪力で雑巾絞りの要領で手を捻ると男の首は皮膚、筋肉、頸椎、血管の順でブチブチと音を立てて千切れ胴体と頭部は永遠に分かたれた。


ライオネルは手に付いた血を首無しの胴体が着ている服で拭い苦痛を訴える表情をする頭部を掴む。広間に向けて歩く途中、倉庫と書かれた扉に耳を当てると1人分の動く音が聴こえる。


───1人だけということは恐らく人質だろう。動いているし無事なら放置で良いだろう。


扉から耳を離し広間に足を向けると持っていた頭部を投げ入れる。一瞬の静寂から困惑と悲鳴の声が聴こえるのを確認しライオネルは足を進め広間に入る。


本来、悪党に掛ける礼儀なんて物は持ち合わせていないが今回の主目的は寝床の確保である。見方によっては住処を奪うライオネルが悪党に見えないことはない。ならば、とせめてもの礼儀としてライオネルは前口上を述べる。


広間の奥にいる(カシラ)らしき白髪混じりの男が叫ぶと入り口通路付近にいた4人の男達が剣を振り上げて迫ってくる。それを確認するやライオネルは腰を落とし刀の柄を掴む。


───今アイツは剣を抜いたのか?


一瞬だった。少なくともカシラにはそう感じた。4人同時で斬りかかれば負けないだろうと思っていたがライオネルが右下から左上へと剣を抜ききると4人の部下の上半身は重力に従い下半身から崩れ落ちた。


居合術。異世界日ノ本で使われる武術の1つ。初代勇者タメトモが洞窟や屋内などでも刀を振るえるよう開発したのが始まりとされている。


ライオネルは残った下半身を避けて広間の中央に歩を進める。カシラ含め残り5人を見据えるとふと口を開き話し始めた。


「体感時間は一瞬とはいえ50年振りの抜刀。腕が鈍ってないかと心配したが杞憂だったな」


「ご、50年?何の話だ……?」


「そういえば聞きたかったんだけどリューって魔族らしくないな。角が無いと人間と見分けがつかないよ」


「だから何の話なんだよ!!」


ライオネルの脈絡のない意味不明な話にカシラは困惑をするが通路からもう1人の人物が現れたことで会話の相手が自分達ではないことに気付いた。


「まぁこれは親の遺伝じゃろうな。基本的に両親は人間にそっくりじゃったが父は手が4本、母は目が3つ有った。ワシは父から目を2つ、母から手を2本受け継いで今の体が在るんじゃ」


「そうなんだ!」


左から右に横一文字──残り4人。


「なんじゃ人にそっくりなのが不服かの?角を取った時も大層驚いていたし……」


リューが悲し気にうつ向く。自らの言動が彼女を傷つけたことに気付き盗賊達を横目に斬りつつ謝罪する。


「ゴメン!勘違いさせるようなことを言って……。ただ興味本位でつい……。だけど信じてほしい!俺はリューが好きだ!!角が有ろうと肌が紫色だろうと関係ない!!」


唐竹割り──残り3人。


「フフ……肌が紫色ってなんじゃ唐突に。変なもんだすでない」


「そ、それは……俺もよく分からない」


右下から左上に逆袈裟斬り──残り2人。


「ただこれだけは分かる。角が無くなった分だけリューの髪がより綺麗に見えるって。俺の黒ずんだ金髪とは違って透き通るかのような白みがかった金髪。絵画!芸術だよ!天使のモデルはリューに違いない!!」


「ちょっ褒めすぎやん……」


顔全体を紅くするリューにライオネルは自身の発言が間違えていないことを確信する。そして内心で予言をした。いずれリューの笑顔は万病に効くようになると。


左上から右下に袈裟斬り──残り1人。


「ライオネル!」


「なんだい?」


「ワシもライオネルの蜂蜜の様な金髪好きじゃよ!!」


突き!!──必要以上に踏み込んだ突きがカシラの心臓を抉りとる。それはまるでライオネルが受けた衝撃を代弁するかのようだった。


盗賊団を全滅させたライオネルは踵を返しリューの元へ直行。溢れる好きを静めるにはリューにキスをしまくることで抑えるしかない。


「ちょっ!やめッ!くすぐった!」


無我夢中──今のライオネルに相応しい言葉である。リューもリューで口ではやめろと言っておきながら一切の抵抗もせずライオネルを受け入れる。彼女には聖母の素質があるのかもしれない。


その時だった。2人の後方。入り口通路のほうから<ガタッ>と音がしてライオネルは動きを止める。先程の幸せそうな顔から一瞬で表情を消した。目は見開き通路を見る。


「そういえば倉庫に女がおるんじゃったの」


「あぁ。たぶん無事だと思うが確認しておこう。伏兵が居ないとも限らない」


ライオネルが倉庫の扉の横に立つと扉を少しだけ開ける。飛び出してくる敵が居ないのを確認すると倉庫の中に顔だけを入れて覗く。見ると口の大きな女性が手を縛られて寝転がされていた。


「これはご婦人。SMプレイの最中、お楽しみのところ失礼しますが──」

「捕まっとんのじゃいッ!!!!」


婦人に怪我は無く無事そうだ。


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