第11話
「……なるほど、確かに一定の話として聞くべきでしょう」
淹れたてのコーヒーほどうまいものはない、と俺は思っている。
だからこそこの香り、味、舌からのどへと到達する液体のすべての感覚を俺は味わうことにしている。
しかし、これも全て作り物だとしたら。
今、この俺の目の前の彼女が話していることは、つまりそういうことだ。
「脳はあくまで脳細胞同士の電気信号によってのみ融通して、我々人間を成り立たせている。この意識や魂といったものについては何一つわかっていない。それはわかっています」
だがしかし、と俺は彼女へと続ける。
コーヒーは素晴らしくいい味をしている。
すくなくともここニューヨークのコーヒーはどこぞの泥水みたいなものよりか味がわかる店員が売ってくれているようだ。
俺はブラックで、その一方で彼女のために角砂糖2つと、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
「このまま冷たい牛乳でいいですか?」
「ええ、大丈夫です」
スチームノズルなんて気のいいものはないから、あくまでもそのまま放り入れるだけだ。
「……少なくとも、それに対して俺は何かしらの回答を持ち合わせていません。だからこれについておれがどうこうという資格はないと思っています。何かしらの知識を得て知恵を身に着けてから、改めて回答したいと思いますが、それでいいでしょうか」
角砂糖2個を砂糖壺からミニトングを使ってそっと滑り込ませてから、牛乳をタプンと入れた。
一瞬で渦巻のような牛乳の筋ができ、それがコーヒーと合わさり、コーヒー濃いめのカフェオレが出来上がる。
「今のところは。それで構いません、ですが、必ずいつの日にか、ちゃんとした回答が欲しいのです」
ありがとう、と彼女は言いながら俺が用意したコーヒーを受け取った。
「ええ、わかりました。この作戦が終わったころには、何かしらの回答ができているとは思います。ですが、保証はしかねますよ」
「わかっていますよ」
ようやく笑みを彼女は見せた。




