第9話
「私服で失礼を。しかし、ブリーフィング後に何の用なのでしょうか」
「少し聞きたいことがありまして」
彼女を部屋へと招き入れると、コーヒーを淹れる。
「砂糖と牛乳は?」
「砂糖2つ、牛乳は多めで」
ありがとうと声をかけられ、俺は彼女を用意した椅子に座らせる。
制服は壁際のクローゼットの中に仕舞われて、見られてまずいような機密書類だって今は持ち合わせていない。
流石にペーパーフィルター用に挽いてもらったブレンドコーヒーを大さじ2杯、フィルターへと入れる。
「聞きたいこと?」
俺は聞き返しながら、瞬間湯沸かし器でお湯を沸かしていた。
「ええ、今回の作戦について、どう思われるでしょうか」
30秒くらいでお湯は沸く。
コンセントを外し、フィルターへと細長い注ぎ口から慎重に湯を運ぶ。
「そうですね。率直に言えば荒唐無稽な話だな、と」
注ぎ口からこぼれゆくお湯は、フィルターの中にあるコーヒを湿らせていく。
ただ今は我慢だ。
香りを嗅ぐ、色が変わり、それが一体となってフィルターの中では今か今かと豆が踊り出す。
「その真意は?」
彼女に聞かれた。
しっかりと蒸らした豆に、反時計回りに3周、しっかりとお湯をかけていく。
「実際、科学は十分に発達をしているといえるでしょう。今の技術水準なら、きっと人類丸ごとどこかで再起することだって可能だ。しかしながら、その技術の粋を集めてデータ保存するだなんて。それも人間の意識をコンピュータ上で再現をするという話だ。到底信じることはできませんよ」
豆に水泳を教えている間、俺は持論をぶつける。
「ではお聞きします。今のこの世界がすでにデータの世界だ、と言われたら、あなたはどうしますか?」
ようやく彼女の方へと俺は目をやった。
彼女は本気だ、それはその眼差しからも明らかだった。




