契約
新作書かせていただきました。作品の出来はどうかわかりませんが、感想やアドバイスなどしていただけると嬉しいです!
「おい、こいつまた教科書忘れてるぜ!ほんと頭ワリイんだな!」
誰かの声と共に、教科書をビリビリと破く音が聞こえた。俺は身を小さくすくめた。背中に感じる冷ややかな視線。授業の内容は全く頭に入ってこなかった。当然か。だってあの教科書は俺のなのだから。
机の引き出しの中には、いたずら書きされたプリントと何度も折りたたまれた紙。
どちらにも「いなくなれ」だとか「死ね」といったことが書いてあった。あいつらのせいで、俺の心は毎日徐々に壊れていった。
「なに黙ってんだよ。無視か?おい!」
いじめの主犯が俺の机を蹴飛ばし、体がぐらつく。誰も止めようとしない。先生でさえ、見て見ぬふりを続けていた。
「……なんで俺ばっかり……」
小さく呟いた俺の声は、誰にも届かずただ雨音にかき消されるだけだった。
放課後、帰る準備をしていると机の中にまた一枚の紙切れが入っていた。
「放課後、校舎裏にこい」
……またか。またいつもみたいに殴られるんだろうな。正直、もう限界だ。これ以上俺が壊されるくらいなら、俺がアイツらを壊してやる。今までさんざんやられてきたんだ。一回やり返すくらい、別にいいよな。
誰とも目を合わせず、教室を出て校舎裏へ向かった。廊下を歩く自分の足音が以上に大きく感じた。待っていたのは教科書を破ったやつとそいつの取り巻きだった。
校舎裏に夕日は届かず、もうすでに薄暗くなっていた。
「お、来た来た。お利口さんじゃーん」
にやりと笑って肩に手を置いてきたこいつは瀬戸。俺の教科書を破り、机を蹴り、プリントやノートに落書きを散々してきた、いじめの主犯格だ。そしてこいつらの後ろにいるタバコを吸ってる二人も俺のいじめに加担してきたやつらだ。
「今日ちょっと話があってさ~、わかるよな?」
俺は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。
「お前最近、誰かに告げ口したろ?」
瀬戸の声が低くなり、怒気がにじみ出る。
「……してない」
ようやく絞り出した声は思いのほかかすれていた。
「嘘つくんじゃねぇよ!!」
瀬戸は怒りに任せ、俺を蹴り飛ばした。壁にぶつかった衝撃で、意識が飛びかけた。痛い、怖い。もしかしたら死ぬかもしれない。そういう恐怖が俺を襲った。だけど、どうしてか体は言う事を聞いてくれる。
もう、覚悟はした。
「俺さぁ、聞いちゃったんだよね。お前が先生にいじめのこと相談してたって。お前と違って友達いっぱいいるからさー、そういうの嫌でも耳に入ってきちゃうんだよね」
「……だから、誤解だって言ってんだろ!」
声を荒げ、徹底的に反抗する。瀬戸の目つきが変わり、完全にイラついているのがわかる。
「こっちが聞いたって言ってんだ、お前は黙って認めてりゃいいんだよ!」
瀬戸がもう一度、俺を思い切り蹴ろうと足を上げ、蹴りが俺に届く瞬間。俺はバッグからナイフを取り出し切っ先を足に向けた。もう止まることがない瀬戸の足は勢いよくナイフに衝突し、足首をナイフが貫通した。
瀬戸は声を上げることもなく、足を抑えうずくまった。
「お前、瀬戸に何した!」
後ろで腕を組んでタバコを吸っていた奴らが声を荒げ殴りかかってきた。なのになぜだろう、全く怖くなかった。毎日のように殴られていた俺からしたら、ただパンチを躱すことなんて造作もなかった。
「おい、大丈夫か!ヒール、ヒール!」
取り巻きの一人が大急ぎで瀬戸を回復しようとしていた。でも無駄だ。俺は殴りかかってきたやつを無視してヒーラーの首筋にナイフを突き刺した。
「お前!いい加減にしろ!」
怒りに任せまた突進してきた。俺はそれを躱し、ナイフを投げて背中に刺した。
「いってぇな……」
「おい翼……お前、ぜってぇ許さねえからな。覚えとけよ」
覚えとけ?何を言ってるんだろうこいつらは。
「お前らがさんざん俺にしてきたこと、忘れたのか?教科書を破り、校舎裏に連れてきては殴り蹴り、プリントには落書き。机はぼろぼろにされてるし、死ねとかいなくなれといった内容の紙まで。ここまでしておきながら、次があるとまだ思ってるのか?どうせ見逃しても、お前らはまた俺に手を出してくる。
だから、ここで終わりにするよ」
瀬戸はまだ生きているし、大柄な脳筋もそこまでダメージは深くない。だから、一撃で仕留める。
「は、ちょッと待てよ翼。俺たち友達だろ?なぁ、やめようぜこんなこと」
……この期に及んで命乞いをしてくるのか。もう面倒だ、殺そう。
俺がいじめられるようになってから、いつか復讐してやると思い毎日必死に考え鍛えた魔法。
「炎魔法 黒牙炎刃」
そう唱えると、俺の右手には黒く燃え盛る牙のような形をした刀が現れた。
「この炎はお前らを骨まで焼き尽くす。じゃあな、クズ共」
「ちょ、まってくれ!」
俺は瀬戸の静止を聞かずそのまま刀を一振りした。腕を切り落とした時についた黒炎は瞬く間に瀬戸を覆い、燃やし尽くした。その場に残ったのは灰だけだった。
「お前も、こうなりたくなかったらさっさと消えろよ」
「ふ……ふざけんじゃねぇぇぇ!!」
最後に残っていた取り巻きは学んだ様子もなく、切れて襲い掛かってきた。
「もういい」
躊躇うことなく首を撥ね、その場を去った。
……なんだか疲れたな。これで復讐は果たしたのに、何にも感じない。人を殺したという罪悪感も、復讐を果たした満足感も。心はずっと空っぽのままだった。
でも、これでやっと終われる。
俺はそのまま校舎に戻り、屋上へと向かった。俺をいじめたやつらを殺し、俺も死ぬ予定だ。
屋上につくと、いつになく夕日がきれいに見えた。なんだかすがすがしい気持ちになった。これで、心置きなく死ねる。
そう思ったその時、何かが素早く通り過ぎた。目の前の夕日を横切るように。俺はその何かを目で追おうと、横を見た。そこにいたのは、黒いカラスのような羽と黒く禍々しい角を持った一人の少年だった。
「よー、同族」
「……だれ?」
顔に見覚えもなかったし、何より悪魔に友達はいない。一度見たら絶対に忘れないと言い切れるほどの美形だし。
「お前、何人殺した?」
「……3人だよ。俺をいじめてきた奴らに復讐したんだ。そして、俺も今から死ぬところ」
もうなんかどうでもよくなってたし、隠す必要もないと思ってたから全部しゃべっちゃったけど、だめだったかな。まぁもう手遅れか。
「そうか、3人か。じゃーまだ何とかなるな。ちょっと待ってろ」
そういうとその悪魔みたいな少年……悪魔でいいか。そいつは下に行って、何やら魔法をかけてこっちに戻ってきた。
「お前を人殺しにするわけにはいかなくてな。悪いが、生き返らせてやったよ」
「なんでそんなことするんだ?ああいうやつらはいないほうがいいだろ。ああいうのがいると、またいじめられる人が出てくるんだぞ」
「お前は裁判官かよ。違うだろ?裁くのは魚だけにしとけ」
何上手いこと言ってんだよって突っ込みたくなったが、そんな気力は残っていなかった。
俺はあいつらのせいですべて失ったのに、どうして。家族も、金も、幼馴染も。全部全部、失ったのに。
「結局、何の用なんだよ」
「あぁ、悪い。本題に入ろうか。お前、俺と契約しないか?」