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第八 全(全網羅) 汎神は見えぬ独神

 狂裂の神イゐユ、 龍肯の神イリューシュ、 未遂不收の神†ゐを†、 非之神あ(啊)。


 そして、最後が、全(全網羅)の神⚡️ゑえうおん⚡️であった。白虎に()る。


 全之神は、眞の世界にいた。

 それは、到底、人の考え及ばないような途方もない、ありとしあらゆるかたちの世界全て一切を統合したよりも、遙か遙かに巨大な無限世界であったが、それはその途方もない無法滅法な巨大強大強壮強烈ゆえ、銀河系の中の太陽系の中の地球の日本の東照宮の石垣の雨の降った五月の鮮やかな緑の苔であり、レストランのテーブルに置かれたワインのコルクであり、東京のアスファルトの端っこの石ころの小さな窪みでしかない。もしくは、どこかの田舎の地蔵の色褪せた赤い前掛けだけでしかない。スコットランドの野に咲くヒースの花弁だけでしかない。それだけでしかない。

  

 その真奥にある、聖の聖なる儼山が連なる地域。大山脈地帯の奥の奥なる奥にて燠なる超弩級の巨都。

 その都の中枢に聳える大神殿、神殿内の無限数の神々が結集する大聖堂の中央に設置された巨大な水盤。

 それは大いなる大海洋であった。大宇宙が無量大数の無量大数乗も入るほどの巨大な紺碧の海。それを突き走る船は、黄金と象牙と螺鈿と銀と瑠璃と金剛石と深紅の珊瑚とで構築されたシルクの帆持つ帆船。

 大銀河団さえ、羽虫ほどもない。超弩級の神の舟。

 海を渡っている。

 天穹には雲の切れ間から碧い眸。


 潮風に靡く、倭の姫のような真っ直ぐな長き黒髪は絹のような艶、切れ長で吊り上がり細く涼やかな眼差しの漆黒の双眸、紫の薄い唇、白くて長いトーガを纏っている。トーガは裾を十数メートルも引きずった。


 彼女は随行者として世界聖齊天帝皇神インを随えていた。彼は荘厳な貫頭衣を纏っている。金糸の刺繍が縫い込まれたクリムゾン・レッドと深い紺青の縁飾り。


 インは補佐官、かつ、側近として宇宙聖齊天帝皇神アンを控えさせていた。アンは学僧の姿。

 アンは秘書官として超銀河団を統治する聖齊天帝皇神ウイを遵え、ウイは銀河団を統治する聖天帝皇神エアを護衛とし、鎧兜のエアは従者として銀河系の聖皇帝皇神ヲオンを、ヲオンは騎士の補佐役として太陽系の聖皇帝神ジューヌを連れ、ジューヌは化粧補助として地球の聖齊天神イゼヤを従えていた。


「イゼヤよ」

 武装した女神ジューヌは呼ぶ。

 革鎧に角ある兜を被った少女神イゼヤは真紅のマントを靡かせ、あらわれる。

「ここに」

「お前に命ずる。ここはお前の統治する星だ。四聖を探し、伝言を伝えよ」

「承知仕りました」


 彼らは皆、汎神である。

 周知のとおり汎神とは全てを包含する神で、一切は神の一部となる。 現実何もかもは神として同一であるとする。

 汎神論とはすべての存在と神が同一であるという見解である。


 全てであるとは、網羅しないことがないということだ。

 それは網羅しないことを嫌忌しない。網羅しないということ自体ですらある。

 それは一部分でしかないことを遺漏しない。漏れ落とさない。

 全網羅ではなく、非全網羅でもなく、一部分のみでしかないことを網羅する。それだけを網羅する。


 この大矛盾は狂気であり、一貫性がなく、無茶苦茶であり、自由過ぎる奔放であり、無罣礙解放であり、狂裂であり、全肯定であり、未遂不收でしかなく、全否定に通ずる。


「我ら五聖は同一であり、畢竟は、究窮極の最眞奥義たる眞究竟眞實義の神、彝ヰ啊(いゐあ)ゑえ烏乎甕(うをお)である」

 姫のごとき⚡️ゑえうおん⚡️は音声(おんじょう)する、

「それゆえ、全ては成就されており、不生不滅。

 永遠に大勝利であって、黄金に満ちている。完全に円満で、歓びと笑いと幸福とに満ち満ちている。全て完成され、部分のない円環、他者のない球体、全網羅である。自由狂奔裂。

 あゝ、想えよ。

 幸福の極み。これぞ求べき大義の全て。愚かな人間はこれを知らぬ。生きる資格なき者どもは。正しい価値を知らず、正しい価値に見向きもせず、永劫の地獄に堕ちる」

 美しき神は溜息する。その憂いの美しさ。

「民はかつて我に言った。『わたくしどもは神のお創りになられたままに生きているだけです。もし、そういう人をお望みであったなら、万能の神よ、あなた様はそのようにお創りになれたはずです。このように創っておいて、これを罰するは矛盾です」

「言葉に過ぎぬ。理窟でしかない。

 お前の言うことは正しい。神は正しくないことを網羅する。お前の持つ概念は概念に過ぎない。一切皆空とは、無空を言っていない。空とは全である」

「けれど、納得できません。あなた様のお創りになられたままに」

 ⚡️ゑえうおん⚡️は莞爾と眩く微笑し、

「善哉。

 究極の真理。アタラクシアἈταραξία、最終の解脱である阿耨多羅(あのくたら)三藐三菩提(さんみゃくさんぼだい)、完全なる静寂の死、無余依涅槃(むよえねはん)


 太陽のごとき光の麒麟に跨って、イゼヤは地球の天空を駈け廻った。霓色の痕跡を残しながら。

 森の道をイゐユが歩くのを見た。着地し、礼拝する。

「偉大なる狂裂の神に礼奉ります。

 私は世界聖齊天帝皇神イン様の補佐官であらせられる宇宙聖齊天帝皇神アン様の秘書官にして超銀河団を統治なされる聖齊天帝皇神ウイ様を護衛する銀河団の長であらせられる聖天帝皇神エア様の従者であらせられる銀河系の聖皇帝皇神ヲオン様の補佐役であらせられる太陽系の聖皇帝神ジューヌ様の化粧補助、地球の聖齊天神イゼヤと申します」


 そのとき。

「やい、やい、何だ、お前らは。ここは、おれッチらの土地だぞ、おい、こら」

「無断で来るたあ、どういうことだ」

「赦さねえぞ」

「そうら、お嬢ちゃん方、赦して欲しけりゃ、出すもんだしな」

「けど、ちょっと、イタズラわするぜ」

「ぃひひひ、ぃひひひ」

「た、たまんねーぜ」

 




  

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