第十三 睿智を授かりし者
齊会議は盛会裡に終わった。
五世が揃う愴儼赫燦たる瞬は眞戔に生ける超絶の大々曼荼羅であり、眞理そのものであり、實在する眞理であり、究竟畢竟の眞實、實體實在であった。ありとしあらゆるかたちの世界宇宙全てが存在する意義そのもの、それ自體であった。一切世界は燦然と眩き燦めき熾え裂けるよう赫いた。神聖、榮光、崇高、壯嚴の窮み。
狂裂の神イゐユの御霊を受け継ぐ阿素羅族を統べる皇帝神の眷属で、啊紗蠃惟族の王たる異紗の臣である眞驘の眷属で、眞羅族の族長である太眞羅の落胤、異株荊棘の分御霊たる神、殉眞はその眞髓たる睿智を流出させた神人たる尹陀羅仁を娑婆世界のうちの一つの宇宙の中にある銀河系の中を廻る太陽系の中の地球に現象させた。
それゆえ、彼女が名乗る口上はいつもこうであった、
「我こそは、狂裂神イゐユの御霊を受け継ぐ阿素羅族を統べる皇帝神の眷属たる啊紗蠃惟族の王異紗の臣である眞驘の眷属たる眞羅族の族長太眞羅の御落胤なる異株荊棘の分御霊たる神殉眞の眞髓たる睿智を授かりし尹陀羅仁なり」
時々それを極端に縮めて、「狂裂神の睿智なるインダラーニなり」と言った。
彼女が現象したのは地球であるが、一口に地球と言っても、無数の並行世界があり、吾人の棲まう地球とは異なる地球であった。
そこではメソポタミアの砂漠の都市ウルが蠍人間や蜥蜴人間らが連合する大軍に包囲され、ウルの王ギルガメッシュは苦戦を強いられていた。
黄金の鎧兜に身を固めた巨漢の王はカールした長い髭を風に靡かせ、悠然と城壁の上から敵軍を睨む。
太い腕で弓を引き、一キロメートル先の敵の将校を射抜く。
「しかし、こんなことをしていては、いずれ破滅する。あの亜人どもの数を見よ。今までどうやってあれほどの数を養っていたものか。どこから湧いて来たか。
いずれにせよ、この城砦都市の破滅も、時間の問題だ」
百キロメートルほど離れた城砦都市スーサの素戔王に援軍を求めようにもこの包囲を突破できる急使などいようはずもなかった。
幸い、叡智ある王の賢慮によって備蓄が豊富であったため、飢餓状態は避けられていたが、城砦都市に籠城する兵士や義勇兵や民衆の士気は大いに下がっていた。ましてや傭兵たちは。
酒場バロス亭の亭主は苦虫を潰したような不機嫌な顔だ。
今日も城壁を守るべき傭兵二人が昼間から、この薄暗い酒場で密かに麦酒をジョッキで呷っていた。
「やってらんねえよな」
「ああ、堪んねえ。しかしよ、ほんとに報酬もらえんだろーな? こんなことなりゃ、全額前金にしときゃよかったぜ。印象わりーと思って、八割前金にして、こりゃ、しくじったなー」
「おめー、柄にもなく見栄っ張りのカッコつけ師だかんなー。くだんねー。俺ゃ、全額前金にしたぜええ」
「ち、うっせーや。やってらんねー、おい、酒だ、酒、おかわり早くしろってんだ」
突然、扉が開いて、輝く人が入って来た。
まるで、太陽が部屋に入って来たかのようであった。