勇者さまと村祭り
「アリー。聞こえるか?」
「はい。聞こえています。」
「どういうことだと思う?」
「はっきり言ってわかりません。私のように我慢しているようには見えませんでした。」
「だよな。」
リオンはシドロと長い時間話していてもそういう素振りをしていない。ずっと思案していると扉が開いた。
「はぁ、お父さんったらあれくらいは自分でできるでしょ、まったく。」
リオンが戻ってきた。
「外、なんだか騒がしいけど何かあるのか?」
さっきまでは気にならなかったが、外からは賑やかな声やごとごとと重いものを運ぶ音がする。
「うん。2日後に村祭りがあってその準備。私のお父さんこの村の村長だから色々と忙しくて。」
リオンが優しい口調で答えた。
「毎年この時期に村の畑の豊穣を願うの。元々は湖で祈りの舞を踊るだけなんだけど。最近は村でやってたんだけど今年は色々あって久しぶりに湖でやることになったんだ。まぁ、みんなその後の踊れや騒げの方を楽しみにしてる人も多いんだけど。」
リオンがクスクスと笑う。
「そうなのか。楽しそうだな。」
「うん。私も毎年楽しみなんだよね。みんなが楽しそうに笑って踊ってる姿を見るの。みんなこの日のために毎日頑張ってるんだなって。」
そこまでいうとリオンは窓の外を見ながら少し寂しい目をした。
「ここ最近は魔物たちが暴れてたせいでみんな元気もなかったから。だから今年のお祭りは私も絶対成功させたい。」
リオンは拳を強く握りしめて力をこめていた。
「リオンはこの村が大好きなんだな。」
「うん。とっても大切な場所だよ。」
弾けるようなあどけない笑顔でシドロを見つめていった。
シドロもついついつられて笑顔になる。
「何笑ってるの?」
「いやいや、別に。」
「なんか、ムカつく。まぁ、いいや。よかったらあなたもお祭りに参加しない?これも何かの縁だし。もう少し休んでいった方がいいと思うし。」
リオンがお皿を片付けながらシドロに聞いてきた。
「ははっ。ありがとう、リオン。でも俺はまた行かないと。」
「そうなんだ。」
リオンは少しがっかりしたようや声で言った。
「それに、多分俺はここにはそう長くはいられないと思うからさ。」
「どういうこと?」
リオンは少し困惑した顔でこちらを見つめている。シドロも出来ることならそうしたい。だが、今のシドロは言葉を交わせば嫌われてしまう。リオンを含めこんなにもお祭りを楽しみにしている雰囲気を壊してしまうことはできないし、受け入れられないだろう。シドロは遠くを見つめる。
「リオンそれよりこっちこそ一つ聞いていいか?」
「うん。何?」
「俺のこと嫌いじゃないのか?」
リオンは照れた顔をし、数秒の沈黙が流れた後、
「は、はぁ?ど、どういうこと?意味が全然…。」
その時扉が開いてリオンの父親が入ってきた。
「リオン、旅人さんの体調はどうだい?」
リオンはぴくりと一瞬硬直した。
「リオン??」
シドロはリオンに目配せし
「言葉の意味を教えるよ。」
「えっ?」
困った顔をするリオンから目を離しシドロは村長なら目を向けて答えた。
「村長さん、私は大丈夫ですよ。娘さんのお世話のおかげで。」
リオンはまた少し照れた顔をした。
「そうですか、それならよか…」
「お父さん?」
村長の言葉がら突然止まる。
「なんなんだ?お前は急に!娘に馴れ馴れしく!」
「お父さん?急にどうしたの?」
「リオンは黙っておけ!あぁ、腹が立つ男だ、今すぐ出て行け!」
村長の声が部屋に響いたのだった。
リオンは驚いた顔でシドロを見つめる。
「こういうことだ。」
シドロは苦笑いを浮かべたのだった。