勇者さま孤独になる
「どうした?レイン。」
「いっつも私に都合のいい顔ばっかりしてイライラするの。無理やり突っ込んで怪我して適当に治癒してください!って感じも腹立つし。」
「はぁ?」
レインの言っている意味がシドロにはわからない。
「レインの言うとおりだよ!私たちに偉そうに指示ばっかり出してさ?自分はいつもとどめ刺してカッコつけて。」
「そこに至るまでのわれわれのことはまるでなかったようにする。自己陶酔も甚だしい。」
二人も追随して重ねて攻め立てる。シドロは状況を整理するまでに時間がかかったが、あの言葉を思い出した。
ーーー「そう時間は経たずともわかる。私の置き土産だ。半人前どもには防げまい。せいぜいくるし…め」ーーー
「そうか、呪いか魔法の一種だな!」
さっき倒した魔物の呪いのようなものなら納得がいく。
「それなら、レイン頼む!回復魔法をかけてくれ。」
「いやよ。」
「レイン!お願いだ!お前にしかできないんだ!」
「だから嫌だってば!勇者さまなら自分でおやりになられては?」
「レイン!」
「またそうやってレインに無茶ばっかりいう。」
「一人では何もできないからこそだな。」
シドロはここまで我慢していたがついに怒りが上回ってしまった。
「さっきから黙って聞いてれば、なんなんだよお前ら急に!俺がいつ自分勝手に振る舞った?そんなことしたことないだろ?」
焦りと不安から語気も強くなる。
「は?やっぱり自覚ないんだ。」
「やってる側は気づかないの典型だな。」
「ほんとめちゃくちゃだよね〜。本性現るって感じ!」
シドロと3人の間に不穏な空気が流れる。
「……だったら勝手にしろ!」
「わかりました!」
「それじゃあ!」
「このパーティは解散だな!」
「あぁ……わかったよ。」
レイン、ハート、レージはシドロとは違う道へ歩いて行ってしまった。
「くそっ。どうなってるんだよ。」
シドロは地面の枝を踏み潰して叫んだ。突然こんな形で大切な仲間たちを一瞬で全てを失ってしまった。その上村の人々さえもまともに取り合ってはくれない。昨日まで賞賛され続けていた勇者はその世界から弾き出されてしまったのだ。シドロは途方に暮れていた。その時1つひらめいた。
「そうだ、アリー!」
ポケットの石に話しかける。
「アリー、聞こえるか?おい頼む!」
「聞こえています。あー。イライラしますね。なんなんですか?その口の利き方は?」
「悪いって、頼むどうしたらいいのか教えてくれ!それがアリーの仕事だろ?」
「仕事。すーー。はーー。」
アリーは深く深呼吸をした。
「これは妖精王様から与えられた任務であり業務。落ち着きなさい、アリー。取引先の相手に苛立つことはよくあることです。これは業務。これは業務。」
(取引先って…妖精たちも大変なんだな。)
シドロは内心そう思った。
「それでは端的にシドロ様の現在の状況を説明させていただきます。」
いつになく機械的にアリーが話し始めた。
「簡単に言いますと,シドロ様は先程の骸骨の魔物より受けました呪いの影響で世界中から嫌われてしまっています。」
「嫌われる…?」
「はい。先程の呪いはシドロ様と口を聞いた相手は感情の中の嫉妬、憎悪、怒りなどを増大させるものです。なので、相手と話すことで相手はあなたのことを一瞬で嫌いになります。」
「なんとかならないのか?」
「すーーはーー。現在のところこの呪いを解く方法は私にはわかりません。」
「わからない??」
「はい。ですが、可能性はあります。ここより南にある教会に呪いを解くのに長けたシスターがいると聞きます。もしかするとそのものならば何か方法がわかるかもしれません。」
「成程。それしか今はないんだな。」
「……そりゃそうだろ。今のままだとそもそも妖精王にも嫌われて勇者の資格剥奪されんぞ?」
「アリー……?」
「あっ。失礼いたしました。つい我慢ができませんでした。」
アリーの凄みに押されて一瞬黙ってしまった。
「で、どうしますか?向かうのであれば案内は業務の範囲内なのでいたしますよ。」
「………頼む。」
「承知致しました。それではさっさと…すーー、急いでいきましょう。」
何はともあれ呪いを解くためにシドロは一人で教会へ向かうのだった。