表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

少女のお話

作者: つじ みやび

なんてことはない、一人の女の子がぶいちゅーばーになるまでのお話。

 つじの家には、「影」の影響を受けた子供が稀に生まれる。その時はこのお話をするのよ。


 むかしむかし、あるところの四辻に「影」が倒れておりました。


 たまたま近くを通りかかった男は、その獣のような耳が付いた「影」に手を差し出します。唯一助けの手を伸ばしてくれた彼に大層感謝したその「影」は、きゅうと音を出したのち、彼に憑いて行きました。


 それから、男には幸運がよく舞い込んでくるようになりました。

 新しい商売を始めれば商品は飛ぶように売れ、病気に罹ることもなく、事件に巻き込まれることもなく、それまで苦しかった生活が嘘のように楽になったそうです。


 そういうことがあったので、男はその「影」を祀るようになりました。

 始めて見て以来姿は見えないけれど、きっとその「影」が自分を守ってくれているのだろう、そう思ったから。


 それからもう少し時は流れ、自身の姓を決めなければならなくなった時。男は迷わず「つじ」を名乗り始めたそうです。その「影」と出会ったのは四辻だったから、その縁を忘れぬようにと。


「つじ」という名前と、このお話を語りついでいくのです。


 ◆


「だからそのお耳、悪いものではないからね。大事にしてね、みやびちゃん」


 なんでもない小学生の夏休みの1日だった。いつも通りおばあちゃんの家に良き、冷凍庫からアイスを1本もらって、おばあちゃんと2人で縁側で食べていた時のこと。学校は楽しい?何かあった?と、いつもの質問をおばあちゃんがするので、答えた。


『なんかねーさいきんねーかがみみるとねー、みやびちゃんのおみみじゃなくて、あたまににわんちゃんみたいなおみみがあるのー』


 最近、パパやママにも言ったけど信じてくれないし、おばあちゃんもきっとそうだろう。もしかしたら、すごい力が秘められているかもしれない。いっちょまえに目覚めていた厨二心に押されるように、口に出していた。するとおばあちゃんは驚いたように目を見開いて、昔ばなしをしてくれた。おばあちゃんのお話は難しい言葉もあって、正直全部はわからなかったけど、「ご先祖様はきっと優しい人でいいことをしたんだろう」という事だけは分かった。


 大事にしてね、と言われてもいまいちわからないけど。大好きな兎のぬいぐるみくらい、大事にすればいいだろうか。


「…………うん、わかった!」

「わかってないね、それは。」


 私のあやふやな答えに、おばあちゃんは仕方がないな、という顔で頭をゆっくり撫でてくれる。


「でもいいのよ。みやびちゃんが、健やかに大きくなるのが大事なんだから。」

「うん!」


 やっぱりよくわからないけど、おばあちゃんに撫でてもらうのは大好き。


 ◆


 成長していくにつれてわかったことが2つある。


 まずこの耳は、鏡や影の中にしか存在しない。めっちゃありがたい。そのおかげで楽しく学生生活も送ることができた。


 そして、なんだか運がいい気がしている。自分の努力もあるけど、何やかやで第一志望校に受かったり、やってみたかったことができたり。ソシャゲのガチャ運がたまにめっちゃよかったり。


 ありがたや~と鏡越しに自分の耳を拝むのが、日課になりつつあった。そうしてあがめているうちに、もう立派な大人になった私。ここにきてやっと疑問が浮かぶようになった。


(昔おばあちゃんから、「影」って聞いたけど。それって何なの?)


 気味が悪いとかではない。幸運を運んでくれるし、ご先祖様から受けついだものなので、むしろ誇らしくもある。ただ純粋に気になる。


(とはいえ、社会人になっちゃったしなぁ)


 自由に動ける学生の期間は、すでに終わりを告げていて。毎日仕事に明け暮れる日々。SEという仕事は結構自分の肌に合っているので、手放すのはもったいない。さてどうしたものか。


(う~ん……これいいじゃん?せっかくだしいろんなところ転々としたりして。好きな物語の話しながら、少しづつヒントを探してみるとか。)


 何せまだ時間はあるのだ。ゆっくり探そう。


 ◆


 あるときは作品から自分の起源のヒントを探し、またあるときはSEとして仕事をこなす。そしてあるときは、一人のぶいちゅーばーとして。自分が紡ぐ物語がこれから先も長く続き、いつか自身の謎が解ける日を夢見て、つじ みやびは元気に配信開始のボタンを押す。


 大事な自分の耳をそっと鏡越しに触る。どうか、今日も楽しく過ごせますように。そうして息を整え、いつもの挨拶を。元気に!


「みゃ~の皆様こんみゃ~び!自分探しの旅の途中、物語大好きぶいちゅーばー!つじみやびです!」


 そうして今日も、どこかで楽しい配信の時間が始まる。

つじ みやびのプロローグでした。

これからもどうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ