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おれの友人

作者: 雉白書屋

 おれの友人にトオノという男がいる。こいつが、ふふっ……愉快愉快。なんたってこいつは引くほど情けなく惨めったらしい男なんだ。

 その見た目もさることながら、声や性格も、ひひひひっ。この前、久々に道で会ったんだが、ふふふっ。あいつは昔と変わらずオドオドしてた。



「……おっ、え? おい、お前、えーっとトオノだろ! なあ!」


「あ……うん、あ、痛いよ……」


 おれが近づき、肩を殴ってやると奴はニタッと笑った。前と変わらないその反応に懐かしさが込み上げてきた。


「中学時代、楽しくやってたよなぁ、おれら」


「あ、うん……」


「はははっ、その感じ、全然変わんないなぁ!」


「そ、そうかな……」


「で、今、何してんの?」


「今は……歩いて」


「ばっか! そういうこと聞いてんじゃねーよ! ホントお前は頭の回転が遅いなぁ!」


「あは、はは、痛いよ、ははは……」


「どうせ無職だろー? お前、社会不適合者認定だもんなぁ」


「あはは……き、君は……?」


「あ? おれはフリー……おれのことはどうでもいいんだよ。で、お前、金ある? 昔みたいにさ、貸してくれよ」


「え、でも……」


「なんだよ持ってないのかよ」


 財布の中を確かめたがトオノの野郎はてんで金を持っていなかった。ただ歩いていたっていうのは嘘でもないらしい。また中学生の時みたく、万引きや自販機の下を漁らせてやると、汗ダラダラで、奴の見た目はより一層みすぼらしくなった。


 連絡先を交換し、おれはトオノのやつを好きな時に呼び出し、命令した。ストレス解消になるんだ。ああ、愉快愉快。あいつは他に友人なんていないんだろう。だから何でも言うこと聞いた。  

 先の万引きの他にナンパしに行かせたり、もちろん、うまくいくはずない。断られ、惨めなアイツを見るのが楽しいんだ。

 女の彼氏に胸ぐら掴まれたときなんかは、くっくっくっく。牛丼屋の前で店に入る客に奢ってください、奢ってくださいと声をかけさせたり、けけけけけ。盗撮させたり、警官に声をかけられ走って逃げるあいつの必死な顔、けけけけ。

 しかもあいつ、服を一着しか持っていないのかってぐらい、いつも同じような服装で、それがどんどんみすぼらしくなっていくんだ。けけけけけ、お、トオノの野郎が戻ってきた。けけけ、次は何をさせてや――


「いたっ」


「お、すみませんね、お姉さん。よそ見してて」


 なんだ、いい女だと思ったのに、そそくさといきやがって。まあ、いいか。けけけけけ。


「おい、邪魔だよ!」


「あ、すみません、けけけ……」


 けっ、いい気分だってのになんだあの態度は。舌打ちしていきやがった。人を舐めやがって……と、そうか、トオノの野郎が傍にいるせいで、おれまでお仲間と思われてんのか。クソが。


「おい、おまえのせいだぞっ! この疫病神!」


「いたい、いたいよ、けけけけ……」


 あーあ、まったくどんくさい野郎だ。臭い臭い。けけけけ。



「うわっ……」

「ん? どうしたの?」


「ほら、あそこの人、ひとりでニヤニヤして、うわぁ気持ち悪い……」

「しっ、可哀想な人なんだよ」

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