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臆病な自分にさよならを  作者: 楊咲
第一章
6/17

6 友人


 買い物に向かう際はいつものスーパーへと歩いて向かっている綾人。


 今日は何が安いのだろうか。何を食べたい気分だろうか。そういえば明日数学で当てられるな。彩乃と歩奈はゲームしていたり。

 なんて彼の頭の中はいつも平和な感じであり、節約の二文字はいつものごとく頭の中に浮かんでいる。


 それは決して家が裕福ではないために必要な考えであった。


 祖父や祖母に頼ろうとすればいくらかは貸してくれるだろう。孫が頼めばそれも確実に。


 ただ、そういうわけにもいかない。母からの怒りが真っ先に襲いかかるのは目に見えているから。


 ついでともなれば、母のお金で買い物に行っているため、使ってなければすぐにバレてもしまうだろう。


 では、節約もしなければいけない家庭にどうしてモモが家族として、迎え入れることができているのか。


 それは三原家で飼っているわけではなく、祖父母である茅島家で飼っているため。


 ペットの費用は高くつく。そのため三原家では流石に飼えない。たまに彩乃や歩奈が飼いたいなんて言っていることも耳にはしていたから、今となっては叶っており、生活に彩りと元気を与えてくれている。


 そんなモモは彼女をもてなすために居てくれて助かった。と感謝しつつも、彩乃の余計な発言に関してはあとでお灸をすえさせたい気持ちでもある。


 近くのスーパーが目に映ると同時に、バッグの中に入れていたスマホが振動し手に取る。


 彩乃かとスマホの画面へと目を向けると、そこにはアニメキャラのアイコンと友人の名前が映っていた。


『お疲れー』


「お疲れ。どうした?」


『ん? 綾人の声が聞きた──』


「帰れ。…………」


『おい、通話切るな。渾身の演技を無視するなよ』


 開口一番耳に飛び込んできたのは、女の子に真似た声音。

 同じく受験を終え、さらには同じ高校を受けた今も通う中学の友人である。


 そんな友人からの通話を再度取ってはふざけた言動に呆れていると、電話越しに笑いを堪えたような声が聞きとれた。


『彼女が居たら言ってほしい言葉じゃないか。それに純愛ラノベだと鉄板になる。覚えておきなさい』


「はいはい、覚えておきます。それで俺が聞きたいんだけど、彼女でもできたのかと。言ってただろ、可愛い子が居たって」


『うるせぇ、いつまでもできませんよぉだ。好きになるような人が居たらいいんだけどなぁ、高校入ったらモテ期こねぇかなぁ』


「モテ期はいらないだろ」


『けど、彼女は欲しいだろ? な?』


「……」


 何も言わずにいると、頭の中に友人がにんまりとしたウザい表情をしているだろうと想像がつく。

 それは声音からもそうだった。


『正直者なことで。それに今の中学からはどうだ? 中三デビューして一気に注目を集めているではないか』


「高校デビューじゃなくて?」


『俺が言いたいから、なぜに中三デビューかと。でも安心しろ。ちょっと変わったからって近寄ってくる奴はろくでもない人間だ。中身を見てはいない。告白されても断るんだぞ』


 今度は笑顔でグッドしているような友人の姿が思い浮かぶ。


「だから告白なんてされたことないし、変わっただけで好きになることはないだろ。それによく考えたら中三デビューでよかった。高校はみんな別れるし、眼鏡にまた戻す」


『は? そのまま行けば確実に上手いこと行くぞ、高校も』


「うまく行くかは知らないけど、節約しようって思ったんだよ。出かける時だけ付けさせてもらう」


『あー、なるほどな。……まぁ、髪切った状態でも似合ってたし良いだろ。知的イメージアップ。眼鏡ありのイケメンもいいじゃないか』


「イケメンにはなれません。それに頭でもあなたには勝てませんよ」


『お、褒めてんのか? うれしいこと言ってくれますなぁ』


 ありのままのこと言うと明らかに上機嫌になっている友人。


 周りから耳にすることもあるだろうにどうして自分に言われて上機嫌になるのやら。

 そんなちょっと可笑しな友人に、綾人は過去の話を思い出しては言ってみる。


「調子乗ってるようで悪いけど、男のデレは一円の価値もないんじゃないのか」


『よく育った──と言いたいが、男のデレにも価値があるぞ。ゲームしてたら可愛いって思える……買い物か?』


 店内の音が入って来たからだろう。友人の言うとおり、綾人は先ほど店内の入り口にあるアルコールを手に付け籠を持ったところ。


「そ。だから、そろそろ用件を言ってくれ」


『あ、忘れてた』


「忘れるな」


『いや、ボケたら突っ込んでくれる綾人がいるから忘れるんだ。用件だけど、受験終わりの打ち上げで土日のどっちかにでも遊びに行かねえかなって。あと試験の答え合わせとか。どうせみんな合格してるだろうけど』


「……」


 友人の言葉を聞き、そういえばと思い出す。帰ったら早速するつもりだった試験の答え合わせができていないことに。


 それも理由としては、初対面である彼女がいきなり家に来たからであった。


 いや、向こうとしてはいきなりではなく事前に言っていただろうが……まぁ衝撃的であったため忘れていた。


 今更になって合格しているのかと不安になってくる。

 友人の期待を超えての言葉に対して苦い顔を浮かべてしまっていた。


『無理そうだったら、綾人の家行ってもいい。噂のモモちゃんに会いたい』


「……ごめん、明日は無理そう。明後日は……昼以降なら行けると思うけど十八時には帰らないとダメだな」


『手伝いか?』


「それもある。てか家知らないだろ」


『もち』


 家に来ると言った友人の言葉に内心焦った綾人だが、そういえば来れないだろうと一安心である。


 家に来た際には何を言われるだろうか。

 彼女が同じ高校への入学がほぼ確定状態と言ってもいい。そして彼女の見た目から、すぐにでも思い出すか高校はどこを受験したのか訊いていることだろう。


『悲しいことで。じゃあ合格した時──』


『なあ、読み終わったから次の巻貸してくれ』


 三日分の食料を冷蔵庫にある食材とそよいがいる兼ね合いを考えてカゴに入れている途中、別の人物の声がスマホ越しに聞こえてくる。


 通話相手の友人はスピーカーにしていては体勢を変えているようだった。


『気に入ったんか。それなら勝手に取って……それ真ん中にあるわ。もう全巻持ってっていいぞ』


『あいよ』


『そうだ。弟よ、三原といった苗字をご存じではあるか?』


 友人とその弟さんの家族団らんの会話に入っていると知ると、綾人は適当に聞き流しながら、野菜、お肉、切れてしまう調味料。乳製品やパンコーナーと次々と足を運んではカゴに放り込む。

 量が多くなっていくのはいつも通り。それでも、節約を心がけても自分を含む子ども三人の食費はこんなにかかるのかと、母に感謝する。


『……あぁ、急に噂になったやつ?』


『知ってんのかい』


『嫌でも耳に入ってくんだよ。同じ学年でならまだしも、こっちまできやがって女子が一々うざい。別にマシになったぐらいで騒ぐことないだろ』


『へぇー、なるほどねー』


『あ? なんだよ。キモい顔しやがって』


『いや、嫉妬してんだなーって思っただけだけどー?』


『してるわけねぇだろ』


『だよなー、してないよなー』


 ヨーグルトが安い、さらにいつも通りポイントも。と綾人は四個パックのヨーグルトを手に取りカゴに入れると──スマホ越しから物凄い音が聞こえてきてはびっくりする。


「ど、どうした、大丈夫か?」


『てめぇのせいでフラれたんだろうが!! 顔が良いだけのガリ勉クソ兄が!!』


『知るかそんなもん!! 結局はオタクに染まったお前が悪いんだよ!! 運動ができるだけの愚かな弟が!! リア充爆発で最高な気分だ、ざまぁみろ!!』


『この……! こんなことなら兄じゃなくて可愛い姉が欲しかったわ!!』


『はぁ!? 俺だって可愛い妹が欲しかったに決まってんだろうが!! どうしてお前は男に生まれたんだ!!』


『ざけんなっ!! それは俺のセリフだろうが!!』


 なにかと思えば兄弟喧嘩に発展しているよう。

 仲良しだなぁと聞き流していると「プリン」といった言葉を電話越しに耳にし、綾人はそよい用にひとつだけカゴに入れておく。


 そして最後に冷凍食品を見て……特別安いのは家にあるので会計へ。


 その時には喧嘩が終わっていたようで、荒々しい呼吸が綾人の耳には入っていた。


『あんにゃろう、恨みの矛先を向けやがって……。綾人、弟やるから彩乃ちゃんと歩奈ちゃんトレードしてくれ』


「かわいそうなこと言うなよ。そもそも弟さんの所望は姉、お前だけ満たされる条件は我儘がすぎるぞ」


『ちっ、真面目な返答しやがって』


「はいはい。あ、ごめん、もう通話切っていいか? 会計に入るんだけど」


『へーい。じゃあ、また学校でな』


「また学校で。ありがとな、誘ってくれて」


『え、デレて──』


 そう告げると友人の返しを待つ前に通話を切っておく。


 エコバックを出し、セルフレジにたどり着けば流れ作業に入り会計を済ませた綾人。


 暗がりの夜道を見ると、そよいのことも考え早々と帰宅した。


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