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臆病な自分にさよならを  作者: 楊咲
第一章
10/17

10 砕ける印象


 暗がりの部屋の中、そよいは目を覚ました。


 就寝した時間は深夜二時ごろ。夕方ごろに二時間ほど寝てしまったせいか、早くからベッドに入っていようが眠ることができていなかった。


 もしかしてとスマホに手に取れば、お察しの通りの時間帯。真隣りにあるカーテンを開ければ、景色は晴れ。時間帯としては午前九時といつもの起床時間より大分遅めであった。


 寒いからもう少し蹲っていたい。落ち着く体勢を解放したくはないが、バッと起き上がればベッドから抜け出すことができる。


 髪がボサボサ、寝起きの薄っすらとしか開かない目。眼鏡はとケースから取り出せば視界は良好になり、大きく伸びをした。


 少しボーっとするかのように周りを見ては再度思う。泊っているのだと。


 見慣れないクローゼットの位置に、小さな机と座椅子。違和感のある空いた空間に、セミダブルのベッド。カーテンの位置も違えば、ブラウン管テレビにパソコンも置いてある。


 これはこれで好きかも知れない。あまり人気のなさそうな自分の部屋と比べれば。


 部屋を出れば一階は閑散としていた。


 誰もいないのだろうか。リビングの奥、茅島家の寝室へと目を向けるも閉じられている状態。端におかれたケージにはモモがおらず、散歩にでも行ったのか。


 まずは髪と顔、そう思えば洗面所へ。


「おはよう──えっ!?」


 洗面所の扉を横にスライドさせると、鉢合わせするかのように目の前に綾人がいてはのけ反ってしまい、後ろの壁に後頭部をぶつけてしまう。


 …………完全に忘れていた。この家に同年代の男の子が居ることに。


 髪がボサボサ、むくんでいるだろう顔、開いていない目、それを考えれば顔は必然と隠さなければならない。


 毎日こんなのことになってしまうのか。

 慣れの問題だろうがもう少し考えるべきでもあった。綾人の存在を軽視しすぎていた、流石に無理、無理だ、あの頃のどうでもいいとは違い現実では縮こまってしまう。


「……おはよう」


 隠した顔は向けず、挨拶は返しておく。

 すると、綾人からはクスクスと笑い声が聞こえてきては恥ずかった。


 大丈夫? そんな声を耳にするも頷くだけにしておく。


「朝ごはん上で用意してるから。あと、今アイロン使い終わったから気を付けて。使いたかったら使っていいから」


 彼がしっかりと二階に行く姿を盗み見れば立ち上がる。


 洗面所には彼の言っていたとおり、ヘアアイロンが置かれていては有難く使わせてもらうことに。


 顔を洗い、日焼け止めを塗り、寝癖を直していく。

 鏡に映る自分の姿は頬が赤く染まっている。電球色による温かみのある空間になっているはずなのに、目に見えてわかるほど。落ち着くように息を吐いても変わることはなかった。


 ジト目を向ける自分に問いかける言葉は、バカですかと、動揺しすぎとも投げかける。


 ──笑うな。そう誰かもわからない心の声が出てくれば鏡に映る自分自身に嫌悪感を抱き、視線を逸らせば、一度部屋に戻り着替えを済ませた。



 ───────────────────────────────────



 二階に上がれば、モモが出迎えてくれる。


 綾人が連れて行っていたようで、軽く撫でてあげれば大人しくしていた。

 テレビへと時折視線を向け手を止めていれば、小さな足を膝の上に乗せてこられてともう少し。綾人がお皿を用意していれば席へと着いた。


「朝ごはんは食べるって聞いたけど、ご飯でよかった? それかパンにして、そのウインナーとかサンドイッチにするけど」


「ありがとう……。ご飯で大丈夫」


 目の前には、ご飯に味噌汁、ウインナーとレタスに玉子焼き、そしてプチトマトと用意される。

 いただきますと言えば口にしていくのだが、綾人とモモしかいないことに未波や彩乃たちはどうしたかと時折視線を移す。


「みんなは家に居るの?」


「今は俺とモモだけ。お母さんと歩奈は春用の服とか靴を買いに行ったかな。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんもいっしょに。彩乃は部活。寒すぎて死ぬとか言いながら友達と行った。昼には帰って来るらしい」


「……部活?」


「そう、バスケ部。運動もすればゲームもするし、勉強も問題なくするし。結構苦手なことないよ、あいつ。学年末とか四百十三とか言ってたし」


 録画していたであろうテレビを見ながら答えてくれる綾人。

 どちらかと言えば、答えてくれていた内容よりも彼のほうが気にはなる。


 眼鏡を掛けていなければ、私服らしき服装に着替えている。外に出掛ける準備をしているようだった。


 印象がだいぶ違う。そんなことから少し驚いている。


 未波叔母さんから聞いていたことは数少ない。

 そのひとつとしては、心配にもあたっていた異性の綾人に関して少し言っていたのを覚えている。


 暗い人で友達もいるのかどうか。妹たちにはやさしくしてるから、大丈夫だとは思う。まぁ、あまり話しかけないはずだから、そんな感じであった。


「これ見た? 正月の」


 正面に彼が座れば、点いたテレビへと視線を向ける。


 それは正月の定番であるクイズバラエティー番組。芸能人がどちらが高級ワインか、どれが最高級の食材かなど出題される問題に挑戦する番組。

 今はどれが最高級の楽器か聞き比べをしているようであった。


「うん、見てた」


「ちなみにA?」


「…………」


「え、間違えてる?」


 何も答えずにいると、彼はモモの相手をしながらテレビに見入っている。


 温かい味噌汁を口にし、次々と食べていく。

 人が作る料理に久々においしいと思えれば完食し、ごちそうさまと口にした。


 いつの間にか後ろのカーペットに座り込んでいた綾人の背を見る。


 ……声を掛けようとしたが、何かがぐちゃぐちゃした感じがし、伝えれず。そのまま食べた食器を洗っていく。


 昨日もいっしょのことに、失礼な人間だとわかっている。ちゃんと言えるようにならないと。


「ありがとう」


 食器を洗い終われば、礼を言われ頷いておく。

 ゆっくりと座れば、温かな部屋に息を吐き、目の前の新聞を見させてもらうことに。


 試験問題の答え。目を通せば、たまにどっちを選択したのか忘れてしまう。正解と思いたいところや、これは間違っているなど振り返っていく。

 点数は……わからない。合格もいっしょのこと。見ても変わることはなく、逆に自信を無くしそうであったため今は向き合わないことに決めた。


「宮代さん、モモの散歩行かない? ちょっとした探検として周辺回ってみる?」


 落ちたら仕方がない、開き直った心を持てば黒のジャケットに身を包んでいる綾人がモモを抱えながら声を掛けてくれる。


 すでに行く気満々の装備品。自分はどうしようか、外は寒いだろう……そう考える前になぜか自然と頷いていた。






 寝癖が直っていない、そんなときのために必需品のキャップ帽をかぶって隠してしまう。

 アホ毛のようになっていると指摘されれば、直すより早いほうを選んだ。


 寒いと感じながらも、一歩一歩とゆっくり歩いていく。


 今の服装に、マフラーや手袋を付けるのは似合わない。キャップ帽なんて被っているから当然のことだった。

 黒のダウンに、ジーパン。そして灰色のスニーカーで黒のキャップ帽。

 二、三年ほど着続けている服に身を包んでいれば、隣に視線を向ける。


 彼は黒のジャケットに、オリーブ色のカーゴパンツ。白のスニーカーを履いている。

 どちらかと言えば、ブルべだろう。肌が白く、顔は未波叔母さんに似ている。髪もセットしていれば見た目が違っている、隣にいる人間が少し馬鹿なことをやってしまっているとは、あまり考えられないかもしれない。


 モモの散歩。そう言った話だが、綾人はモモを抱えながら歩いている。


 昨日雪が降ったため、モモが滑って転ぶことがないようにしたいとのことだが、外に出さないのはと現在は抱えながらの散歩。

 ただ、暖かい日差しのおかげか帰りは降ろしてあげて散歩するらしい。


 たまたま彼と目が合う。

 視線を逸らせば、思ったことをそのまま口にする。


「眼鏡、どうしたの?」


「コンタクトしてる。外に出る時はあんまり眼鏡では出ないかな。あと俺も訊きたい、眼鏡するの?」


「……家とか、勉強する時だけ」


「えー、今はって聞いてもいい? それとも突っ込み待ち?」


 一度固まり、首を横に振れば綾人が小さく笑っている。


 自分の言っていることを振り返れば、おかしなことを言っているのは間違いはない。


 変装……する理由はあまりなさそうだが念のため。それに眼鏡を掛けただけでは変装とも言えなければ、余計暗さが増している気が……だったらいいのか、と思うが綾人からしては明らか隠せてはいなかった。

 それどころか、オシャレアイテムになっている。


「宮代さんは部活入ってる? それか運動得意な方?」


「……部活は……バスケをちょっとだけ。運動は人並みに」


「おー、バスケ。彩乃といっしょか。多分だけど、練習付き合ってほしいとか言われるかもしれないかな。そうなったら、できたら付き合ってあげてほしい、彩乃喜ぶだろうし」


「……うん、たまになら。……三原君は?」


「無理。情けないけど、彩乃にボコボコにされてる。運動得意じゃないから。まぁ運動に限ってじゃないけど、歩奈もいっしょで親戚のお姉ちゃんが付き合ってくれるだけでうれしいだろうから」


 妹たちの遊び相手になってほしい、そう頼まれるは先の話をされているようだったが、向こうとしてはそんなことを気にした様子もない。

 声音から感じ取れるのは、ありのまま言っているようであった。


 付き合うぐらいは問題はないのだが、付いて行けるかは別となる。


 バスケなんて激しい運動は中一の夏を終わりに辞めてしまった。

 家庭を優先した結果、親がどうしてと心配そうに言ってくるも強行した覚えもあれば、遺恨が残りつつある出来事になっている。


 運動は今も嫌いじゃない。むしろ、嫌なことを忘れさせてくれるほど部活に関しては夢中にもなれていた。

 口にした通り、たまになら問題はない。みんなの勉強に支障が出ない程度に。


「静かな町だね」


 階段をのぼりながら後ろを振り返り、つぶやいた。


 土曜日ではあるため車の行き交いは多少みられていたが、自分が見てきたよりはそこまで。

 人気が少ないが、見晴らしの良い今いる場所からは口にした通りの落ち着けるような場所でもあった。


「そうだね、春とかなると桜も咲いてるし、人通り少ないから落ち着けるよ。ただ、車とか出さないといろんなお店とか回れないかな。ある意味何もないみたいな。宮代さんの家はどう? 少し歩いてたらコンビニあったりとかする?」


「ある。それに……やかましい」


 比較し、率直な感想を口にすれば──彼が吹き出していた。


 かなり笑われている。そんなに面白いことを言ってないはずなのに、そこまで笑われると少しモヤッともする。


「……笑いすぎ」


「違う違う、宮代さんからやかましいは反則だって……! ……ご、ごめんって……!」


 綾人からは謝っている気がしなければ、モモを抱え直しているのが見て取れる。


 そんなに笑うこと? 遊ばれている気がすればムキにもなった。


「そんなことに笑うより、雪の上を盛大に転んだ人のほうがもっと笑えるけど。あと受験日に寝坊しかけたとか」


「……だったら、今日の朝とかのほうがよっぽど面白かったけど。なぜか丸まって挨拶するし、頭ぶつけてるし」


 顔を引きつる彼だったが…………返す言葉が出てこない。


 意地悪な人間、確実に調子に乗っている気がすれば、昨日と態度が全然違っている。


 眼鏡を外せば性格が変わるのか、そう捉えてしまうほど印象が変わっている。


「そいういえば、俺が転んだ時笑ってるように見えなかったけど、我慢してくれてた感じ?」


「…………心の中ではアホだって思ってた」


「辛辣過ぎない?」


「モモちゃん歩かせないの? あと預けてほしい」


「……すごい急」


 そう言っている彼だが、そのままモモを一度降ろしリードを手渡してくれる。


 持っていて大丈夫なのだろうか、そんなことよりもと注意しつつUターンすればそのまま来た道を辿っていく。


 見えるは歩道橋、少しずつモモの歩くペースが速くなればそれに合わせていく。


「み、宮代さん、早い早い」


 ランニング程度、それに追いつきながらも焦っている綾人は手でも止まるよう言ってきている。


 ……聞けそうにない。

 運動は得意ではないらしい。ならといった感じで、いたずら心を覗かせれば──。


「さようなら」


 そういってモモと共に走り出す。


 意外に速いモモは良い運動になる。安全な路面は良い走り場となっていては、今まで抱えられていた影響か走るモモも楽しそうであった。


 歩道橋を渡りきるまで駆け抜けた、冷たい風が顔に受け、呼吸する息が眼鏡を曇らせる。


 取ってしまえばモモに付いて行き、頭は真っ白になった。


 駆けて、駆けて、駆けて。嫌なことを忘れるように。


 歩道橋を走り抜け、流石にと綾人のことを考えたのだが、走らせた後のモモのペースの事は考えていない。


 どうやったら止まってくれるのか、無理やりは影響が出そう。

 そんな迷いは少しずつ自身がペースを落としていくとともに、モモも歩いてくれては合わしてくれた。


 後ろを振り返れば、速度を落とし始めた綾人が肩で息をしているのが見て取れる。


 合流すれば、情けない顔をしていたのは言っておく。

 追加で家に帰る途中の公園でも走れば、綾人が少し怒鳴りながら追っかけてきた。


 捕まることはなかった。息切れしている彼を見れば、流石にやめておこうと階段を下りながら目の前の家へと向かう。


「あっつ……」


 家の中に入ればふたり揃って玄関で座り込み、モモには少しの間待ってもらうことに。


 呼吸の荒さがお互いに確認できる。上を脱げば、そよいはひざ元に、彼は隣へと脱ぎ捨てるように置いていた。


 彼を見てみると、天井を見ていては笑っている。


 今度は何が面白かったのか、あまり気に食わないなんて思っていると、肩で息をしながら言った。


「宮代さん、見かけによらず意地悪が過ぎる。やさしい人だと思ってたのに」


「……三原君に言われたくない」


 視線を逸らしながら答えれば、彼は靴を脱いではモモの足を拭いている。


 私もと手を洗いに行こうとすると──足に力が入らない。

 手で踏ん張っていようが関係なく、いきなり走ってしまった影響が出てしまったのかもしれない。ただ少し待てば、立ち上がれることだろうと踏んでいる。


 そう思って靴を脱いでしまい、モモが家に上がると同時にもう一度。


 ……最悪、ともなれば、なにかを察したらしい彼が手を差し伸べてくれる。


 素直にありがとう、そう口にしたかったが、意地悪そうな表情を見れば差し伸べた腕にグーを入れていたのは当然のことであった。


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