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9/13

二年三組は音楽祭!

「えーっ!?理玖と修二君も!?」


 クラスメイトたちが、ざわつく。

 放課後の風祭家の防音室で、音楽コンクールの練習に集まっていたクラスメイトに、理玖(りく)修二(しゅうじ)からの、重大報告が発表されていた。

 三番目のカップルの誕生だ。


 修二が、理玖の肩を抱きよせる。


「まあ、そういう訳だ!よろしくな!」




 金髪ギャルの(れい)の元には、クラスメイトの女子たちが、詰め寄っていた。


「れ、麗。お願い!」

「私たちのためにも、デート練習、計画して!」

「私たちだって、彼氏欲しいのっ!」


 クラスメイトたちのあまりの熱意に引き気味になりながら、麗は承諾する。


「わ、わかったわよ……。

 でも、うまくいくかどうかは、人それぞれだからね?

 うまくいかなかったとしても、アタシを恨まないでね?」

「うん!それでもいい!」

「やったぁ!」

「こ、これでようやく彼氏が……!」


 毎週日曜日は、音楽コンクールの練習は休みだ。

 そのため、早速、次の日曜日に、クラスメイトの大勢を巻き込んだ、さらに大規模なデート練習をすることになった。

 麗は、頭の中で計画を練る。


(うーん。この人数だと、水族館は無理だね。

 場所どうしようかな。

 あ、あと、誰が誰を狙ってるのか、聞いとかなきゃ。

 モテる男子は争奪戦だろうなぁ)


 麗たちギャル三人組は、奇跡的に好みがバラバラだったからいいものの、クラス全員がそうとは限らない。

 おそらく、何人かは好きな人が、かぶっているだろう。

 その場合は、時間で区切ってパートナーをローテーションさせる必要も出て来る。

 全員がうまくいく可能性は、むしろ低いと思う。


(あー、フラれた子のサポートにも回らなきゃなぁ。

 ヤバ、コンクールの事もあるのに、急に忙しくなってきた)




 音楽教師が、手を叩いてみんなの注目を集める。


「よし、それじゃあ、対策を立てよう。

 現状で一番の敵は、二年一組だ。

 これは、間違いないよな?」


 純たちのクラスである、二年三組の全員が、(うなず)く。


 今回の音楽コンクールは、受験間近の三年生は出場しない。

 二年生と一年生のみが参加するのだ。


 その中でも、間違いなく最強の敵は、中野君がいる二年一組だ。


 中野君は、異常なほど歌がうまい、男子高校生。

 ぽっちゃり体系にキュートな笑顔の中野君。

 歌の動画配信もしていて、中には百万再生を超えるものもある。

 学校の中はもちろん、全国にファンが付いているほど。

 実力もカリスマ性も、高校生のレベルを遥かに凌駕しているのだ。


 クラスのみんなが、ぽつりと呟く。


「……中野君、かあ」

「ちょっと強敵すぎるよね」

「勝てる……のか?あれに」

「いや、あれに勝つのは絶対に無理だろ」

「遠野氏のピアノも凄いけど、中野君はなぁ……」

「なんていうか、一人だけ次元が違うよね」


 音楽教師を含めて、みんなが(うな)る。


 短髪男子の修二が、声を上げた。


「なんつーか俺たち、今のままだと、パッとしないよな」


 その隣に座っていた茶髪女子の理玖(りく)が提案する。


「もういっそのこと、雛子と遠野君のピアノを主役にしたら?」


 音楽教師が、手を叩く。


「おお、それいいな!そうするか?」


 そこに、目隠れ男子のマサトが、こそっと手を上げる。


「あ、僕サックス吹けるんですけど、いります?」


 マサトの隣のナナミも、驚いた顔。


「えっ?マーくん、できるの?」

「うん。久しぶりだから、練習しないとだけど……」


 すると、他のクラスメイトからも手が上がる。


「俺、バイオリンできます!」

「わたし、トランペット……」

「僕、ちょっとなら小太鼓、叩けるよ」


 音楽教師は、丸くした目を、笑顔に変える。


「な、なんだよ、お前ら。

 できるんなら、早く言えよ!」

「てっきり、合唱がメインだと思っていたので……」

「よし、決めた!

 二年三組のテーマは『音楽祭』だ!

 もう誰も自重なんてしなくていいぞ!」


 すると、アニメオタクの女子陣が、手を上げる。


「せっかくアニメの曲やるんだから、コスプレは必要でしょ!」

「同感!特にピアノの二人!」

「衣装なら任せてよね!」


 音楽教師は、笑う。


「いいぞ!もう何でもアリにしよう!後で僕が怒られればいいだけの話だ!」


 とんとん拍子に話が進んでいく。


 いつの間にかコンクールの主役になり、コスプレまですることになった、純と雛子。

 音楽教師がノートパソコンで、その場で楽譜を練り直す。

 純は、その間にオタク女子たちに寸法を測られていた。

 ()されるが(まま)の純をみて、笑っている雛子。


 純は、思う。


(なんだか、すごいことになってきたぞ)


 その日はみんな、音楽の練習というよりも、遊びに行く計画を練っているかのようだった。







 その夜、クラスメイトたちが帰った後、純と雛子は、グランドピアノの前で、新しくなった楽譜をタブレットの画面に映して眺めていた。


「俺たち、メインになっちゃったな」

「うひひ。まさかの展開だね」


 純は、右隣にいる雛子の顔を、ちらりと見る。


 大好きな、彼氏持ちの、女の子。


 愛しい思いと嫉妬が混ざって、純の胃を鉛のように重くする。


(いかん、今はピアノに集中しなきゃ)


 邪念を振り払うかのように、楽譜を睨む。

 だが、意識してはいけないと思うほど、雛子の事が気になって仕方がない。


 ちらりと、雛子の指先を見る。


「あ」


 純は、声を上げる。

 雛子が、純を見た。


 雛子の爪が、黄色く彩られていることに、純は気づく。


「雛子、ネイル変えたんだ。ひまわりの花びらがついてる。かわいい」


「……あ、気づいちゃった?」


「そりゃあ、気づくよ。雛子のことは、なんだって」




 それを聞いた雛子は、笑う。




「うひひ。気づいてくれた。うれしい。


 でも、そっかぁ。あ~、そっかぁ。


 やっぱりそうだよねぇ。


 うひひっ。あははっ!」




 いつもと違う笑いをする雛子。

 その目には涙を浮かべていた。




「どうした?雛子、何か変」




 雛子は、純の目を見る。

 雛子の目からは、涙がひとつ、落ちていた。




「あのね。


 今日のネイルは、自分でも、とっておきの勝負だったの。


 ネイル変えたこと、たっくんが気づいてくれるかなって。


 それでね、決めてたの。


 もしたっくんが気づいたら、もう少しだけ、たっくんと付き合うのをがんばってみようって。


 でも、たっくんは私の事なんて全然見てくれてなかった」




 ぽろぽろと、涙を流す雛子。


 涙に混じったマスカラが頬を伝い、黒い線となる。




「うひひ。悔しいなあ。


 十年以上、たっくんと一緒にいたのに。


 私って、たっくんにとって一体何だったんだろう。


 付き合ってたって思ってた、この一年間、何だったんだろう」




「雛子」


 純は、雛子の手を握る。

 雛子はその手を、思い切り握り返してきた。




「告って、せっかくOK貰ったのにさあ」




 雛子の瞳は、遠い過去を見ているかのようで。




「私ばっかり浮かれててさあ……!」




 雛子の目からは、黒い染料混じりの涙が落ちる。




「挙句の果てに無視されてさあ!」




 雛子の黄色い爪が、純の手に食い込む。




「私、馬鹿みたいじゃん……!」




 雛子は、純の手を握ったまま、うなだれる。








「……ねえ、純。


 私、どうしたらよかったの?


 私、どうしたら、幸せになれたの?」








「雛子」


 雛子は、涙で落ちた化粧で汚れた目で、純を見上げた。








「……純、たすけて」








 雛子を見た純は、思わず雛子を抱きしめた。


 そうせずには、いられなかった。


 シャツがマスカラで染まることなど、気にせずに。


 もう、嫌われたって、構わない。




 オレンジの香りが、ふわりと鼻をくすぐる。

 純の目からも、なぜか涙が(こぼ)れ落ちてきた。

 雛子も、純の背中へと手を回す。




「雛子。


 俺、


 俺は、


 絶対に……、


 離すもんか!」




「純……!


 ……私っ!


 私は……!


 うわあああん!」




 純に抱き締められ、大泣きする雛子。


 ふたりは、真っ黒なグランドピアノの前で、ただひたすら、泣きながら抱き合っていた。








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― 新着の感想 ―
[一言] 早々のご返信ありがとうございます 作者様の作品で運営さんから ケチつけられるような 要素は無かったと思いますが… 私が読んでいない物語でしょうか 気に入った物語は完結したら 星入れて、レ…
[良い点] ●麗の意識の高さ  JKとは思えぬ気の回り方 ●「後で僕が怒られればいい」と  言い切る音楽教師  こういう肝っ玉は  音楽を楽しむのに必須 ●ネイルを媒介にして表現される  雛子の悲…
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