第2話 久しぶりの依頼
羊とは狼に食料として飼育され、保護されている種族だ。人間が牛や豚を食べるように、養殖されているのだ。倫理面で問題視されているが、狼が羊を飼育することをやめることはない。特殊な力を持つ羊だけは生かされるが、羊のほとんどは能力を持たずに生まれてくる。
「フィアンセが失踪なんて、辛いにゃ。そもそも、羊は能力を持って生まれてくるのは稀なのにゃ。生きているってことは、能力があったってことにゃ☆」
「羊がいる狼の領地に来て、一緒に探していただけませんか?」
「わかったにゃ、このコラットがなんとかしてやるにゃ⭐︎」
話を聞いていた他の店員は、非常に不安な顔をしていた。
「出張するのは、店長であるうちだけにゃ! 他の猫たちはお店を開いていないといけないからにゃ! でも、安心していいにゃ、コラットがいれば大丈夫にゃ☆ 大船に乗った気でいてほしいにゃ」
「泥舟の間違いでは…」
シャルトリューがため息をついた。
「では、軍に護衛を要請しますね」
「いらないにゃ! 軍なんて信用できないにゃ!」
「いくら、口うるさい幼馴染がくるからといって、そんなに嫌がらなくても」
ベンガルが他人後のように言った。
「本当にうるさいにゃ! あんな器の小さい男が護衛になんていらないにゃ」
「へぇ〜器が小さいねぇ」
たまたま用事があってきていたであろう張本人がそこに立っていた。コラットは恐る恐る声の方に振り返った。怒りのマークがみえそうだ。
「要請しようとしていた時点で、もうそこにいらっしゃったのです」
シャルトリューが、感情のない声で言った。
「先に言ってにゃ〜」
「まさか気付いていないとは」
「で、僕の悪口を言ってたの?」
「ちがうにゃ〜ボルド、誤解だにゃ〜」
真っ白な髪と真っ黒な目の少年がそこに立っていた。コラットの年下の幼馴染だ。彼の種族は雪豹だ。真っ白でもこもこででっかいく強い種族で、この氷河期の中、猫の種族の軍の中で要職を担う一族だ。
「そうやって頼りないから年下の僕の護衛が必要となるんでしょ。もう少ししっかりしてよ」
「なにも言い返せないにゃ〜」
しょぼんとしているコラットは反省しているかと思えば、突然叫ぶ。
「だけど、久しぶりの依頼にゃ〜☆」
「変わり身の早さ……本当に反省してる?」
「失礼だにゃー反省してるにゃ☆」
ボルドは頭をか抱えた。調子のいい幼馴染に結局付き合うことになってしまう自分の運命を呪った。そして、そういうコラットを結構好きな自分の感情にも翻弄されていた。放っておけるわけがない。