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戦国生存記  作者: 現実逃避
93/180

93、尾張

永禄七年(1564年)8月末

美濃常在寺


「やっと来ることが出来たな...」

俺(義照)は二つの墓の前に一人居た。

孫六には誰も近付けるなと命じてある。


「そっちに逝った道三から聞いているかもしれないが、龍興では駄目だ。早くて来年には美濃は織田の手に落ちるだろう...。俺ももう同盟を切った。お前の子だから大目に見てたがあそこまで愚かなら付き合いきれん」


目の前の墓は斎藤道三と斎藤義龍の墓だ。義龍が死んでから墓参りには一度も来れなかったのでやっと来れたのだ。


「はぁ...お前は何故そんなに早く逝ったんだ?美濃をまとめ尾張を取ると意気込んでいたのに。俺は見てみたかったんだぞ。お前が信長と直接戦うところを。その為に伝兵衛を預けておいたのに。美濃の龍(義龍)と尾張の麒麟(信長)、本当に強いのはどちらだったのか永遠に分からないではないか...。それに、お前と共に戦いたかったのに...」


俺は清酒を入れた盃を義龍の墓前に置いた。


「俺がそっちに逝った時は上手い酒と肴を用意しとけよ。それと、美濃半国は道三から貰ったから安心しろ。死んでも織田にはやらんからな...」


俺はそう言って持っていた盃で酒を呑んだ。暫くそこに居たが、護衛に付いていた孫六達が出てきた。


「・・誰も近付けるなと命じたが?」


「殿、信長がやって来ました...。護衛は門前で止まり信長一人です。...消しますか?」


「捨て置け。陣に戻るぞ...」


「はっ...」


「それじゃぁ義龍、また時間が出来たら来るな」


俺は墓を離れ帰ることにした。戻る際、信長と会ったが、話しはせずそのまま立ち去った。



永禄七年(1564年)9月


美濃での織田と斎藤家の和議を見届けた後、犬山城まで来ていた。


手に入れた奥美濃と東美濃は所領安堵した者達には人質を上田城に送らせ、龍興の前で俺に付くと宣言した日根野弘就は仮として鳥峰城へ入れた。


それと、信春に東美濃を統治するために、金山に城を築くように命令した。


史実の金山城だ。完成後は家臣を入れるが誰を入れるかはまだ考え中だ。


ただ、信濃の入り口になる岩村城には甘粕景持を城代として置き、改築を命じた。あそこはかなり重要な城だからだ。


とりあえず、今は代理として国清に美濃を任せている。


「しかし、犬山城は見る影もないな....」


「最低限残して後は御命令通り建物は火を付け徹底的に壊しましたので...」


「それで馬鹿兄は?」


俺は隣にいる信春からこれまでのことを説明を受けた。

戦に関しては盛胤が説明した通りで、負傷者は千人を越えていると言う。死者は遺髪や形見になる物を回収後まとめて埋葬したそうだ。

負傷者は既に信濃に戻している。

馬鹿兄はと言うと...。


「はぁ、殺しあったのに意気投合してるって...」

捕虜の勝家と酒を酌み交わして、今は意気投合して語り合っているそうだ。

ホントこの馬鹿兄は凄いのか戦馬鹿なのか分からなくなった。


ちなみに捕虜でなく客人としていると言われて頭が痛くなった。


ついでに、勝家は尾張に返すと言うのでもう考えるのを止めた。


(もう面倒になったから好きにしていいって言っちゃったけど、織田の最高戦力を帰すって何考えてるんだ...。何も考えてないな..。脳が筋肉で出来てるようなもんだし...)


俺は呆れ、疲れ果てながら織田勢を待った。

少しすると織田が僅かな軍を引き連れてやって来た。


「御待たせして申し訳ありません。此度案内役を命じられました佐々成政に御座います」


「同じく案内を命じられました、木下秀吉に御座います」


案内役は佐々成政と秀吉だった。


「ほぉ、秀吉、お主が案内役か?」


「は、はい。信長様の命で....」

秀吉は成政の方を見て言い淀んだので触れないことにした。


「そうか。では案内を頼む」


俺達は二人の案内で清洲まで向かった。二人の軍の半分は元犬山城の受け取りの為に残るのだった。

ただ、建物は跡形もなく無くなっているので、唖然としていた。


その頃、清洲城では丹羽長秀を中心に大騒動で迎え入れる準備をしていた。


「急げ!もうじき来られる!万が一!億が一!不手際等あれば我らは滅ぼされるぞ!!気を抜くな!!」


(あぁーなんで私が....)

長秀は信長より饗応役を任され、胃をキリキリ痛めながら準備を進めていった。史実ならまだ饗応役等に付けるような身分ではなかったが桶狭間の戦いで、林秀貞、佐久間信盛等重臣も亡くなったせいで織田家は新体制で動いていた。


筆頭家老はうつけ時代から信長に従っていた森可成、次席に柴田勝家となっている。本来なら逆だが勝家は一度信長を裏切っている為このようになった。

他にも重臣に河尻秀隆、中川重政、そして長秀自身も選ばれた。

そして、重臣としての初めての大仕事が村上義照の饗応役だった。



信長はと言うと、義照が尾張に来ることが危険ではあるが好機とも思っていた。


(ここで、奴に婚姻同盟を認めさせることが出来れば...。いやどうやって認めさせる...。ならばいっそのこと...いや、失敗する可能性が高い...。)


「殿、村上一行、もうすぐ到着するとの知らせに御座います」


「で、あるか...。下がれ」

信長は知らせに来た小姓を下がらせた。


(和議も俺に有利でまとまった。それに村上は最早援軍に来ることはないだろう。今は美濃に専念するのが一番か..)


信長は今は何もせずに美濃に集中することにした。


その頃義照一行は秀吉の説明を受けながら清洲城に入った。


城では丹羽長秀が饗応役と言うので城内を案内してもらった。

ついでなので、密かに忍を入れさせて貰った。誰も気付いてないだろう。


長秀の顔は笑っていたが、胃の辺りを擦っていたので、かなり胃が痛いのだろう。孫六に言って配下に特製の胃薬を渡して貰うことにした。


糞不味いが効果は本物だ。俺は一度飲んだが二度と飲みたくない。


さて宴だが、見事な物だった。

信長のことだから、破天荒な料理かと思っていたが意外にもまともな本膳料理だった。しかも見た目も綺麗だった。


「ほぉーこれはまた見事なものだな。全て丹羽殿が指示されたのか?」


「ははぁ!!食材に器から全て尾張にある最高級の物をご用意させていただきました!」

俺が感心して饗応役の長秀に聞くと事細かく説明してくれた。


「成る程...。これ程の物を用意するのは容易ではなかったであろう。流石噂に聞いた米五郎左の名は伊達ではないな」


俺が言うと長秀は驚きつつも素直に喜び頭を下げていた。

宴は猿楽や能も行われていた。俺と信長は話をするが何処かぎこちなかった。


俺は信長がこの宴の時に同盟等の話をしてくると思っていたがまだその事には一切触れなかった。と言うか、美濃に関係することを一切口にしなかったのだ。


信長はと言うと、同盟や不戦について話したいと思いつつも、もし、失敗したらと思い言うに言えなかった。


宴も終盤になって、周りも賑やかになっていた。

・・・・・馬鹿兄の席に目が停まったが見なかったことにした。何故なら周りには織田に返した柴田勝家を含めてゴツい男達が集まっていたからだ。


(後で面倒事にならないことを祈ろう・・・)



「そういえば、信長殿は舞を嗜むとか?確か、敦盛だったかな?」

俺が聞くと信長は少しはと言った。


折角なので見せて貰おうと言い信長の敦盛を見ることにした。


と、建前はこんな感じで、本音は信長の生の敦盛を見たかったからだ。

恐らく信長からしたらいい迷惑だろう。

長秀が準備をしてくれたので全員の視線が信長に注がれた。


「人間五十年。化天の~うちを比ぶれば~夢幻の如くなり~。一度生を享け、滅せぬもののあるべきか...」


信長の敦盛は見事なものだった。この時代にビデオカメラがあれば録画して後世に残したいくらいだった。

信長の舞で宴は終わるのだった。



翌日、義照は熱田を見たついでに熱田神社に寄進をした。

熱田は武田の乱取りを受けたせいでまだ復旧中だったがそれなりに活気があった。完全に復旧するにはまだかかるだろうが、そんなに時間はかからないかもと思った。


そして俺達は約束通り美濃半国を手に入れるため鵜沼城、猿啄城、関城を制圧して斎藤家から分捕って信濃に帰るのだった。流石に準備も無しに稲葉山城を落とすのは無理なので諦めた。


信長達はやっと面倒な人物が帰ったと、胸を撫で下ろすのだった。


特に饗応役だった長秀は義照が帰った後胃痛の為倒れたのだった。


しかし、義照が渡した胃薬を飲んで不味さからのたうち回ったが、翌日には今までの疲れからも回復し復帰したのだった。


その後、長秀は今まで以上に仕事に熱が入り、「どんなことも米五郎左に任せれば何とかなる」とまで言われだし、上(信長や他の重臣)からも下(家臣領民)からも信頼され慕われるようになるのだった。


だが、長秀の受難がここから始まる事になるとは、発端となる一人(信長)を除いて思っても見なかったのであった。


そして絶好調の長秀はこれから先、幾度も胃を痛め、胃薬が手放せなくなる人生が待っているとは思っていなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 最近文末がほぼほぼ『た』で終わる箇条書きになってきていて残念。 とても良い作品なので書き方も気を使ってくれる事を願います。
[一言] よく馬鹿兄呼ばわりしてるけど、この3兄弟割りと似てるのがよく考えられてるなと ・謀略がすべて裏目に出る長男 ・内政放ったらかして武芸にのめり込む次男 ・2人の兄の悪い所を両方兼ね備えてる三…
[一言] 美濃半国、奥美濃と東美濃だと面積だけで石高や経済力は半分どころか下手すると20%あるかってくらいだと思うのだが。 信長に伸びる余地を与えるためだろうけど一番おいしい平野部分だけ信長が取るとは…
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