表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国生存記  作者: 現実逃避
92/180

92、和睦

永禄七年(1564年)8月

犬山城、一室


(ワシをわざわざ生かしたのは何故だ?しかもワシの兵達もだ...)

捕虜として捕らわれた勝家は治療された後部屋に一人いた。

部屋の外に見張りがおり、武器等は全て取られているが縛られたりなどせず部屋の中では自由だった。



「分からん。全く何を考えておるのか分からん!!」

勝家はいくら考えても分からずにいた。


暫くすると、部屋の前が騒がしくなり扉が開いた。

「よぉ、傷はどうか?」


目の前にやって来たのは一騎討ちをした仁科義勝だった。一騎討ちと言ったが勝家は防戦一方で討ち取られるのも時間の問題だった。それを見かねた勝家の家臣達が義勝に横槍を入れ、義勝はかわして数名を瞬殺したがその隙を突いて勝家は槍を繰り出し手傷を負わせた。その為義勝は片腕を吊り、片手には酒を持っていた。


「その様子だと、傷は良さそうだな。まぁ、飲もうか?なぁーに毒など入ってない」

義勝はそう言うと持ってきた酒を飲んだ。


「・・何故ワシを討ち取らなんだ?あのまま放っておけば討ち取れておったではないか?」


勝家は義勝を睨みながら言う。

義勝が手傷を負った後義勝の兵達は卑劣にも一騎討ちの邪魔をした勝家の家臣達に激怒して襲いかかり勝家の兵達を八つ裂きにしていき勝家が殺されるのも時間の問題だった。だが、傷を負いながらも起き上がった義勝は全員捕えろと命令し今に至っている。


そんな勝家を義勝は気にもせず持っていた盃に酒を注いだ。


「あぁ?簡単なことだ!俺とお前の決着が付いてないからだ!折角の一騎討ちを邪魔をしてきたあのクソ達のせいでな!」

義勝はそう言うと、酒を飲んだ。


「...は?」

勝家は思っても見なかった返答に何言ってんだと呆気に取られ口を開けていた。


「おめぇ、あいつ(義照)が言っていた鬼柴田なんだろ?あいつ(義照)から織田のつえー奴らの名前は聞いた。鬼柴田と言う織田家一の猛将柴田勝家に槍の名手の攻めの三左っていう森可成、後、若いが槍の又左とか言う奴が居るとな!!」


勝家は義照が織田家の武将に詳しいことに驚きつつも、何故生かしたかまだ分からなかった。


「俺はつぇぇぇ奴等と殺り合いたいんだ。そして俺が最強ってことを日ノ本中に知らしめたいんだ!!!」


「・・・その為だけに、ワシを生かしたと?」


「そうだ!あのままでは決着が付いてない!だから、傷を治して再度やり合う為に治療させた!だから今は飲め!!!」


義勝はそう言うと酒瓶と盃を勝家に差し出した。

勝家はその酒瓶を奪い取り一気に飲み干した。


「御主は大うつけだ!!そんなに腕を磨き強さを求めるなら武者修行の為に諸国を回れば良いではないか~!!!」

勝家がそう言うと義勝は大声に驚いていた。


「あぁー!そうか、その手があったか~!家督を盛勝に譲れば暫く出ても問題ないな!盛勝は俺のように強くはないが政は得意だしな!」


義勝は額に手を当てながらそう言いい、見張りに居た兵士に追加の酒とつまみを持ってくるよう指示をした。


勝家はと言うと義勝に呆れていた。しかし、この怪我では逃げられないし殺されることもないなら付き合うことにした。


その後、酒を飲みながら話をしていて、義勝のことを一家の当主としては最悪だが武人としては面白い人物だと思い始めていた。

そしていつの間にか二人で武について語り始めるのだった。



その頃、両軍は木曽川を挟んで対峙していた。

村上、斎藤軍二万四千と、織田、西美濃衆、浅井連合軍一万八千だ。



村上、斎藤軍本陣


「はぁ、最悪な天気だな...」


「全くです。これでは鉄砲が使えません」


俺達が稲葉山城に向かっていると、織田が河野島に陣を張ったと知らせが入り、そちらに向かった。

しかし対陣する頃には雨が酷くなり、鉄砲が使えなくなってしまった。しかも、目の前の木曽川が増水してきたので互いに睨み合いになっているのだ。


「しかも、あの旗印は浅井ですから、兵の数も増え面倒でしょう。まだ数はこちらが上ですが、この雨と川では...」


雨で増水した川のせいで睨み合いをしているがその間に浅井軍が織田家に合流した。

その為、孫六達に六角の動きを調べさせている。

斎藤龍興は何か言いたそうだがじっと黙っている。前に次は首を切ると言ったのが効いているのだろう。


長井と日根野から説明があり、雨が降った後酷い時は数日は川が荒れると言われた。

念のため、渡れそうな所と上流には見張りを配置している。裏を取られたり、上流で水を止めて水攻めされるのは御免だからだ。


「はぁ、早く帰りたいがどうしたものかねぇ~」


俺は雨が降り続く空を見ながら溜め息を付くのだった。



織田、浅井、西美濃衆本陣


「また、雨に救われたか....」

信長は降り注ぐ雨を見て呟いた。桶狭間の時も雨のお陰で義元の本陣まで近付けることが出来、今回は雨のお陰で鉄砲が使えなくなったが、川が増水して渡れなくなった為、睨み合いになり、浅井が合流出来たので戦力差は更に縮まったからだ。


「義兄上(信長)、申し訳ありませんが我らは来月には撤退しなければなりません」


「長政、分かっておる。だが、この雨だ。どちらも動くことが出来ん」


長政は無理をしてやって来ている為、長期の滞在は出来なかった。

しかも、六角が戻ったので、本国の方が危ないこともあった。


「信長様、ここは和議を結ばれては如何ですか?」


「村上と和議か?あの腹黒(義照)が乗るとは思えんが?」


光秀の提案に信長は無理だろうと判断した。なんせ、一度は助けると明言しているからだ。


「いえ、村上ではなく斎藤家とです」


「詳しく話せ...」

信長は光秀から詳しい話を聞いた。それを受けて、使者を送ることにしたのだった。



数日後


村上、斎藤連合本陣


「裏切っておきながら、和議を結びたいと?ふざけるな!」


織田から使者が二人やって来て和議を結びたいと言った。

やって来たのは、木下秀吉と明智光秀だった。


俺は史実を知ってるだけに何とも奇妙な組み合わせだと思った。


隣で、龍興配下が二人を罵倒していたが俺が振り向くとピタリと黙った。

俺、そんなに怖いことしたか?

長井は黙っており、龍興は震えながら俺(義照)を見ていた。


「とりあえず、言いたいことは全部話せ。元々道三殿からは稲葉山城を含めた西美濃は織田にと言っていたからな。話くらいは聞いてもいいじゃないか?なぁ、龍興?」


「そ、そそそうですね!は、早く言え!!」


俺が言うと龍興は怯えながら使者に言った。何故だ?


「では、和議の内容を説明します」

そう言うと、光秀が説明を始めた。


1、織田家の美濃からの撤退


2、織田家は斎藤家に稲葉山城、黒田城の返還


3、斎藤家は織田家に犬山城の返還


4、斎藤家は裏切った西美濃衆を赦免すること


5、斎藤家は美濃池田郡を浅井へ割譲


6、鵜沼城、猿啄城、関城を斎藤家の物とする


と言った内容だ。

まぁ、案の定、隣に座っている龍興と長井達は怒りに震えているが、俺の方を見て口をつぐんでいた。

(俺、そんなに恐ろしいことしたか?)


とりあえず、好きに答えればいいじゃないかと龍興達に言うと、いきなり大声で「ふざけるな~!」と叫ぶのだった。

耳を塞いでおいて良かった。


まぁ、気持ちはわかる。裏切っておきながら、浅井に領地を渡せや、裏切った西美濃勢を許せだなんて聞ける訳なかった。

東美濃がまだ龍興の物なら間違いなく断って攻めていたかもしれない。


それに、俺には何のメリットも無い。

鵜沼城、猿啄城、関城の三城は中濃になるから斎藤家としたのかもしれない。だが俺は美濃半分を貰える約束をしている。

だがとりあえずは黙っておくことにした。

どのみち援軍から帰った後織田も斎藤も敵になる。


その後、光秀と秀吉による説明(説得)が始まった。光秀は現状を踏まえて説得(理詰め)、秀吉は龍興の心情を汲み取りながら説得していた。聞いていたがこの二人を組み合わせたら意外に危険かもと思った。


若輩の龍興はと言うと、最初はあれだけ怒鳴り散らしていたのが大人しくなり、どうしようどうしようと物凄く悩んでいるようで、長井が必死に二人の説得に対抗していた。


日根野はと言うと、どうも斎藤家を見限り、うちに来るつもりのようだ。誰も認めるとは言ってないのだが...。まぁ、既に城も領地も失っているし、行く当ても無いのだろう。


(まぁ、適当に城を与えて様子を見るのも一つかもしれないな..。それに日根野の頭形(ずなり)兜は興味深いから鎧の開発をさせるのもいいかもな)


俺は様子を見ながら考えていたが、どうも終わったようだ。


「分かった。今回反乱を起こした者達は赦免する。ただし、全員人質を出して貰う!それと織田からもだ!!」


龍興が言うと二人は已む無しと承諾した。織田からの人質については和議の間の監視を俺達がすることとなった。面倒だ...。


和議の内容は、


1、織田家の美濃からの撤退


2、織田家は斎藤家に稲葉山城、黒田城の返還


3、斎藤家は裏切った西美濃衆を赦免すること


4、鵜沼城、猿啄城を斎藤家の物とする


5、裏切った全員が人質を差し出す


6、織田家は和議の間、斎藤家に人質を差し出す(ただし、和議の内容が行われるまで監視として村上家が見る。その後は斎藤家が預かる)



と言うものだ。斎藤家との和議が決まったので俺達がここにいる理由は無くなった。そして次は俺と交渉になるだろう。

と言っても犬山城のことくらいだ。


「さて、光秀、秀吉、犬山城については破壊して引き上げるよう既に命じてある。その後は好きにしろと信長に伝えろ」


「ははぁ...。必ずお伝えします」

二人は頭を下げるが内心、やったと思っていた。これで、村上が撤退するからだ。

俺はと言うと少し、面白くなかったので少し苛めることにした。


「あぁ、待て。それではつまらんな。信長に伝えろ。清洲まで派手に火遊びしに向かうから用意しておけとな」


俺は笑顔で言うと二人は少しして汗をダラダラ流していた。多分意味が通じたのだろう。甲斐でかなりやったしな(忍軍が..)


「恐れながら義照様!! 既に和議は結ばれたのです。何故、清洲まで戦をしに向かわれるなど!!」


「光秀、もう義龍がいた頃のように呼び捨てでいいぞ。使者として和議の話は終わったしな」


光秀が慌てて聞いて来たので、もう呼び捨てで良いと言った。光秀はそれよりも何故、清洲まで攻めるか聞いて来た。


「なに、単純に信長にしてやられたからな。御礼参りくらいしないといけないと思ってな。なぁーに武田のように乱取りはせぬから安心しろ。それに...あいつ(義龍)や道三殿、義元殿が目指した尾張を見てみたいしな」


「だからと言って戦をするなど!!」


「分かりました~!信長様には()()()()()!!義照様が尾張にいらっしゃると御伝えします...」


「木下殿!!」


「義照様は尾張が見たいので御座いましょう。では盛大に御迎えをし尾張をご案内致します。それに戦など、無駄に銭と労力が掛かるだけに御座います。ですのでこれで如何がでしょう?...」


秀吉は戦を避けることを優先した。今まで俺(義照)の元?で仕事をしていただけあって銭に関しては詳しかった。それに、無駄に兵を失うのも馬鹿らしかった。


「ほぉ、客人として迎えるか?で、その時に毒を盛るか?」


俺が冗談で言うと、光秀等一部の者は顔を歪めた。過去にやった人物(道三)がいるからだ。


「いやいや!決してそのようなことは致しません!!そのようなことをすれば、文字通り、織田家は根絶やし、尾張は更地にされかねませんので...」


光秀が困惑しているが秀吉は笑って頭を下げていた。

ホント、人たらしだと思った。


そして秀吉はと言うと内心ビビりまくっていた。何故なら勝手に交渉し、もし失敗すれば閻魔が尾張を本気で攻めてくると思っていたからだ。


「フフフ..フハハハハハハハハ!!あぁ、敗けじゃ敗けじゃ。秀吉、ホント何故うちに来なかった!お主なら商人になれば日ノ本一の商人、武将になれば、最低でも重臣にはなれただろう!うちは武が駄目だろうが内政に秀でておればそれでも出世できるのにな!」


俺が大笑いしながら言ったが周りは困惑していた。光秀なんか口を開けていた。


「では、犬山城で出迎えを待っておこう。兵は一万は連れていくと伝えておけ」


「畏まりました~!!必ず御伝え致します」

秀吉はそう言って頭を下げた。光秀も慌ててだ。

そして秀吉は心底「良かったー」と安心していた。この後、難題(信長)が待っていることを忘れて...。


「さて、戦は済んだ。尾張見物をして帰るぞ!」

俺が言うと俺の配下達は頭を下げていた。

これで、美濃での戦が一旦終わるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 俺なら柴田勝家返すから光秀よこせって言うけどな、秀吉は信長にぞっこんて感じで来ないだろうし。半兵衛も良いんだけど若くして亡くなるし。
[良い点] 和議の代償として兵糧を請求し尾張側から三河を攻めて切り取るとかどうでしょう。これなら特がありますよ!
[一言] まあ元々約束を果たすのが目的で、利益を求めての戦じゃないからな。 どっちかと言うと龍興との関係を断つため、不利益の精算のための出兵だし。 これで斎藤家に振り回されることが無くなったと考えれば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ