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戦国生存記  作者: 現実逃避
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87、巻き添え

永禄六年(1563年)八月


ついに三河の岡崎城が落ちたそうだ。よく半年近く粘ったと思う。

松平家康については情報が錯綜していた。

武田が家康の首を獲ったとか、実は影武者で本物の家康は既に刈谷城まで逃げ延びてそこから尾張に落ち延びたと言う情報まであるのだった。一応武田の首実検には、今川から武将が一人来ているらしい。

ただ、一つ確実なのは家康の嫡男は尾張にいることが確認されていた。

岡崎城が武田に囲まれる前に傅役の石川数正によって尾張の信長の元に預けられたそうだ。


「三河については今後も情報を集めてくれ。後、織田の動きもだ。刈谷城が落ちれば織田と今川はまた繋がるからな」


「ははぁ。直ぐに向かわせます」


俺と孫六が話していると小姓の昌幸が慌ててやって来た。


「申し上げます!伊那郡方面より狼煙が上がっております!!」


俺は直ぐに外に出て狼煙を確認した。狼煙は敵が攻めてきた場合などに上げるようにしていた。史実の信玄が甲斐に張り巡らせた物と同じだ。


「昌幸、秀胤と景持に軍を集めいつでも出陣出来るよう伝えよ」


「はっ!」


「孫六、伝令が来ると思うが追加を向かわせてくれ」


「承知!」

俺は直ぐに指示をして伝令が来るのを待った。伝馬制を用いているので明日には一報が来るだろう。



翌日伝令がやって来た。

「申し上げます。三河より一向一揆衆が鈴岡城まで侵攻!その数凡そ六千!一揆衆以外にも吉良、荒川、松平等の今川家臣の旗印があります!」


(はぁ?家康を討ち取ったから次は信濃に攻めてくるか?武田軍が徳川を圧倒したから武田が援軍になれば勝てると思ってるのか?...)

俺は正直怒鳴りそうになった。


「景持と秀胤は二千の兵を率いて直ぐに援軍に向かえ。正俊と合流後は正俊の命に従って動け」


「はっ!」


「東条、中沢、二人は今川家に使者として向かってくれ。吉良や荒川、松平等今川家臣が攻めて来たので同盟は破られたと判断して三河に攻めかかると伝えろ。邪魔をするなら駿河、遠江にも攻め入るとな!」


「はっ!」


「孫六、昌祐、三河討伐軍を編成する」


「陣立ては如何なさいますか?」

俺は昌祐に聞かれて俺自身が出陣しようと思ったが一人適任が居たのを思い出した。


「馬鹿兄(仁科義勝)を総大将、副将を正俊と国清とし合計九千の兵を向かわせろ。正俊とは伊那で合流するよう伝えてくれ」


「畏まりました」


俺は兄である仁科義勝を総大将にし、初陣の国清を副将に入れた。父上の家臣が付いてるから問題無いだろう。

正俊達三千に援軍二千、それに馬鹿兄と国清の四千が居れば問題無いと考えた。


「あ、馬鹿兄に、思いっきり暴れて良いと伝えてくれ」


「・・・畏まりました」

これまでまともに戦が無かったから戦馬鹿の馬鹿兄がそろそろストレスで爆発してもおかしくないと思ったのだ。なので、今回発散してもらうことにした。


その後指示を受けた者達は直ぐに動いた。


三河討伐軍の総大将になった馬鹿兄こと仁科義勝は大喜びで軍を集めて出陣するのだった。

逆に国清には義照から初陣なのに兄(義勝)の補助を指示されて頭を抱えるのだった。

それに、国清は知らなかった。兄(義勝)の手綱を握るのがどれだけ難しいか。そして、更なる不幸が付いてくるとは...。


その頃三河最後の城、刈谷城を攻めていた武田も一揆勢と一部の今川家臣が信濃に攻め込んだ情報を得ていた。


「あの、大馬鹿共が~!!!」


流石の信玄も大声を上げてしまったのだ。

もう少しで三河を制圧出来るのに余計なことをされたせいだ。信濃に攻め込んだ今川家臣達は元々、被害が大きいから参加できないと武田に合流することを拒んだ者達だった。実は彼ら、「殿(氏真)の命とは言え雑魚の山猿(武田)なんかに従えるか」とデタラメを言って軍に参加しなかった。


「御屋形様、刈谷城に使者をお立て下さい!城を放棄することを条件に城内に居る者全てを解放いたすのです。それで、此度今川との約定は果たされます!」


勘助は直ぐに義信に提案したが、驚いて何故だと言うので代わりに信玄が即認めた。


なぜ、今川家臣と一向衆が信濃に攻め込んだせいで使者を立てないといけないか分からない義信を含む若い衆は反対した。

しかし、重臣小山田信有や傅役の飯富虎昌、叔父の信繁等が黙らせたのだった。


「義信、村上と戦をしたらどうなる!それに全軍で出陣しておることを忘れたか!我らは滅ぼされるだけぞ!」


信繁は珍しく声を荒げて言った。戦に勝てば良いと言うものではないことを忘れていた義信に怒ったのだ。


信繁が怒鳴ることが無かっただけに本陣は一瞬静寂になった。


「では、御屋形様、某が使者として参ります」

そう言って高坂昌信は刈谷城に向かった。

昌信は上手く交渉して、刈谷城にいる者全てが尾張に行くことで合意するのであった。

翌日、刈谷城に武田軍が入り約束通り三河を取り返したのだった。


その後の武田軍の動きは早かった。

直ぐに今川家に使者を送り約定を果たしたことを認めさせ今川家から合流していた軍に城を預け、臣従後、義元から与えられていた甲斐都留郡に即撤退するのだった。


丁度その頃信濃に攻め込んだ一向衆と一部の今川家臣が三河討伐軍としてやって来た義勝に蹂躙されていたのだった。


信濃伊那郡鈴岡城

籠城していた正俊達は呆気に獲られていた。

「仁科殿が来られると聞いていたが何と無茶苦茶な...」

目の前では援軍が到着したと思えばそのまま真っ直ぐ敵に突撃して行ったのだ。

陽炎衆から援軍が向かっており、総大将は義勝と聞いていたのだった。


「我らも城から討って出て挟撃するぞ!」

正俊は直ぐに指示をして城にいる全軍で出陣するのだった。



「ハハハ!!進め!!進め!久しぶりの戦だ!!!強い奴は何処だ~!!」

義勝は自ら先頭に出て大声で叫んでいた。

義勝率いる馬廻り衆はまた義勝同様、退くことを知らない戦馬鹿ばかりが集められていた。しかも、義勝が率いているその軍は以前とは比べ物にならないくらい精強になっており突破力だけでみれば村上家最強を誇っていた。


義照はそんな兄に鎧具足を贈っていた。

当世具足で鉄砲に対してある程度耐えられる物だ。


兜は前立てが百足、脇立てが水牛といった風になっている。

百足なのは前進あるのみで後退しないならだ。兄には似合うだろう。


・・・本当は猪をイメージした物にしようとしたら昌祐や昌豊に反対された。

馬鹿にし過ぎだと言われたのだ。

猪突猛進。これこそ兄(義勝)に一番合う言葉だろう。


言葉通り義勝は敵陣を難なく真っ直ぐ本陣に向けて進んでいた。

その為、左右から挟撃されようとしていた。


(兄上(義照)の馬鹿やろ~!義勝兄上を止めるなんて無理だ~!)


初陣の国清は父から引き継いだ家臣と隠居していた父義清と共に来ていた。

国清は心中、初陣の心配よりも兄義照からの無茶振りに嘆いていた。

しかも義清が国清の初陣を気になって出てきたのだ。

義清がいることは義照も知っており、「まぁ、国清は初陣だし父がいても別にいいだろう」と見て見ぬことにしていた。


「ははは!義勝め、更に強くなったか!ワシも負けてはおれぬの!!須田!陣を変えよ!槍襖だ!義勝の側面から来る奴らを抑えるぞ!!国清!見ておれ!これが村上の戦だ!!」


義清は重臣の須田新左衛門に命じた。

新左衛門も直ぐに配下に指示をして、即座に陣形を変え、義勝の側面を突こうとした敵に突撃し串刺しにしていった。


「兄上達(義勝、義照)の馬鹿やろー!!!」

初陣で敵陣に突っ込まされる国清は一人叫ぶが戦場の阿鼻叫喚に掻き消されるのだった。


戦が終わる頃には辺りは死体だらけだった。

義勝は敵軍大将の松平昌久、吉良義昭の二人を討ち取り、城から討って出た正俊達により、一向衆を率いていた坊主数名を討ち果たしたのだった。


この戦で信濃に侵攻してきた一向衆や吉良、松平軍は壊滅した。荒川や一部の門徒は義勝達の突撃を見て逃走しており難を逃れるのだった。


義勝はこのまま三河に進もうとしたが、死人は少ないが国清の軍が怪我人が多かったので周りから反対され、一旦立て直してから進むことになるのだった。

ちなみに、義勝の馬廻りは義勝同様無傷で返り血で真っ赤に染まっていたのだった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜ武田が甲斐に戻れるのか?
[一言] いや、このまま駿河に攻め込めよ…明確な約定破棄なんだよ これなら松平に援軍出した方がマシだったろうに、やっぱり裏目に出たか
[良い点] 国清くんに萌えたwww [気になる点] 誤字報告:「ははは!義勝め、さらに強くなったか!ワシも負けと【け】れぬの!!~」 【け】はいらないでしょ。
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