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戦国生存記  作者: 現実逃避
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86、毘沙門天と閻魔

永禄六年(1563年)五月

上田城

「そうか、織田は派手に負けたか」


「はい。竹中半兵衛と言う若者が伏兵戦術で大勝利に導いたと言うことにございます」


四月に斎藤家と織田家の戦があった。誰もが数に勝る織田が勝つと思っていたが半兵衛の伏兵戦術に翻弄されて見事に大敗したようだ。


「伏龍がやっと表に出てきたか...」


「殿、竹中半兵衛が殿のおっしゃった伏龍なのですか?」


昌祐が聞いてきたのでそうだと答えた。

それからその後のことを聞いたが、龍興が大勝利をもたらした半兵衛を褒賞するかと思ったらそうではなく今までのように馬鹿にして酒に溺れているそうだ。


「孫六、配下の者を半兵衛の調略に回してくれ。出来れば引き抜きたい」


「畏まりました」


「では次の報告をしてくれ」


「はっ、三河の方の報告をさせて頂きます」

三河に接している伊那郡を任せている正俊から報告があった。


武田は吉田城を落とした後、二週間近く動かなかったがついに動きだし岡崎城に向かったそうだ。

どうも今川家からの補給を待っていたらしい。まぁー今川の補給が遅れに遅れたらしい。武田は無駄に時間を過ごしている。


家康は武田が動かない間に一向一揆勢に戦を仕掛け勝利したそうだ。何でも怒り狂った家康自身が先陣を切って裏切った元家臣に襲いかかったそうだ。元家臣は家康とは戦いたくなかったらしく逃げ出した。その為一揆軍は混乱してそのまま敗北したそうだ。


その後、岡崎城に戻り武田に対して籠城戦をするため準備をしていたと報告してくれた。


「現在、武田は岡崎城を包囲していますが、士気の高い岡崎城を落とすまでに至っておりません」


「家康に味方するのはどれくらい居るか分かるか?」


「岡崎城の南にある桜井城と西尾城、後刈屋城くらいかと。安祥城は一揆勢に奪われて奪還した際焼かれていますので織田からの援軍が来たとしても...」


(恐らく無駄に兵を失うだけか...)


「そのまま監視を続けろ。もし、三河から逃れてきた者が入れば受け入れ保護してやれ」

俺が言うと幸隆が待ったをかけた。


「殿、それはあまりにも危険です。武田や今川が引き渡しを要求したり、それを名目に攻めてくるかもしれません」


「確かにあり得るか..。しかし逃げて来た民は保護してやれ。その代わり、三河が落ち着いたら戻すことを条件にせよ」


「畏まりました」

その後も評定を行い、上野方面の報告や各地の情勢を聞いて評定を終えた。


「次回から輝忠達も評定に参加させることにする。早い内に学ばせておく方がいいだろう」


「「ははぁ」」


(さて、来月は軍神相手に会談か~...。秀綱を残しておけば良かった...)


俺は来月に迫った軍神長尾景虎との会談のことを考えることにしたが上泉秀綱が居ないことに少し悩んだ。


秀綱は五年程武者修行を許した。と言うのも秀綱が出奔したいと言ってきたからだ。唖然として開いた口が閉まらなかったが落ち着いて理由を聞いた。


秀綱自身武者修行に出て新陰流を広めたいのと自身を更に磨きたいと言ってきたのだった。


なので何とか説得して家臣としては居て貰い代わりに五年は好きにして良いと言うことにした。


息子の秀胤は残っておくことになったのだ。



永禄六年(1563年)六月

善光寺


俺は二千人程連れてきて善光寺に入った。長尾景虎と会うためだ。


互いに護衛は三名までとしたので甘粕景持、鵜飼孫六、真田幸隆を連れてきた。


「長尾様が参られました」

しばらくすると景虎と三人がやって来た。

長尾側は直江景綱、鬼小島弥太郎、宇佐美定満の三人だった。


「長尾殿、御久し振りですな。最後にお会いしたのは箕輪城でしたかな?」


「村上殿は箕輪城にお会いした時とは少し変わったようだ。遅れたが当主になられたことお祝い申しあげる」


「ありがとうございます。私としては父から当主を受け継ぎましたが長尾家とは今後も協力していきたい」

他愛もない挨拶を済ませてから速攻で同盟の継続に話を持っていった。


「我らとしてもそうありたいが、北条と交渉しておるようだが何故か?北条は関東管領上杉憲政様を討った敵であるが?」


「最早、関東に上杉家の居場所はありません。関東管領職も憲政様が討ち取られ、将軍が足利義氏を古河公方として認めたことで、最早北条が継いだようなものです」


俺が言うと景虎の目付きが変わった。


「では、三国の同盟は無いというか?」

三国の同盟とは長尾、上杉、村上で結んだものだ。


「三国同盟は無いものと考えています。なので亡き長野殿がまとめた西上野衆と同盟を結んだのです」


「それは関東管領上杉家への裏切りではないのか?」


景虎が言うとかなり緊迫した状態になった。互いに後ろの三人が何があってもいいように構えている。

俺の返答次第では争うことになるからだ。


「裏切りですか..。見方によってはそうなるかもしれませんね」


俺の発言に周りは緊張した。裏切りを認めたようなものだからだ。

「お主..」


「しかし、上杉家は自ら滅んだようなものです。若い上杉龍政は重臣妻鹿田の傀儡となり家臣や民の信頼を失った。龍政が越後に逃れた後、長野殿や一部の元上杉家臣は北条に抵抗して上杉家再興の為に戻って来ることを願っていた。しかし、龍政は何をしていた?越後で酒や女に溺れているではないか?」


景虎達は龍政の状態を知られていることに驚いた。一応関東管領上杉家の嫡男なので館を与えてもてなしていたが父憲政同様遊興に溺れていたので周りから隔離していたのだった。


「忍か...。いつの間に紛れていたか..」


「龍政が管領様の敵討ちの為に兵を挙げていればこのようなことにはならなかったでしょう。我らも同盟国として参戦していたでしょう」


俺が言うと景虎は目をつぶり思案し始めた。

義照の言うことももっともでもあったからだ。当時は直ぐに出陣出来なかったとしても、上野の元上杉家臣が北条に対抗している間に龍政が動けば状況は変わっていただろうと思ったからだ。


しかし、龍政は初めは敵討ちを言っていたが、次第に女や酒に溺れていって今では敵討ち等については一切何も言わなくなったからだ。


「では、関東管領上杉家をどうするつもりだ?」


「そちらにお任せします。ただ、もう立ち上がられても我等は手を貸すことはありません。それと上野は我等が統治させていただきます。それが亡き長野殿との約束ですので」


「武蔵はどうするつもりだ?」


「我等から手を出すつもりはありません。北条と交渉と言いましたが北条が上野を放棄すれば和解するつもりです。無駄な争いなど無意味ですので」

それを聞いた長尾勢は顔をしかめた。

特に直江は上杉龍定を旗印に攻め込むことを考えていたからだ。


「そうか..。上野が終わればお主は何処を攻めるつもりか?」


「東美濃と下野。美濃は道三殿との約束で頂けることになってますので。その後は領地の発展に勤しむつもりです。長尾殿は次は佐渡ですか?それとも能登ですか?」

俺が聞くと景虎は微笑み、佐渡だと言った。


「では、我等との同盟、継続していただけますか?」


「あい分かった。同盟を継続しよう」


「御待ち下され!」

景虎が了承したが宇佐美が待ったをかけた。


宇佐美は景虎に人質を取るように言った。景綱も同じように言ってきたのだった。

やはり、北条、武田、今川と和睦した後、越後に向かって来られる可能性があるからだそうだ。

こっちとしても人質を出す気は無かった。


「こちらとしては人質を出すつもりはない」


「では、婚姻同盟では如何でしょうか?景虎様はまだ、御正室を迎えられておらぬようですが?」

俺が拒否ると幸隆が婚姻同盟を提案した。


「ワシは不邪婬戒ふじゃいんかいを破るつもりはない。婚姻を受け入れることはできぬ」


「では、御一門の方は如何か?確か、上田長尾家に男児が一人居られたはずですが如何か?」


「上田長尾...。あぁ~、政景殿の子か。卯松だったか?確かに娘とは年が近いが..」


俺が言うと宇佐美と直江の二人は猛反対している。上田長尾の長尾政景は一度景虎に謀反を起こしているし、以前、村上へ援軍として出陣しており裏で繋がったりして力を付けさせ過ぎると言うのだ。


それに上田長尾を後押しして越後に攻め込む可能性があると言うのだった。

勿論、そんなつもりは微塵も無い。甲斐の整備で銭は湯水の如く流れてしまうので無駄な出費はしたくなかった。


「姉上の子である卯松をワシの養子としよう。それなら問題あるまい。村上殿もそれで良いか?」


「「御館様!!」」


「こちらとしては何も問題ありません。まぁ次期当主に関しては我らは一切関与しないので、そちらだけで話をして頂きたい」


俺はそう言うと同盟は成立と言うことになった。

婚姻の時期などは重臣同士で話し合うことになり今回の会見を終えるのだった。


それと、密かに俺に書状を送ってくる人物について話しておいた。


景虎が良ければ是非ともうちで引き取りたいとも話した。一緒に来ていた宇佐美と直江は驚き憤慨していたが、景虎は顔色一つ変えず後日連絡すると言い帰っていくのだった。



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