60、いざ決戦へ
上田城
村上連合軍本陣
「義勝め!よくやった!」
「まさか、七千の兵で二万の今川軍を撃退するとは、流石、武勇に秀でるだけありますな!!!」
「それに、斎藤家から援軍も来た!これで我等の勝ちは揺るがぬぞ!!」
馬鹿兄達の報告を聞いた本陣は既に勝ちは決まったと大喜びだった。
俺はと言うと、今川を撃退したことは驚いたが、犠牲が大きいのでこの後が大変だと頭を抱えた。
と言うのも、荒砥城、葛尾城が落城している。その為、武田が決戦を仕掛けて来る可能性が減り、こちらから攻めなくてはならなくなるからだ。
(何とかしてこちらに向かわせないと...。しかし、馬鹿兄は今張遼と言うより、今張飛じゃないか?戦馬鹿だし...もしくは呂布か...)
「急報!申し上げます!!軍勢がこちらに向かってきております!!その数およそ三千!!」
「武田が来たのか!」
知らせを聞いた父が立ち上がり大声で聞いた。
「いえ!違います!旗印は七曜星・二枚矢羽根と九曜星に御座います!」
(全く、こっちを見透かしたように現れるな...)
俺達以外(義照と家臣団)はどこの軍かと言い合っていたが俺は良い時に来てくれたと心の底から思った。これで、武田を引きずり出せると確信したからだ。
「味方だ。門を開け迎え入れろ!孫六行くぞ」
「待て義照!味方とは誰だ!!」
俺が行こうとすると父に止められ聞かれた。高梨や長尾も答えを待っているようだった。
「上洛の時に知り合った影の二大勢力です。これで武田をこちら側に引きずり出せます」
俺はそれだけ言った。俺の答えにそこにいた幸隆は頭に手を置いて、残っていた義清達に誰が来たか説明するのだった。
来たのは周辺国にある各店の店主やその部下の陽炎衆、それに...
「望月殿、遠路はるばる忝ない。それとそちらは確か三太夫の側にいた..」
「失礼しました。名を申しておりませんでした。某、百地正永と申します。父に変わり伊賀忍軍を率いて参りました。」
「そうか三太夫の息子か」
そう、百地正永と望月出雲守が来てくれたのだ。
「それで、書状に書いてあった約定は必ず果たしてもらえるのですか?」
「勿論だ。嘘だと思えば二の丸の奥に行け。そこで確認できる」
正永が内容を確認してきたので実物はあるから見てこいと言った。しかし、正永は後で良いと言ってくれた。
「我らの方も果たして貰えるのですか?」
今度は望月出雲守が聞いてきた。
「勿論だ。必要なら誓詞血判書でも用意しようか?」
俺が聞くといいと言った。
「伊賀忍軍二千」
「甲賀忍軍一千」
「「この戦に参戦致します」」
「よろしく頼むぞ!これで武田と北条を破れる!」
俺は二人を本陣に連れていった。
本陣では機嫌を悪そうにしていた父が待っていた。
俺は二人を全員に紹介して席につかせた。念の為、俺の重臣達と一緒にした。
「さて、義照。言いたいことは山程あるが、先程言っていた武田を引きずり出せるとはどうやってだ?」
「はい。では...」
俺が説明すると、全員が青ざめていった。孫六と幸隆は忍を呼んだ時点でなんとなく察していたようだ。
悪逆非道と言われようが、武田が先に仕掛けてきたのだからそれ相応の報いは受けてもらう。
そして、了承を得たので策は実行されるのだった....
数日後
葛尾城 武田軍
「急報!急報に御座います!!」
ボロボロの男が武田本陣に駆け込んだ。
本陣には別動隊も合流し晴信、信繁と重臣が集まっていた。
「一体何事か!!」
板垣が聞くと甲斐に残っている駒井高白斎からの使者と名乗り、書状を渡した。
それを受け取った晴信は内容を読んで驚愕し顔を真っ赤にして激怒した。
「なんだと!!!おのれ!村上め~!!」
晴信は怒りのあまり怒鳴り声を上げた。
「兄上!一体何があったのですか!!」
晴信が激昂したのに驚いた信繁は兄から書状を取り内容を確認した。
「そんな!村上は、義照は正気か!」
「信繁様、一体何が書かれているのですか?」
重臣の諸角が訪ね、怒りを通り越して冷静になっていた信繁が書状の内容を伝え、全員が怒りを露にした。
「村上は、義照は人の皮を被った悪鬼か!!」
「なんということを!!このようなことが許されるのか!!!」
義照は甲斐で徹底した乱取りと虐殺を始めたのだった。
乱取りと言えば、簡単に言えば前回武田が木曽に対してやったことだが、義照の場合それに虐殺も加わり苛烈で残虐だった。
まず、乱取りを行い徹底して食糧や金品を奪い、残った住民は家屋に閉じ込められ、生きたまま火あぶりにされたり、槍で串刺しにされ見せしめにされたのだ。
実際に行っているのは村上軍ではなく、伊賀甲賀の忍軍だ。
「駒井様は何とか守ろうと兵を動かされましたが、敵勢は余りにも多く、民を事前に避難させることしか出来ませんでした!!」
「待て!一体如何程の数が来ているのか!!」
「およそ三千に御座います!!残った我等では手も足も出ませんでした!申し訳ありません!!!!」
使者は大泣きをしながら答え伏して頭を下げた。
「おのれ村上め!!」
「御館様、直ぐに甲斐に戻りましょう!」
晴信は家臣達の意見を聞いていたが怒りは収まっていなかった。
「申し上げます!!村上より使者が参りました!!」
「「なんだと!!」」
本陣の者達は驚きながらも生かして帰すものかと思った。晴信もそうだった。
「お初に御目にかかります。某、村上家家臣、室賀行俊に御座います。」
使者として来た行俊は丁寧に挨拶する。
そんな室賀に対しての返答は周りから一斉に向けられた刀だった。
「甲斐での貴様等の所業は聞いている。殺す前に聞いてやる。何をしに来た?」
晴信は目が血走りながらも聞いた。
「甲斐でのことは御悔やみ申し上げます。然れど、そちらが木曽でやられたことと変わりません。それでは、使者としての務めを果たさせて頂きます。村上家は上田原にて決戦を求めます。ただ、時を無駄に過ごすのは互いに不益に御座います。特にそちらがそうです。若君(義照)からの言付けに御座います。臆病に決戦を避け続けるなら、躑躅ヶ崎館におる者達悉く磔にし生きたまま火を付け狼煙としてしてやろうとのことです」
「貴様~!!!」
「御館様、落ち着いて下され!!」
「兄上!気持ちは分かりますが待ってください!!。今ここで殺してはなりません。義照のことです!まだ何かあるはずです!」
晴信は怒りのあまり斬り殺そうとしたが、勘助と信繁に羽交い締めにされ止められた。
行俊は信繁の言葉に義照を、よく調べているなと感じた。
「では、続きを...。ただし、十日以内に上田原に来られ決戦を受けると言うなら一時的に甲斐での所業を止めましょう。しかし、受け入れず、使者も帰らぬ時は甲斐の国は地獄になると思え。以上となります。ご返答は如何に?」
室賀の言葉に囲んでいる全員の手が止まった。ここで使者を殺したいが殺せば甲斐は文字通り悲惨な目に遭うのが間違いないからだ。前回の火付けがそれを証明していた。ただし、違うのは前回は敵とは言え民百姓を苦しめたくないと言っていたが、今回は一切容赦が失くなったのだ。
「室賀、義照に何があった?何故そこまで非道になった?」
本陣の末席にいた義利が尋ねた。義利は弟の義照のことを一番知っているが余りにも変わりすぎたからだ。
「・・・義利様。元主である貴方様の問いなので答えましょう。恐らく原因は二つ、一つはあなたが村上家を裏切ったこと、もう一つは木曽での武田の所業があったからでしょう。まだ、情けはありますが以前と比べて容赦はしなくなりました」
「使者殿、申し訳ないが話し合う為、別室にて御待ち下され」
信繁が室賀を別室に案内するよう家臣に命じ広間から出した。
「兄上・・・」
「分かっている・・・。最早後戻りは出来ない...。村上と決戦する」
「勘助、小山田、策は二人に任せる。板垣、北条軍を上田原に連れてきてくれ。出来れば、北条一と言われる地黄八幡をな」
「畏まりました!必ず連れて参ります!! 」
晴信は使者を呼び戻し、決戦を受けると伝え送り返した。
そして、二日後、葛尾城に火を放ち上田原に向かうのだった。また、道中通る村には悉く火をかけていき、報復するのだった。




