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天文二十三年(1554年)六月
ついに武田が動いた。
しかし、先に動いたのは北条だったようだ。北条は別動隊一万を内山城に向かわせ本隊一万五千が長窪城に向かったそうだ。
上田城
「武田は二万を荒砥城に、五千を塩田城に向かわせております」
「荒砥城から援軍要請が来ています!」
「塩田城は放棄!火を付けて使えぬ様にしてから荒砥城に合流しろ!」
「報告します!高梨政頼殿と長尾家から援軍五千が荒砥城に向かいました!」
これを聞いて俺は塩田城の工藤昌祐に兵を率いて上田城に戻れと伝えた。
荒砥城には一万四千八百と籠城するなら十分な兵力になるからだ。
それにしても長尾家からの援軍は意外だったが助かった。景虎が京に遊びに行っており援軍は無理だと思い頭数に入れてなかったからだ。
(だけど、景虎はまだ戻っていないから誰が大将だろう?)
少し心配なのは木曾からの情報が来ないのと、北条が包囲しかしないことだった。
内山城も長窪城も包囲しかして居なかったのだ。
ただ、長野業正が援軍を出せないように上野にも兵を送っている。
数日後
「大殿(義清)より武田と決戦する故合流せよとのことに御座います」
「父上に荒砥城を放棄して上田城に来てくれと伝えてくれ。万が一破れたとしても上田城なら例え、五万だろうが十万だろうか落とされることはないとな!」
「かしこまりました!!直ぐに戻り伝えます」
昌豊達が戻ってくると同じ頃に父から使者が来て武田と決戦すると言ってきた。
今川は木曽へ、北条は内山城と長窪城へ向かっており、荒砥城、上田城と周辺の小城の兵を集めると二万三千と武田と互角の兵数になるので勝ち目があると踏んだのだった。
これは俺も幸隆も賛成した。
しかし、万が一と言うこともあるので、荒砥城で決戦を仕掛けるよりは逃げ込める上田城があるこちらの方がいいと考えた。
それに、上田城の近くには村上に取って縁起の良い場所がある。
そう、上田原だ。
天文二十三年(1554年)7月
武田本陣
「何?村上の本隊が上田城に向かった?」
「はっ!荒砥城に千人程残して残り全軍を率いて上田城に向かいました」
晴信達は偵察の報告を聞いて、悩みだした。元々、荒砥城へ向かっていたのは義清を攻めることで義照達を城から引きずり出して打ち破るためだった。しかし、晴信達の思惑とは逆に義清は上田城に向かってしまったからだ。
「敵は我等との決戦を望んでいるのやも知れませぬ...」
「御館様、敵はおよそ二万三千、我等とほぼ同数です。ここは北条と合流すべきかと」
「いや、ここは先にもぬけの殻に近い荒砥城と村上の本拠地である葛尾城を落とし敵の士気を下げるべきでは?」
晴信は皆の意見を聞き思案した。
(今向かえば間違いなく決戦となろう。しかし、小田井原での戦を考えれば負ける可能性は高い。ならば北条と合流は必須..)
「勘助、村上が荒砥城に兵を残したのは何故だと思う?」
「恐らく、城攻めを行わせて時間を稼ぐか、我等が上田城に向かった際補給路で待ち伏せし兵糧攻めを仕掛けてくるのやも知れませぬ。北条が以前関東管領軍に仕掛け結果を残しましたので恐らく真似て来たのかと...」
「御館様、ここはあえて全軍で荒砥城を落とし、北条、今川と合流すべきと存じます。木曽はおよそ七千、二万にもなる今川の敵ではありません。それに木曽の姫が義照に嫁いでおります。木曽一族を人質とし誘い出すのも一つの手かと...」
信有の進言を聞き晴信としてもありだと考えた。
「信有の案に意見がある者は居るか?」
「御館様、全軍でなくとも荒砥城に一万、残りを葛尾城に向かわせるべきではないでしょうか?大軍とは言え、今川も直ぐに木曽を制圧するのは無理でしょう。それまで我等は万が一に備えて逃げ場を潰しておくべきかと」
信方の意見を受けて晴信は、信繁を大将とした別動隊一万を荒砥城へ、自身の率いる本隊を葛尾城へ向けることに決め、今川、北条に直ぐに使いを出すのだった。
数日後
上田城
「大殿が来られたぞ!門を開け~!!」
見張りの声で門が音を立てて開かれていく。
「「「「あぁ............」」」」
鉄門が開かれて行く中やって来た義清達は城を見て唖然としていた。
特に義清は信濃大同盟以降来たことが無かったので、あまりにも城が変わっていたのと、小田原城の戦に参加したことで、この城が落とせないことを悟った。
「父上お待ちしておりました。高梨殿、此度は援軍忝なく...」
「あ、あぁ義照殿、盟約に従い参戦したまでだ。長尾家からも援軍が来ている」
俺が高梨政頼に挨拶すると一人の男を紹介してきた。
「長尾政景だ。お主のことは御館様(景虎)から聞いている。敵に回せば面倒な奴だとな!」
政景は豪快に言ってきた。隣の政頼は冷ややかな目で見ていた。大丈夫か?
「これはこれは長尾家一門の政景殿が来られるとは。村上義照に御座います。どうぞ宜しく」
「ハハハ!しっかし見事な城だな!こんな城は見たこと無いぞ!この城なら景虎にだって落とせないだろう!!」
俺が挨拶をすると政景は城を見渡しながら言っていた。
「この上田城は構想に一年、築城に十三年と、心血を注ぎ造り上げた我等、いや、この地に住む全ての者達の希望となる城ですので、そう易々と落とされることはありません」
「ほぉ!そこまで言うか!」
俺が言うと政景は物凄い笑みを浮かべていた。周りにいた兵達もその顔に引いていた。
だが、俺は似たような顔を見たことがある。
馬鹿兄がいい獲物を見つけた時の顔だ。俺は更に、嫌な予感がするのだった。
城に入り本丸の館で軍義を開いた。
「では、今の信濃の状態を説明します。孫六」
「はっ!ではまず武田の動きから~」
孫六は父達が来るまでに集めた情報を説明していった。
まず武田は荒砥城に一万、葛尾城に本隊が向かった。
葛尾城には母や源五(後の国清)がいたが父が荒砥城を離れる際、高梨政頼の居城飯山城に避難させたそうで、城には兵千人足らずが籠もっているそうだ。荒砥城も同じだ。
間違いなく落とされるだろう。
次に今川だが軍の動きが遅過ぎる。
総大将は雪斎らしい。恐らく今回の援軍に不満を持ち、自軍の兵を失わないようにわざと歩みが遅いのだろう。
しかし、もうじき木曽に入るので遅かれ早かれ戦が起きるだろう。
そして、佐久だが...。
「そうか。内山城は落ち、長窪城は三の丸を落とされたか...」
「はい。内山城の清種殿は海野幸輝のいる志賀城に退かれました。北条の別動隊は内山城を制圧後は城に入っております。長窪城の信春殿の方は風魔の数が多く詳細は分かりません」
(信春、無事でいてくれよ....)
「やはり長野殿は足止めを食らっているか...」
「長野殿の援軍は期待しない方が良いだろう」
「しかし、そうなれば兵力差が開くな...」
報告を聞いた者達が意見を言い出し始めた。長野殿が来れないこと、北条によって佐久の守りが破られたことは大きかった。
「この城に籠もれば負けることはないだろうが、武田が来ることはないだろうな」
「では、ここは城を出て野戦で決着を着けるべきだ」
「しかし、北条、今川が合流すれば数に劣る我等の方が不利ぞ!」
「だが、このまま籠もれば、武田に乱取りされ続けられるぞ!」
結局、議論は続けられたが結論は出なかった。なので、荒砥城と葛尾城の様子次第となるのだった。
その後、驚くべき知らせが飛び込んでくるのだった。




