54、道三の誘い~正徳寺の会見へ
天文二十二年(1553年)四月十五日
俺(義照)は美濃に来ている。
なぜ美濃に居るかと言うと道三から「織田の大うつけと会うから見に来ぬか?来るついでに土産と鉄砲隊を待ってるぞ」と来たのだった。
要するに土産として、神水酒や清酒を持って来てくれ。後、鉄砲隊を貸してくれ・・・。
と言うことだ。
時期的に悩んだが、もうじき田植えの時期だから武田は動かないと考え、父の許しを得て兵千五百を連れてやってきた。
うち千人は鉄砲衆だ。
連れてきたのは鉄砲衆を任せている栗田寛安、護衛として上泉秀綱、甘粕景持、疋田景兼の三人だ。
と言っても景兼は秀綱に付いている。
しかし景兼は信濃にいる間、馬鹿兄(義勝)とイカれた取り巻き(義勝直兵)の指導(実戦訓練)をよくやっている。
(馬鹿兄が景兼と互角だったのは流石に驚いたな...)
上泉秀胤には人質の子供らに剣術指導をさせている。
秀綱からも「教え方を学ぶ良い機会」と言われていた。
「さて、注文の品はこれでよろしいですか?」
「ハハハハ!勿論だ!金は出さんからな!!」
俺が聞くと道三は機嫌が良かった。これで織田を驚かせると思ったのだろう。
道三にどうするのか聞いたら正徳寺に二千人連れて行き古老の者五百人に折り目正しい肩衣・袴姿の上品な格好をさせ正徳寺の御堂の縁に並んで座らせ、斎藤家と村上家の鉄砲衆千五百人は正徳寺正面に並んで待ち受けさせ信長の度肝を抜くつもりだそうだ。
俺はどうしたら良いか聞いたら御用商人として道三の直ぐ後ろ、高政の反対側に座れるようにしてやると言っていた。
なら、信濃の大黒屋を名乗ろうと伝えておいた。勿論俺が直接管理している信濃の商家だ。働いてるのは陽炎衆や領民だ。と言っても大半は陽炎衆だ。
道三と当日のことを決めた後、俺は寿郎屋の伝兵衛に用意をさせた。
指示をしていると、高政から使者が来て密かに二人で会いたいと言ってきた。
俺は了承し近くの屋敷に向かった。護衛として秀綱、景兼、景持が付いてきたが、高政が一人で出てくると三人を待たせ部屋に入った。
高政は本当に一人のようだ。
「義照、俺は信長を始末する。協力してくれ」
「・・・は?」
俺は高政が言ったことに戸惑った。
高政は織田との同盟には家臣達と同じで反対だった。しかし、道三が反対を押しきって婚姻同盟をしたそうだ。
「ここで織田信長を討ち一気に尾張に攻め込む。父上(道三)は腑抜けになったのだ!」
そう言った後もこれまでのこと、土岐頼芸追放のこと、美濃のこと、家臣領民のことなどを熱く語った。
「待て待て待て!!高政、まずは落ち着け」
俺は熱が入っていく高政を落ち着かせてから話をした。
「まず、俺は今!信長を討つことには賛同しない。今そんなことするなら俺は斎藤家との同盟を破棄してでもお前を止める」
「何故だ義照!!お前は父が正しいと言うのか!」
「だから落ち着けって!説明するから!」
俺は高政に説明していった。まず同盟している相手を呼び出しておいて殺すなどしたら斎藤家の信用は地に落ち、周り全てが敵になること、物事には順序があり、家督を継いで、家臣達をまとめ上げてから破棄すべきと伝えた。
「父上は私に家督を継がせるか分からん...。最近弟達ばかり可愛がっている...」
(あーこの頃にはもうそうなっていたのか...)
俺は史実を思いだしながら思った。史実では道三は高政の弟、孫四郎や喜平次を可愛がり高政の廃嫡まで考えてたと言われていた。
「なぁ、家臣達はお前に付いてきてるんだよな?」
俺が確認すると何人か家臣の名前を上げながら答えた。その中には西美濃三人衆や長井道利、日根野弘就などの名前があった。
だったら家臣をまとめて道三を強制的に隠居させたらどうか伝えた。
それと、道三が美濃にいるのが邪魔なら預かることを伝えておいた。まぁ、追い出す方法は考えてくれと丸投げした。
一応、高政は信長を騙し討ちするのはやめると言ってくれた。
ホント高政は考えは保守的だが人情に厚く人から慕われやすいなと改めて思った。
・・・ホント道三とは真逆だ。
それから五日後
天文二十二年(1553年)四月二十日
正徳寺の会見当日
正徳寺では斎藤家の多くの者が大急ぎで準備をしていた。
俺は栗田寛安に斎藤家の鉄砲隊の指示を聞いて動くよう指示をした。
それと、弾は込めず火縄に火だけは付けておくようには言っておいた。
俺は部屋でのんびり茶を立てていたら高政が飛び込んできた。
「義照!!父が何を考えてるか分からん!」
高政は怒り狂っていた。
訳を聞くと、道三は信長を出迎えに向かったそうだ。本人曰く、顔を覚えておくだけだそうだ。
俺は信長がどんな人物か見に行ったなと思った。
(まぁ、これで見に行ったせいで道三は信長の策にやられるんだけどな..)
そんなことを思いながら高政に茶を立てた。
「まずは一杯...」
そう言って高政に茶を差し出した。
「熱っ!!」
高政は手に取ると一気に飲み干した。
少しぬるま湯にはしていたけど熱かったようだ。しかし一気に飲むとはよほど怒っているのだろう。
「まぁ道三殿がどういう考えか分からんが、今は好きにさせればいいじゃないか。その間に家臣達をまとめ上げればいいんだから」
「しかしだな!!」
「しかしもかかしもあるか。したたかに確実に動けば良かろう。当主になれば変えていけばいいのだから」
俺が言うと黙った。今は我慢の時と言うと座ってから茶を要求してきた。
なのでもう一杯茶を立てた。
久秀殿に習ってて良かったと思った。
しばらくすると道三が戻ってきたが機嫌が悪かった。
信長は噂以上の大うつけで尾張を乗っ取るために帰蝶を出したのは間違いだったとまで言っていた。あのような当主なら攻め滅ぼした方が早かったとまで言っていたのだった。
ただ、信長の率いた軍に関しては驚いて誉めていた。鉄砲も五百丁はあったそうだ。どこで揃えたのやら。
俺は内心道三が信長の術中にはまったなと思った。
なぜなら道三は正装ではなく、軽装で会うと言っていたからだ。
高政や家臣には正装のままでおれとは命じていた。驚かす気でいるのだろう。
その後、道三と高政は俺の姿を見て大笑いしていた。
俺は会見に参加するにあたって着替えており黒で統一した道服姿だったからだ。
一応、茶を立てられるので千利休を真似てみたのだ。ちょっと先取りし過ぎたかもしれない....。
道三に説明すると後で茶を飲ませてもらうと言われたので分かったと伝えた。
それから少しして信長が到着するのだった。
信長は道中、道三が見ていたことに気が付いていた。それと同時に自分が仕掛けた策が上手くいくと確信していたのだった。
しかし、正徳寺に着いた時心底震えが止まらなかった。
目の前には自軍の三倍はあるであろう鉄砲隊がいたからだ。しかも、全員火縄に火がつけられており、何時でも撃てる状態だったからだ。
織田家の財力でさえ会見前に五百丁揃えるのがやっとだった。
しかし美濃には千五百丁もあることに恐怖し何としても道三を味方に付けなければと決心するのだった。
織田の兵士達も驚いており中には震えている者もいた。織田兵も鉄砲の凄さを知っているからだ。
一発討てば一人は死ぬか重傷、そう学んでいたのでもし戦闘になれば生きては帰れないと思ったのだ。
信長は小姓と共数人を引き連れ中に入り、兵士達は外で待たすのだった。
ついに正徳寺の会見が行われようとしていた。




