50、将軍との謁見
やっと将軍との謁見になった。
しかし、広間に通されたがどうも殺気だっていた。
俺は刀や脇差しを取られ丸腰(大嘘)だが、幕臣達は脇差しを差し、側には刀が置いてあった。
(十人か。まぁ、何とかなるか...)
俺はもし襲ってきた時のことを考えた。
少しすると将軍が入ってきた。
勿論伏して頭を下げる。将軍が席に座ると面を上げよと言われたので顔を上げた。
(切る気満々か...。はぁ~)
目の前の将軍は刀を持ってこっちを見ていた。
「此度はお呼びと言うことでまかり越し..」
「殺す前に聞いてやる。何故三好の味方をした?」
俺が言う前に将軍が遮って言ってきた。余程三好に、味方したのが気に食わないようだ。
「さて、三好殿に味方とは何の事やら?」
「とぼけるな!!貴様、京へ三好討伐に向かった香西らを三好と共に討ち果たしたではないか!!」
俺が答えると将軍は激怒し、周りにいた者は刀を取り出していた。
(本当に若いな。こんな挑発に乗るなんて...。しかも誰も止めないのかよ)
「恐れながら、将軍家は呼び出した者を殺そうとする程落ちぶれたのでしょうか?此度、賊を屠ったのはひとえに帝からの勅によるもの。帝の臣であれば帝のご意志に従って何が問題でしょうか?それと、先程朝廷からの使者に対して都に押し寄せた軍は幕府の者ではないと申されましたが偽りであったのでしょうか?それは帝を謀ると言うことではございませんか?」
俺が正論を言うと若い義輝は顔を赤くしていった。
ついに我慢できなくなったのか、持っていた刀を抜き俺の前にやって来る。
そして俺の目の前に刀を向けて聞いてきた。
「では、朝廷が命じれば三好を討つと言うのか?私が命じれば三好を討つか?」
「朝廷..と言うより帝より勅があれば急ぎ国に戻り周辺国と和議を結び馳せ参じましょう。将軍の命の場合はその理由によります。」
「何?」
義輝が聞いてきたので答えてやった。
耳触りの良いことしか言わない侫臣達の私利私欲の権力争いの為や、傍若無人に振る舞う将軍の為に三好を討てと言うなら命を聞くことはないと。
周りの幕臣からは罵声を浴びせられ、義輝は顔を真っ赤にして刀を振り下ろしてきたので、人生初めて真剣相手に無刀取りをした。
「「上様!!」」
周りの幕臣が叫び一斉に刀を抜いた。
義輝は何が起こったか分かっていないようだ。
(私は...この不忠者を斬ろうとしたのに何故天井を見ているのだ?)
義輝は状況が分からず首筋に冷たい感覚がして動けなくなっていた。
周りの幕臣も刀を抜いたが、将軍を人質に取られているので切り込めなかった。
「ホホホ...。ついに実戦で完成させたか。拳聖の名を高めるの~」
殺伐とした空気の中に笑い声が聞こえたかと思えば一人の男が廊下を通ってやって来た。
「....師匠に何度も何度も叩かれたお陰でしょう...。ホント、痛かった...」
俺は叩かれ続けた記憶を思い出して言った。
そう、現れたのは師匠塚原卜伝だった。
「さて、皆、刀を納めたら如何かな?義照もじゃ。それじゃ上様は動くに動けないぞ。それにそれだけ仕込んでるならワシが相手をしてやろうか?今の幕臣達ではお主に歯が立たんだろうからな」
俺は師匠に言われて義輝を見た。すっかり忘れてたが無刀取りしてそのまま義輝の首筋に刀を付けていたのだった。それに武器を仕込んでいるのがバレていた。
「...これは大変失礼いたしました。それに、師匠の相手なんてしたら命が幾つあっても足りません」
俺はそう言って義輝の首筋に付けていた刀を離して近くにあった鞘に納めた。
すると、将軍の安全を確認したから二人程斬りかかってきたので忍ばせていた棒手裏剣を投げ腕と足を突き刺してやった。
まぁ、一本外れて腹に刺さっていたが自業自得だ。
「ぎぁぁぁぁぁ!!!」
「き、貴様!!」
棒手裏剣が刺さった男二人は痛みからのたうち回り、他の幕臣は一斉に斬りかかろうとした。
「止めい!!」
幕臣達が俺に向かってこようとしていたが義輝が止めた。
「し、しかし、上様!!」
「先に光長と輝喜の手当てを行え」
「は、はっ!」
幕臣達は光長と輝喜と言われる男達を運んでいった。
「卜伝様、この男を知っているのですか?私は今何をされたのです?斬りかかったのですが気が付けば天井を見ていたのですが!!」
義輝は何をされたか全く分からず師匠の塚原卜伝に迫って尋ねていた。
「ホホホ、なに、ワシの弟子じゃ。それと此奴に無刀取りをされ投げられたのじゃよ。素手の此奴に勝とうなど千年早いわ。ワシの弟子、五十人を素手で相手にして勝っておるでな」
(師匠、それっていつかは俺が負けるってことですか...)
「卜伝様の弟子...。では、私も鍛練すれば出来るのですか?」
「無理じゃ」
義輝の問いに卜伝は一言だけ言った。
その後、義輝は何故出来ないのかと猛抗議をしていたが、卜伝は剣術の師であり、体術は俺(義照)自身、身に付けたものだから自分には無理だと言ったのだった。
何を思ったか今度は俺に教えろと迫ってきた。殺そうとした相手に対して何を考えてるのかと思ったが何も考えてないだろう。
(全く、馬鹿でアホでガキかこいつは(義輝)!!・・・まだガキ(15歳)か...)
ただ、武を極めたいだけかもしれない。
勿論無理だと伝えた。時間も無いし戻って信濃から武田を追い出さなければならないし、何より俺達に利益も無いし、父親の義晴が主導したとは言え俺達にしたことを許すつもりはない。
「では、相伴衆にしてやる!教えろ!!」
義輝は役職で釣ってきたが断った。もう意味の無い役職だからだ。
「では、信濃守護にしよう!これならどうだ!」
次は守護にしようとしてきた。
悩んだが断った。既に大義名分は得ているからだ。それに、無能な守護だったとは言え、叔父から奪うのも何か悪いと思ってしまった。幕府は潰れるしな。
後、何よりもいらん火種は抱えたくない!!
どうしたら教えてくれるか聞いてきたので、武田が滅んで信濃と京が落ち着いたらと伝えた。
まぁ~十数年は無理だろう。
義輝もそんなの無理だと言ってきた。
「長慶殿と和議を結べば早いでしょう?」って言ったら「三好と和議など結べるか!」と顔を真っ赤にして駄々をこねていた。
何でも父の敵だと言う。
(まぁ、全ての元凶は晴元なんだけどな~)
俺は周りを確認した。周りには師匠(卜伝)と義輝、それと三淵殿ともう一人しか居ないので色々と説いた。
簡単にまとめると、幕府は無いも等しいので初代将軍足利尊氏公のようになればと伝えどんなものか教えた。
1つ、心が強く、合戦で命の危険にあうのも度々だったが、その顔には笑みを含んで、全く死を恐れる様子がない。
2つ、生まれつき慈悲深く、他人を恨むということを知らず、多くの仇敵すら許し、しかも彼らに我が子のように接する。
3つ、心が広く、物惜しみする様子がなく、金銀すらまるで土か石のように考え、武具や馬などを人々に下げ渡すときも、財産とそれを与える人とを特に確認するでもなく、手に触れるに任せて与えてしまう。
と梅松論に書いてあるらしいと伝えた。
何故知っているか聞かれたので旅の僧に教えて貰ったと誤魔化した。
義輝は何か悩んでいたが、まずは師匠から免許皆伝まで習えばどうかと言ったら納得していた。
後で知ったが、義輝は初代である尊氏公に憧れているらしいので悩んだのだろう。
・・・ただし、その後体術を教えろと言われた。
正直若すぎて義輝と言う人物がどんな人物か判断しかねた。ぶっちゃけ、悪ガキか、世間知らずの坊っちゃんだ。まぁ、煽ったこっちも悪いけど。
その後、義輝から無礼は許すと言われ、体術を教える前金と言う意味なのか部屋に飾っていた刀を二振り貰った。
長光と不動国行と言っていたので正直驚いて手が震えていた。
義輝が持っていた長光と言えば史実で長慶に渡したとされる大般若長光しか無かった筈だからだ。
そんな俺の様子を見て、義輝は太刀についてかなり自慢をしていた。しかし、俺の耳には入っていない。
何故なら元々刀が好きだったので名刀大般若長光を直接手に取れた為、歓喜を越えて思考が停止してしまったのだ。
少しして我に返ったが義輝は気付かず自慢話は続いた。
不動国行の方は名刀として名前は覚えているがどんな物だったのか忘れた。
ちなみに、俺に斬りかかってきた時に持っていたのは三日月宗近らしい。何て物を使ってるのか!と叫びそうになったがグッと堪えたのだった。
冗談で、武者修行を兼ねて尊氏公のように一度京から遠く離れて味方を集めて自分の軍を作ってみてはどうかと伝えたら義輝と三淵殿と護衛の三人とも本気で考え出していた。(マジで辞めてくれ)
まさか、この一言が後に自分(義照)の首を絞めることになるとは夢にも思っていなかった。
将軍との面会を終え孫六と合流し帰ろうとすると三淵殿が慌ててやって来た。
「村上殿!間に合ったか...。どうか、暫しお待ち下さい」
慌ててやって来て何事かと思えば、さっきの将軍への態度に怒った幕臣達が家臣を引き連れて闇討ちしようと待ち構えているそうだ。
まぁ、義輝が許したとは言え実は...なんて思ってる輩だろう。
その数およそ三十名だそうだ。なので、護衛を付けるために三淵殿の兵を集めているそうだ。
三十名程度なら孫六と二人で片付けられるし、影に陽炎衆もいるので教えて貰えたお礼と向かってくる者の生死を問わないことを約束して帰ることにした。
三淵殿が必死に止めるので一緒に来て貰うことにした。しかしまぁ、影に護衛(陽炎衆)がいるのだが気付いていないとは全く節穴だらけだ。
その為帰りは俺とも孫六、三淵藤英と弟の細川藤孝の四人と俺の護衛が五人だった。 後で三淵殿の兵が合流するらしい。
三淵殿が言った通り待ち伏せしていたが数が多かった。
「はぁ~。多くて五十人くらいか?...面倒だな~」
「しかし、見た所、弓や鉄砲など飛び道具が無いので別に問題無いかと...。殿、我等(孫六と陽炎衆)で始末しましょうか?」
「いやいや!この人数相手にされるおつもりですか!無茶ですぞ!」
俺と孫六の会話を聞いて藤英は慌てて言ってきた。
「まぁ、俺達だけで問題無いので...。藤英殿、申し訳ないが上様から頂いた刀を預かっていただけるか?孫六、悪いが殺さんようにはしてくれ。一応幕臣らしいからな。お前ら(護衛)もだ」
「畏まりました。しかし、腕の一本や二本使えなくしてもよろしいですか?」
俺は孫六に好きにして良いと伝え刀を藤英に預けた。
その後は正に阿鼻叫喚の地獄だった。
腕や足が折れたり曲がったりした者、顎を砕かれた者、酷い者は顔面を砕かれ陥没したり、胸骨骨折になっている者もいた。
他にも孫六によって、両目を潰されたり、達磨にされた者もいた。殺すなとは言ったが苦しませるなとは言ってないからだろう。情け容赦なかった。
それは、護衛と影にいた陽炎衆達もだった。
藤英と藤孝は唖然とするしかなかった。
目の前の殺戮(光景)を見て逃げ出す者もいたが、影で護衛に付いていていた陽炎衆達が出て来て全員ぶちのめして捕らえるのだった。孫六直々に鍛えてるだけに流石に強い。ちなみに、影の護衛は十五人だ。
二人は陽炎衆達が出てくるまで居ることには気付くことが出来なかった。
半刻後には全員倒れており、痛みで苦しんでいた。
結局、全員で四十三人、俺と孫六の二人で大半は制圧したのだった。
俺は刀を返して貰い後の事は藤英殿に任せて帰ることにした。
翌日、将軍が話を聞いたのか、今すぐ教えろと言ってきた。「うちの領地に来たら直ぐに教えます」とだけ伝え、これ以上面倒なのは御免なので逃げ帰るように帰国するのだった。




