49、帰国...のはずが....面倒だ
天文二十年(1551年)八月
船岡山の戦いから半月近くが経った。
朝廷から「沙汰を待て」と言われ無駄に時間だけが過ぎていった。
その間松永久秀に茶を習ったり、堺から恵比寿屋の岩根勘兵衛と津田宗達と息子の津田宗及がやって来た。
用件としては勘兵衛は頼んでおいた火薬を持って来てもらい、津田宗達が天王寺屋を息子の宗及に継がせたので今後とも取り引き出来るよう、お願いと顔合わせに来たのだった。
勿論認めて、今後とも取り引きすることを約束した。
久秀と茶を飲む約束をしていたのでついでに参加してはと言ったら宗達の方が喜んで参加した。
久秀の元に行った際、久秀も宗達が居ることに驚いていた。
後から聞いたら、久秀、宗達、宗及の三人は同門で茶人の武野紹鴎の弟子だそうだ。
その為か分からないが久秀が緊張していたのには驚いたし意外だった。
それから数日後にやっと朝廷から使者がやって来て御所に来るよう命じられた。
御所に向かい、部屋に招かれると既に帝がいらっしゃった。
俺は直ぐに平伏した。まさか、帝が先にいらっしゃるとは思っても見なかったからだ。
驚いたことに帝自らの御言葉で此度の戦で京を守ったことが褒められた。しかもご尊顔を拝謁することが許された。
その後、帝直々に勅を申された。
まず、今回捕らえた香西元成は都を脅かしたとして斬首とし、その身柄は三好家に渡すこと。また、今回の功績で正五位上、左近衛少将となり、信濃及び隣国に於いて敵を討伐することを許された。
要は、史実の景虎と同じだ。
欲を言えば武田家を朝敵にして欲しかったが無理だった。まぁ、仕方ない。
だけどこれにより、将軍家の和議を破ろうと問題は無くなった。
俺は伏して御礼を申して忠誠を誓うことを約束した。
帝に「戦を失くし苦しむ民を救う為に手を貸して欲しい」と御言葉を頂き、この帝の為なら命を捧げられるとつい涙を流してしまった。
御所を出て、義父(近衛稙家)の元に向かった。三日後には都を離れるからだ。
近衛邸で稙家と息子の前久に別れの挨拶をしてきた。ついでに餌付け(前久に)もだ。ホント、前久が小さい頃から餌付けしていただけあって舌が肥えている。
最近では密かに自分で料理をしているらしい。
・・・今度暇があれば簡単な料理を教えてやろうかな...。
稙家は幕府と三好の問題が落ち着いたら来ると言っていたので前もって使者を送って貰うよう頼んだ。
次に九条邸に向かった。一応まだ存在していたが上田城にある屋敷と比べると・・・・だ。
稙通にも戻ることを伝えると一緒に戻ると言うので準備をして貰うことにした。
翌日、松永久秀の屋敷を訪ね、国に帰ることを告げ、当主長慶にも伝えて貰うことにした。
長慶はと言うと今回の件の後始末をしていた。
久秀からは茶を一服たてて貰った。
・・・正直旨い。
その日の夕方面倒なことになった。
「・・・それで、朽木まで来いと?」
「上様の命は絶対だと申してました。此度幕府軍を殲滅したことについて問い質すとのこと。...如何されますか?」
俺が久秀の所で茶を飲んでる頃に幕府から使者が来て、将軍の元に来いと言う命令だけ残して帰っていったそうだ。
別に無視しても良いと思ったが俺は少し考えて悪いことを思い付いた。
直ぐに書状を書いて義父の近衛稙家に送って貰った。
上手く行けば面白そうだ。
三日後
帰国予定だったが呼び出しの為に朽木に寄ることになった。
俺の悪巧みは上手くいき、朝廷からの使いとして義父(近衛稙家)が一緒に付いてくることになった。
「ほんと、婿殿は悪巧みが好きでおじゃるな~」
「いやいや。何の事やら?私は帝(朝廷)に賊のことをお知らせしただけに御座いますぞ」
「全く、ワシの甥っ子(義輝)は何とも浅はかよの~。お主(義照)を相手にしようなど...。三好より悪どいと言うのに...」
俺は義父と共にのんびり話しながら朽木に入った。
しかし、悪どいとは酷いなー。
到着して朝廷からの使者が来ていることを伝えたら幕府からの使者が慌ててやって来て、直ぐに面会できるようになった。
俺と義父(稙家)、護衛として孫六と正俊の四人で仮御所を訪れた。
俺は一番下座に座り、義父(稙家)が一番上座で将軍ならびにその幕臣に帝からの書状を読み聞かせた。
内容としては、今回捕らえた香西元成は京に火を掛け、朝廷にまでその魔の手を伸ばしたことを許さないとし、斬首にし磔にしたこと。
また、香西が幕府軍と申していたこと、村上の元に来た使者が幕府軍を殲滅したことを問い質すと申していたと伝え、幕府は朝廷を蔑ろにし討ち滅ぼそうとしているのかと問い質した。
仮に本当に香西が幕府軍となれば、征夷大将軍の地位を剥奪し幕府は朝敵として全国に触を出すと脅したのだ。
勿論、将軍義輝は即座に否定し、香西などは幕臣ではないと言った。
それは折り込み済みなので、幕府軍を名乗った香西らの黒幕(扇動した者)を突き止め、直ぐに討ち果たし朝廷に報告しろと命じたのだった。
ちなみに香西らの主は細川晴元だ。
黒幕なんて言って誤魔化しているが誰がやらせたか明白だった。
ぶっちゃけ、稙家も分かっておきながら言ってるから質が悪い。
将軍義輝達は怒りに震えながらも承知した。
「さて、勅命は以上だが、念のため聞いておくが帝の信の厚い婿(義照)を害すことはせぬであろうな?甥っ子(義輝)とは言え、手を出せば擁護はせぬからな...」
そう言うと稙家は朝廷に此度のことを報告するために戻ると言い、俺は保科と影から付いてきていた忍達の一部に護衛させるのだった。
その後俺は別室に通されて待たされた。まぁ、あれだけ怒ってたら当分呼ばれないだろうと思う。
孫六も俺とは違う所だ。将軍家は護衛を中まで入れさせなかったのだった。まぁ、武器は隠し持ってるから飛び道具が無ければ何とかなるけど....。
それにしても太刀と脇差しを差し出したらすんなり通したから余りにも警備がザル過ぎる。
それからしばらくすると、一人の男がやって来た。
「三淵藤英と申します。今しばらく御時間が掛かりますので御相手をさせていただきます」
俺は三淵藤英と話をした。他愛もない話や国の話、幕府についてどう思っているかも聞かれた。
とりあえず、幕府だけで考えたら先が無いと思うが後は将軍の人柄と器量次第と答えた。
逆に三淵殿に幕府をどう思うか聞いたらまぁ、予想通り幕府一番の考えで滅ぶなど微塵も思ってもいないようだった。
将軍について聞いたら自分で見て判断して貰いたいと言っていた。
まだ、十五歳と若いので大変なんだろうと思っていた。
その頃、義照の読み通り、義輝は荒れていた。
「なぜ、都に火を付けたからと言って朝敵にまでならぬといけぬのか!!」
「上様、恐らく御所の側にまで火の手が回ったのかもしれません。ここは...朝廷の指示を聞くべきかと...」
幕臣の一人がそう言うと義輝は刀を抜いて側にあった机を切ったのだった。
「はぁはぁ..。全ては村上と三好のせいだ。あの者が余計なことを朝廷に吹き込まなければこうはならなかったのだ!!」
義輝は怒鳴り散らかしたかと思えば静かになった。
「そうじゃ、各地の大名に村上と三好を征伐せよと触を出せばいいのだ。そして今すぐ村上の首を討ち取ればいいのだ!」
義輝は自分が何を言っているか分かっていなかった。自分が呼び出しておいて殺すなど将軍としての権威を下げてしまい、周りから孤立することが分かっていなかったのだ。しかもさっき、釘を刺されたばかりだ。
「な、なりません!そのようなことをしては幕府の信用は地に落ち誰も味方にならなくなってしまいます!」
「そうです!それに、先程近衛様が」
「黙れ!!村上をここに呼べ!私自ら斬ってくれる!」
義輝は卜伝直々に剣術を学び、才能があるとまで言われていたので刀を持った義輝を止められる者は居なかった。逆に細川晴元などは煽る一方だった。晴元として自分の命がかかっているだけに朝廷の命など聞ける訳がなかったからだ。
そして義照を呼び出すのだった。




