48、船岡山の戦い
天文二十年(1551年)七月中旬
船岡山、義照本陣
対陣して翌日。敵から使者が現れ、幕府を蔑ろにする三好討伐の為に来たから道を開け、味方しろと言ってきた。
俺は朝廷より京に火を着けた賊の討伐に来たことを伝え、退くなら手を出さないことを伝えた。使者は「田舎侍が!」など吠えていたが知ったことではない。俺は鉄砲隊を隠していたので使者から見えた兵の数は二千程度に思っているだろう。
帰って行くとき覚えておけ!と言ったので多分攻めてくるだろう。
使者が帰ってから半刻後には敵が攻めてきた。
俺は鉄砲衆、弓衆に準備させていたので対応させた。
鉄砲隊の栗田と木辻は張り切っていた。久しぶりに実戦できるからだろう 。
敵は馬鹿なのか、ただ突っ込んで来た。
「一番、放て~!!」
栗田の号令で鉄砲隊四百人が一斉に放った。
敵は驚いて足を止めた。鉄砲隊は前後入れ替わり構えた。
「二番、放て!!」
今度は木辻の号令で撃ち始めた。
敵もまさか連続で撃ってくると思っていなかったようで動揺していた。
ドン!!!ドン!!ドン!!!
すると今度は敵の後方から大きな音と共に煙があがった。
多分、佐治が炮烙玉と焼夷玉を使ったのだろう。
「佐治め、派手にやるね~」
「殿が御許しになられたではありませんか...。まぁ、これで少しでも気が紛れたら良いのですが...」
俺が言うと孫六が言ってきた。まぁ、同じ忍として忍働きが出来なかったのでかなりストレスが溜まるのが分かるのだろう。
(まぁ、ストレスのこと分かってないだろうけど...)
鉄砲隊は粗方撃ち終わって弾切れのようだ。まぁ、高価だしあまり持ってきてなかったのでそんなもんだろう。
それが分かったのか三好、香西軍は攻め寄せてきたので保科の槍隊を前に出した。
槍合わせが始まり、槍隊の後ろから弓隊が敵の後ろに矢を射かけていた
「さて、俺も行くか!幸隆、全軍の指揮を頼む。孫六は中沢と共に騎馬隊を率いて後方に向かい、佐治と合流して三好政勝と香西元成の確保に向かってくれ」
「畏まりました」
「殿、無理をしないで下さい」
俺は近衛兵(馬廻り)を連れて前線に向かった。
その頃三好と香西の二人は苛立っていた。
「あんな田舎侍どもが鉄砲を持っているとは!」
「我らの邪魔をして!我らは幕府の為に戦っておるのに!」
「全く!後方は何をしておる!さっさと忍を見つけ出して始末せんか!」
本陣で政勝は怒鳴り散らしながら後方に軍の一部を送り、忍の始末と事態の収拾を行っていた。
「報告します!敵の鉄砲が止まりましたので全軍で攻めております!」
「報告します!我が方の被害は甚大!どうか撤退を!」
「報告します!敵大将が出てきました!」
「「何だと!!」」
二人は直ぐに本陣を出て前線を見た。
そこには大一大万大吉の旗と降三世夜叉明王と書かれた旗がなびいていた。どちらも義照の旗印だ。
「さっさと、あの田舎侍の首を持ってこい!!」
政勝は伝令に怒鳴り指示を出すのだった。
(成る程。剣術って本当に勝手に体が動くのだな...)
俺(義照)は師匠に習った剣術で敵陣を突破していたが、敵の動きに反応して体が勝手に動くような錯覚を感じていた。
敵の動きに対してどういう動きで対応したら良いか分かるようになっていたのだった。
「殿に遅れを取るな!!突き崩せ~!!」
正俊の檄に全軍が一気に押し出していった。
戦が始まって既に一刻半が過ぎていた。
俺が戦場に出て半刻が過ぎていた。あと少しで敵本陣にというところで、唐突に法螺貝が鳴り響いた。
流石にどちらの兵士も法螺貝の方を見たが、三好、香西軍の兵士達は一斉に逃げ出した。
法螺貝の正体は三好長慶軍だったからだ。
「勝鬨を上げろ!!!」
「えいえいおおおおぉぉぉぉ!!」
俺の声で村上軍は勝鬨を上げるのだった。
逃げ出した三好、香西軍は包囲していた三好長慶軍によって捕らえられたり始末されていた。
「殿、ご無事で何よりに御座います。申し訳ありません、三好政勝を逃しました...。香西元成は佐治三郎によって捕らえております」
孫六が俺の元に来て報告してくれた。今は佐治達と中沢によって確保されているようだ。
俺は本陣に連れて来るように指示をして本陣に戻った。
俺が本陣に戻ると三好軍から使者が来て待っていた。
「御初に御目にかかります。某、三好長慶様の家臣、松永久秀と申します。村上様にお目通り叶い誠に感謝致します」
使者はあの松永久秀だった。ある意味日本で初めて爆死した人物でもある。
「三好家において長慶殿の腹心とも言われる松永殿が来られるとは、これは驚いた。...と言うことは何か重要な案件か?」
面具を外していて良かったと思った。あれを付けてたらかなり恐ろしいらしい。
「はっ、此度の戦について話がしたいと我が主が申しております」
どうやら、戦に参加した経緯と目的を知りたいそうだ。後、三好長慶直々に兵を連れてきて一万も居るそうだ。
俺は勿論会うことにした。ただ、兵士達も疲弊しているので明日相国寺で会うことで話を付けた。
それと、香西の身柄はこちらが預かることにした。後話しによれば三好政勝は三好軍が捕らえたらしい。
翌日
相国寺
三好家から長慶と護衛二人、村上家から俺と孫六、栗田の二人を連れて来た。
幸隆には万が一と言う時に備え全軍の指揮を頼んだ。
「御初に、御目にかかります。村上弾正義照に御座います。後ろの二人は重臣の鵜飼孫六と家臣の栗田寛安に御座います」
「これは御丁寧に。三好家当主、三好長慶に御座る。後ろの二人は弟の実休と配下の久秀に御座る」
長慶の後ろの二人が頭を下げて来た。
「これは御丁寧に。それでお話ししたいことは何でしょうか?」
俺が聞くと、やはり戦に参加した訳と目的を聞いてきた。
俺は朝廷から都に放火した賊を誅罰せよと言う命を受けて今回陣を張り、敵が攻めてきたので殲滅したと説明した。
捕らえた香西については朝廷の沙汰に任せることを伝えた。
政勝については三好家の好きなようにと伝えておいた。
長慶もそれに同意してくれた。また、朝廷の判断を教えてくれと頼まれたので指示があれば教えることを約束した。
それから将軍家、朝廷の有り様を話した。勿論ここで話したことは他言無用と言うことが条件でだ。
「では、幕府は必要ないと?」
「今の幕府は、です。力も無くただ戦乱の火種を撒き散らす幕府などいりません」
「故に朝廷を敬うのか?」
「朝廷に政をやらせるのは反対ですが、帝は日ノ本の象徴となられるべきと考えます。私は今の幕府よりは朝廷を支え乱世を終わらせるべきと思っております。政は一人が行うのではなく、合議制のように多くの者の意見を取り入れてより良い世の中にしていくべきと私は考えます」
俺の考えを聞いて長慶も考えていた。正直、将軍にならないのか聞いてみたが、長慶としては将軍を支えたいと思っていたようだ。ただ、細川晴元が許せないそうだ。
「では、幕府を建て直せないと考えているのか?」
この質問に俺は景虎に伝えた事と同じ事を伝えた。すると長慶は難しいと言い、頭を悩ませていた。幕府を潰す気は無いのかと聞いてみたがそのつもりはないと断言された。
それを聞いた久秀は何だか残念そうだった。
その後、宴に呼ばれ夜は互いに酒を酌み交わした。
まさか、出された酒が全て神水酒だったことに驚きを隠せず、三好家の経済力の高さを見せつけられた。




