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戦国生存記  作者: 現実逃避
29/180

29、全ては家の存続の為に

時は遡り

天文十六年(1547年)九月

葛尾城、村上義利


義照がほぼ全軍を率いて志賀城の援軍として出陣した。義照の城には僅かな兵しかいない。


父上も高梨との戦で高梨領内に深く入っている。高梨政頼が越後にいるので思うように進軍していると聞いた。


義勝は仁科に婿入りし、こちらにはいない。


四男義邦は私に付いてきてくれると言ってくれた。母上と五男源吾(後の国清)にはまだ幼いから黙っている。今なら間違いなく成功する。


「武田の読み通り...。好機は今か...」


義利は一人思案していた。甲斐一国を持つ武田との関係を強くして生き抜くのが一番だと考えていた。しかし、父はそれを否定した。


それどころか大事な妻も殺そうとした。あの時義照が言わなかったら間違いなくすぐに殺していただろう。


義照も既に武田憎しになっている。昔はよく慕ってくれていたが引き込むのは恐らく無理だろう...。武田は出来れば欲しいと言っていたが...。

しかし、義照の話が本当なら刺客を送り込んだのが武田だがそれなら話が違ってくる。


義照が手をかけた土地は全て豊作になっていた。田畑は数年だけなら管理者が変わってもそうだったが、徐々に悪くなっていた。それに、税収も以前の倍以上も集めている。しかも、民百姓から不満の声が一切無い。それだけ義照は内政手腕が優れているのだろう...。

(だから、武田が欲しいと言うんだろうな...)


義利が一人思い耽っていると清野信秀と石川長昌がやって来た。


「...殿、武田からの密書です」

長昌が渡して来た書状を読んだ。信繁から予定通り行うよう言ってきたのだった。代わりに小県郡を除く所領全ての安堵が晴信の署名付きで書いてあった。また、村上家を親族衆として迎えるともある。これがあればこの乱世を生き抜くことができるだろう。


「殿、準備は整っております...。御命令があれば直ぐに動けます」


「小笠原や仁科の一部の者も、こちらに寝返る用意は出来ております。後は御命令次第にございます...。ただし、動けば後戻りは出来ませぬ..」


二人は義利の命令を待った。それと止めるなら今しかないことも伝えた。


(もう、これしかないのだ。村上家を残すには...)


「・・・三日後、実行する。二人とも済まないが私の我が儘に最後まで付き合ってくれ...」


「「ははぁ..」」


義利は各地の味方に指示を出した。最早後戻りは出来なくなるのであった。

清野と石川は部屋を出た後、二人で話していた。


「若(義利)が決断されたか...」


「しかし、武田に臣従するなど...やはり納得は出来ん!それに、約定を反故にすることだってあり得る!」


二人は内心武田への臣従は反対だった。まだ領地が少なくとも対等な同盟を望んでいたのだ。

二人は自分の意思と傅役としての責務と板挟みになり悩んだ。苦渋の末、傅役としての責務を全うすることを選んだのだった。


「我らが若(義利)をお止めできなかった責任が大きい。ワシは汚名を被ろうとも最後まで若に付いていく。石川、お主は降りても構わないのだぞ?これから先はどうなるか分からん」


「何を言うか!!ワシも最早後戻りはできぬ!それにお主同様、殿(義清)に傅役を仰せつかった時に、何処までも若に付いていくと決めたのだ!」


「そうだったな。...では、地獄に落ちることになろうとも行くとするか」


「あぁ、若の為に何としても成功させなければな」


二人は覚悟を決め、傅役としてどの様な結果になろうとも最後まで義利に付いていくと改めて誓い動くのだった。


三日後


葛尾城

「門を固く閉じよ!反対する者は全て捕らえよ!一人も逃がしてはならぬ!」

義利は、大きな声をあげて指示を飛ばしていた。


義利の家臣や味方は、元々味方だった者を捕らえていった。


「義利!これはどう言うことですか!」

母上がやって来た。義利は直ぐに取り囲ませると説明した。


「母上申し訳ありません。もう、父上には付いていけません!!私達は武田に付きます。父上は追放致します」


義利の言ったことに驚きつつも詰め寄った。しかし、義利の家臣達によって部屋に閉じ込められることになるのだった。


半刻後には葛尾城は完全に制圧され義利が奪ったのだった。

それから二刻後、各地からの知らせが入ってきた。


「申し上げます。青柳城の味方から制圧完了の知らせにございます」


「申し上げます。小笠原側だった桐原城の桐原長真様、山家城の山家昌治様、予定通りお味方になりました」


「申し上げます。霞城の大室様がお味方になりました」


どんどん義利に良い情報が入ってきた。それに伴い、義利は次々指示をしていった。周囲の警戒、武田との連絡、そして、父義清の身柄確保と義照の居城の制圧だ。特に義照の上田城は対武田を想定して作っている城だけあって、村上家一の堅城砥石城よりも落とすのは難しく、絶対に手に入れなければならなかった。


「義照の居城上田城は戦では落とせない。援軍だと言い門を空けさせろ!砥石城や松尾城もだ!」

義利はそれぞれの城に500~1000の兵士を送り込んだ。


義利の謀反の翌日


「申し上げます!義清の居場所が分かりました!僅かな兵と家臣と共に木舟城方面に進んでいるとのことにございます!」


義利はやっと見つけた父を捕まえるため軍を送った。

その頃、義清は怒りながらも必死に木舟城に向かっていた。


「くそ!義利め!何を考えているんだ!」


「殿、お静かに。今や誰が敵だか分かりません!急ぎ木舟城の義勝様の元へ向かいましょう」


義清一行は山の中を急いでいた。


遡ること一日前、突如家臣と地侍達の一部が刀を向けてきた。その者達が言うには義利の命で義清を捕らえるよう指示がしてあったそうだ。


本陣で死傷沙汰が起こり、配下の山田国政、薬師寺清三等の重臣のお陰で逃げることが出来た。

しかし、付いてこれた家臣は三百人足らずだった。


「義照が言うたことが本当であるとは...くそ!」

義清は必死に山を駆け、木舟城へ向かったが、遂に追手に追い付かれるのだった。


「ええい!最早これまでか!死にたい者は前に出てこい!」


義清について来ていた兵士達もいつの間にか離散していた。

義清は囲まれながらも一人でも多く道連れにしようと暴れ回った。

しかし、半刻後には疲れきり、遂に捕らえられてしまうのであった。



その頃、義照の城に向かった者達は入れないことに苛立っていた。


「何度も申すが援軍として参ったのだ!早く門を開けられよ」


「殿の御命令で誰一人通すことは許されていない。援軍は必要ないので帰られよ!」

孫六はそう言って決して門を開かなかった。


「横尾様、他の城も同様で決して門を開かないそうです」

乗っ取りを指示された横尾采女正は怒りに満ちていた。上田城を乗っ取れば大手柄で恩賞は間違いなかったが、他の城でも拒否されていると聞いて裏切りがバレていると分かったからだ。


「各城に向かった者達を集めろ。敵は五百人も居ないだろう。我らの手でこの城を落とすぞ」


そう言うと直ぐに松尾城、砥石城に向かわせていた者達を集めた。数にして二千人以上だが横尾采女正は上田城を甘く見ていた。



「頭領、敵は城攻めをしてくるようにございます」


「予定通り全軍を集めよ。敵を一人も逃すな」


「御意..」


孫六は直ぐに農兵も徴兵して集めた。併せて千人程度だがそれでも十分守れる。



数刻後

敵が一気に押し寄せてきたのを鉄砲隊が相手をした。

「訓練を思い出せ!構え....撃て!」


鉄砲隊の一斉射撃に横尾は驚いた。この頃信濃に鉄砲はあまり無く、話を聞く程度だったので何が起こったか分からなかったのだ。


「な、何だ!?急に味方が死んだ!」


「ひ、怯むな!と、突撃しろ!」

鉄砲の轟音に驚き敵軍の足は止まり再装填する時間が出来たので、再度斉射した。


「今だ!放て!」

また、轟音と共に味方が死んでいったのを目の当たりにして、敵は崩れ逃げていった。中には神罰に当たったのだ!などと言って逃げる者もおり軍は完全に崩壊した。


しかし、孫六は追撃はしなかった。と言うか、追撃できる兵士が居なかったのだ。


「殿が量産させているこの鉄砲は、難点は多いが守りではこれ程頼りになる武器はないな!」


今回の鉄砲の数は三百丁程しかないが十分効果が大きかった。


ちなみに火薬に必要な硝石は孫六達陽炎衆の働きにより硝石丘法で生産することが出来ている。


酷過ぎる悪臭と五年近く悪戦苦闘した末に手に入れた貴重品であるため、陽炎衆にとっても鉄砲隊の活躍はこれまでの苦労が報われた嬉しいものだった。


今回の上田城の戦いで、義利側は三百人の死者を出して逃げるしかなかった。

この後義利は激怒し、横尾采女正は責任を取る形で表向きは自害したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵に籠絡された愚かな兄 確信しつつも見逃した無責任な主人公 身内に甘く足元を掬われた父親 力技だけの脳筋次兄 武田が迫ってるのにやべーなw
[一言] 表向きは自害ってことは手討ちにしたのかな? 完全に掌握してないのに、そんなことしたら離反者出るだろうに… 追い詰められて本性が出たっていうか、短慮で堪え性が無く、酷薄だな、義利 まあ、泳が…
[良い点] 義利の手際が思った以上に良いですね。 敵役が有能なところを見せる、それもここしばらく色情に狂ったような言われようだった人が(イデオロギーはどうであれ)やるべきことをやってのける様は、読んで…
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