2、領地と山賊
さて、父義清に領地を貰ったは良いが一言で言うなら山だった... 。
「父上って私に何か怨みでもあるんかね?初めて貰った領地が山なんて...」
俺は貰った領地を見に来たが、村が一つと後、山だ 。
村に行くと村長が村民と一緒に待ってくれていた。
「この村の村長をしてます、伝兵衛と申します。何なりとご命令下さい」
そう言うと集まっていた者達が一斉に地面に、伏して頭を下げた。
「あーこんな所で頭なんて下げなくていいから。それよりも村のことを教えてくれ」
俺はそう言って村長達を立たせた。
村人は凡そ六百人で、主に林業と僅かな畑で生活をしていると説明を受けた。
運良く鍛治師や木地師などがいたことは助かった。
次に問題は田畑の収穫はほとんど無いこと。水は近くに川があるから問題無いのだが、田畑が高い位置にあるため水を入れることが出来ないからであった。
一番の問題は山賊だ。村人の話だと山に25~30人近くの盗賊が住み着いて居て根城にしているそうだ。
「はぁ、山賊か...。父上と兄上に頼むか..。馬鹿(義勝)も呼んでもいいか」
俺はそう言って、その後も話を聞いた。
翌日
俺は兄義利の所に行った。兵士を貸してもらいたいからだ。父上に相談したら無理だと言われたからだ。兄に事情を話すと直ぐに貸してくれた。しかも百人だ。兄上の持つほぼ全軍だった。勿論兄も付いてきた。
ついでなので、馬鹿兄(義勝)にも声を掛けたら「よっしゃ~!!槍が振るえる」と喜んで付いてきた。兵士は十人くらいだが馬鹿兄が力を認めてるからそれなりに強いのだろう。
三日後
山賊の根城は確認済みなので、夜静かに囲むことにした。俺は村人の中から男手二十五人と工藤兄弟と共に参加した。
一応、まず敵を囲み逃げ道を無くし、突撃して一気に始末もしくは捕らえることにした。
これは正直少しでも人手が欲しいため、兄達に頼んだのだった。なので、降伏した者だけは生け捕ることにした。
馬鹿兄は不満をたらたら言っていたので最初に突撃することを条件に黙らせた。
どれだけ槍を振るいたいのやら...。
「ヨッシャ!俺に続け!!!」
作戦を決めたその夜、囲みが出来たので馬鹿兄に突撃して貰った。
馬鹿兄の鬨の声と突撃で山賊も驚いたので、制圧するのは容易かった。
何人か逃げたが、周りを囲ってくれていた兄上(義利)の兵が全員捕らえていた。
・・・俺達はただ、様子を見てるだけだった。
「兄上は凄いな~。兵を手足のように扱ってる。馬鹿兄も槍だけは凄いんだよな..。槍だけは...」
「義照様もいつか同じようになりますよ。まずは足元を固めましょう」
「ははは、馬鹿兄のようにはなりたくないな...。さて、行こうか」
そう言って俺は二人を連れて山賊の根城に入った。中は血まみれでどれだけ暴れたのかと思った。
奥で山賊達が縛られて槍を向けられていた。
「この中で頭は誰だ?」
義利兄上が聞くと、山賊達の顔が死んでいる一人の男に向けられていた。
「あ?こいつか?」
馬鹿兄が頭に槍を突き刺して殺していた男だった。
「お、お頭はその人です」
山賊の一人がそう言って全員が頷いていた。
余程、馬鹿兄が恐ろしかったのか震えていた。
「じゃぁ、この中で一番偉いのは誰か?」
「ここにいるのは全員下っぱです...」
残っていた十三人は全員が下っぱで、頭とその次に偉い奴は既に死人となっていたようだ。馬鹿兄とその取り巻き(家臣)が討ち取ったようだ。
「殿...」
兄義利の家臣が兄に何か伝えていた。
「お前ら、牢屋にいる子供達と奴隷はどこから連れてきた?」
兄の話からすると牢屋があり子供と奴隷が居たそうだ。その数十六人程。
「俺達は知らねぇ!お頭達が連れてきたんだ!本当だ!」
山賊の話によると、ここを拠点にして組を二つにして周りの領地で盗賊業を営んで、遠い時には甲斐まで行っていたらしい。
で、今回牢屋にいるのは頭が連れてきた者達らしい。
「兄上、その者達は私の所で保護します。山賊達は少しそのままで居てもらいます」
俺はそう言って、牢屋に案内して貰った。
「皆さん、もう大丈夫です。山賊は全員捕らえました」
そう言って牢を開けた。
「皆さんが何処に住んでいたか教えて下さい。父上の領民ならその村まで送りますので」
俺がそう言うと、答えてきた。やはり、村上家の領民もいた。その者達は直ぐに返すことを約束した。中には甲斐で落武者狩りに遭い、捕まり奴隷にされた者達がいた。自力で帰れるか聞いたが無理だと言うので、領民として迎え入れることにした。
牢屋の者達を解放し保護した後、山賊達の元へ戻った。
「さて、お前達は元から山賊だったんか?それとも、元はどっかの百姓だったんか?」
義照が聞くと皆元は百姓で、食い物が無いから山賊になったそうだ。
なので、二つの選択肢をやることにした。
「なぁ、お前達に選択肢をやる。一つはあのように馬鹿..兄上の槍の餌食になる。もう一つは奴隷となり、うちで真面目に働く。働き次第では奴隷から解放してやる。どうか?」
山賊達は即答で奴隷となることを選んだ。目の前で馬鹿兄がグサグサ槍で刺してるのを見たらそうなるだろうな。
奴隷になった山賊達は義利兄上に少しの間兵士を借りて監視させることにした。
これで一番の問題は片付いたことになる。
もう、何をさせるか等は色々思い付いているのでやっていくことにした。
天文六年(1537年)十一月
元山賊の奴隷が一人逃げたが取っ捕まえて見せしめにした。
まぁ、正確には生きたまま馬鹿兄の練習の的になって串刺しにしただけだけど、悲鳴も凄かった為かなりの恐怖を与えたようだ。それから誰も逃げ出さなくなった。
元山賊達は山で木の切り出しや、加工などの重労働をやらせている。代わりに飯は旨いものを食わせている。山で取った猪や鹿等の肉を出している。初めは敬遠していたが俺自身が食べてるのを見て普通に食べだした。
目標としては年内に足踏み水車を完成させて田んぼを得ることだ。
そうそう村に居た鍛治師には道具を作って貰っている。
円匙や備中鍬、つるはし等を頼んでいる。
奴隷として連れてこられた者達の中にも鍛治を学びたいという者がいたので、一緒に学んで貰っている。少しでも多く作れるようにしたいからだ。
まずは道具を作るのが先決でそれが出来次第領地改革をすることにしたのだった。