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戦国生存記  作者: 現実逃避
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「ここを抜ければ後はどうとでもなる!」


ペドロは三ノ丸の城門が見えた為もう少しで外へ出られると思った。出てしまえば、囲まれる可能性は高いが突破は出来ると確信していた。それはこれまで何度も襲われたが無傷で撃退しここまで来られたからだ。


「…!全隊止まれ!」


ペドロは全隊を止めた。兵士達は門が直ぐ側あるのになぜだと疑問に思ったが、突如、周囲が明るくなった事で理解した。


「やっと来たか……遅かったな」


「時間を稼いでくれたがかなり犠牲が出たようだな」


「これまで良くも好き勝手にしてくれたな。これまでの借りを返させて貰うぞ!」


「ッ…囲まれたか……ファランクス(密集陣形)!」

何を言っているか分からないが、ペドロは目の前の者達が只者ではないのはこれまでの経験から感じていた。集まっていたのは義勝を中心に足利、真柄、吉川、等の猛将達と精兵達だ。


その為速やかにファランクス(密集陣形)へと替え周囲を重装備のパイク兵、中央に鉄砲や弓等の兵を配置し全方位に対応出来る様にした。


組み直したペドロ達の前には竹束を並べ待ち構えていた義勝達がいる。義勝達は直ぐに陣形を変えた南蛮兵に驚きつつも内心その練度の高さを称賛していた。



「見事だな。義尊、確か南蛮語を話せたよな?代わりに通訳して彼等を称賛してくれ。後、全身全霊を賭けて殺り合おうとな!」


義勝は隣にいた義尊に言うと驚きつつも南蛮語で伝えた。


「……ハッ…ハハ。こんな野蛮な国と思っていたが……ハハハハハ!」

義尊の言葉にペドロを含め南蛮兵達も驚いた。ペドロは総統の命令でこんな所に来たが、蛮族との戦いでこんなに心が踊るとは思いもよらず笑いだしてしまう。


「分かった!全力でかかって来い!全隊構え!」


「義勝様、相手の指揮官が」「義尊、言わなくてもなんとなく分かる。全員構え!」


義勝は何を言ったかは分からないながらも、同じ武人として相手の気迫で言いたいことは何と無く理解できた。そして太刀を抜き持ち上げ……。


「突撃!!」「撃て!」


振り下ろすと同時に号令を掛け連合軍は一斉に突撃を始めた。

竹束を構えたまま突撃をした為、正面は南蛮の鉄砲が届くことはなかった。だが、包囲している周りには多くの被害をもたらした。

一方の南蛮側も鉄砲と弓の曲射のお陰で軽装備の鉄砲や弓の隊に多くの負傷者をだしていた。


そして正面の竹束を担いだ兵と重装備のパイク兵との間が約五メートルの位置になると突如、竹束の兵士達が止まりその後ろから鉄砲を持った兵士達が前に現れる。


「撃デぇ゙ぇ゙ぇ〜!」

鎧を着けず上半身を包帯で巻かれた男の号令と共に鉄砲が一斉に火を吹く。


ぐぁぁぁぁ!ギャァァァ!


盾を構えていた重装兵は悲鳴を上げ倒れた。連合軍の対重装兵用に掻き集めた30匁の大鉄砲が一斉に撃ち込まれ、至近弾だった為、盾どころか鎧も貫通した。運悪く重装兵を貫通した弾が後ろの兵にも被害を出したのだ。


「首ヺ置イテゲェ゙ェ゙ェ゙!」

号令した包帯男は鉄砲を捨て太刀を抜くと倒れて空いた隙間に飛び込み一太刀で南蛮兵の首を落とした。それに倣い、空いた隙間や槍衾の中に死ぬことを恐れない兵が突撃して行った。


包帯男の名前は島津家久、そして突撃したのは日ノ本でも最狂の島津兵達だった。


少し時間を遡ると、家久は上半身を焼かれた状態で義勝が保護し治療していた。丁度義尊が合流した頃だ。


家久は火傷レベルで言うとⅢ度熱傷と最早生存は望めなかったが、その持ち前の気力と直前で味方の兵士が庇った為喉をやられなかった事で呼吸でき、なんとか生きていた。


義勝は治療が無意味だとしても続け、敵が本丸から出てきた事を聞くと島津本陣に送ろうとしたが、家久は拒否し「死ぬなら戦場で」と強引に参加した。家久に付き従う兵達も家久と共に最後まで付いて逝くと言う者達だ。


「ガハッ!」(ここまでか……兄上お先に……)

家久は何人も兵士の首を取ったが遂に討ち取られた。だが、家久はその最期に後悔は無かった。


そして、家久達が突撃し陣形が崩れた所に連合軍が攻め込み両全軍による白兵戦が開始されるのだった。




「報告します。島津家久様、御討ち死に。家久様は重度の火傷の為最早助かる見込みはなく最後は戦場でと申され、見事一番槍の上、多くの…敵を道連れになされました!」


南蛮軍本隊と義勝率いる連合軍の戦闘が始まってから四半刻(約三十分)、島津本陣に家久討ち死の知らせがもたらされた。伝令として駆け込んだ島津兵は家久から最期を見届けて伝えるよう命じられ涙を流しながらその役目を果たした。


「家久……、一番若いあやつが先に逝きおって!」「あの大馬鹿者め!!」


本陣にいた義久と義弘は周りを憚らず号泣した。他の家臣達も同様に涙が止まらなかった。それは別の陣で指揮を取っていた歳久の陣も家久の最後が伝えられ同様だった。


「仇は取る……全軍南蛮人を…敵を一人残らず撫で斬りぞ〜!!」

「おおぉぉおお〜!!!!」

義久達は島津本陣は全軍で南蛮軍の下へ向かった。道中、最初の贄として送り出したキリシタン達が隠れたり逃げたりしていたが島津兵に出会ったら最期、八つ裂きにされて血の池が作られていく。



島津家久の討ち死と島津本陣の軍が全軍で動き出した事は、連合軍本陣の隆元達や前線で指揮を取っていた義照達にも伝わった。


義照は速やかに前線の自兵を退かせ、島津軍の抜けた穴を塞ぎ支援に回った。その為、最前線に残った村上軍は仁科義勝と足利義尊の軍勢のみとなった。


「伝令、前線の全兵に伝えろ。今の島津軍は鬼島津、味方でも邪魔をすれば切り捨てられる。決して邪魔をするなとな!」


「は?ははぁっ!」

村上本陣の伝令が一斉に出ていく。戦国の習わしとはいえ身内を失った島津がここまで動くとは予想していなかった。だが、もしも自分(義照)も弟や息子等を失ったら同じ事をしていただろうと思った。


「仕方がない。島津の後始末は受け持ってやるか……」


「大殿、港にいる香宗我部様より万が一に備え船を出港させると」


「わかった。奴らが脱出を図ったという事は逃げる算段があるのだろう。万が一に備えて海上の監視を怠るなと伝えろ」


矢継早に指示をしていく。島津が動けば多くの血が流れるだろう。それは義照が記憶していた歴史が証明している。


(島津は止まるまい。問題は今後についてだな)


揺れる篝火を見ながら、今後の展望について思案するのだった。

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― 新着の感想 ―
素晴らしい ご都合主義はこの際置いておいて、楽しめました
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