178 総攻め
夕暮れ時を過ぎ逢魔時になった頃、全ての諸将が本陣に集まっていた。策に関しては前日に説明している。
「今宵、南蛮との戦に終止符を打つ。策は既に伝え準備は出来ておろう。皆、心せよ」
おぉー!!
連合軍大将の隆元が声高らかに鼓舞する。本陣は雛壇のようにしてあり一番上座に親王様、その一段下に近衛、二条、足利の三人。そして俺達毛利、朝倉、村上の三人だ。
「先鋒は足利、仁科、島津の連合、開始の合図は我が村上家が狼煙をあげる!」
「包囲は三段階、最も外側を守る軍は我等朝倉家が指揮を取る。誰一人逃すでないぞ!」
三人が声を上げると本陣の熱は上がり声も大きくなる。
「殿下、何卒これから戦に出る者達にお言葉を……」
隆元が後ろの親王様の方を向き伏してお願いする。それに続き、俺達や家臣達も頭を下げる。
「日ノ本は領地を求め争いを続けて来た。だが、此度は元寇以来の危機と手を取り立ち上がった皆に心から御礼申し上げる。どうか、日ノ本の為、民の為に戦ってくれ」
誠仁親王はこの状況に困惑したが近衛と二条がサポートしお言葉を発せられた。
「「「ははぁ!!!」」」
本陣の士気はこれ以上ない程に高まる。後はやるだけだ。
「では、皆杯を持て!!」
全員に、杯が渡され酒が注がれる。
「我等!日ノ本を守護する者なり!日ノ本の為、民の為!我らが厄災を打ち払う!!」
隆元が大声で叫び、全員が杯に入った酒を呑み地面に叩き割る。そして、配置に付く為に本陣から出ていく。
「義照!」
皆と一緒に出ていこうとすると親王様から呼ばれる。流石にこれには驚き後ろを振り返る。
「村上殿、先に行っておる」
隣に居た隆元が一声かけ出ていく。残されたのは後で合流した親王様と三人だ。
「父(帝)より、必ず生きて帰れ……頼んだぞと」
「勿体無き御言葉。殿下、御心配り痛み入ります。どうか陛下にお伝え下さい。この戦が終わり南蛮を退けた後、連合軍を主体に日ノ本を一つにし戦なき世を作りますと……御免」
伏して頭を下げ本陣を出る。全てはこの戦にかかっている。
「準備は済んでおるな?」
「はっ!号令があれば何時でも……」
自分の本陣に戻る、最終確認をする。昌幸が細かい配置状況を説明してくれる。
「では、始めるぞ。点火〜!!」
本陣の前で太刀を抜き号令する。号令が響き渡ると一斉に鳥の子と呼ばれる煙幕の一種に火が付けられる。
「良し、行け!!」
他にもそれが背中に括り付けられた人々が一斉に城に向かって走り出す。彼らは元キリシタン達だ。
彼等には城までたどり着けば全ての罪を許すとし、乗せた鳥の子を外したり他に逃げ出したら後ろから鉛玉が容赦なく襲うことになっている。
「良し、砲撃始め!」
鳥の子により全体的に煙が覆い始めると大砲による砲撃を始める。
と言っても城まで届かないが……。だが目的は敵に打たせる為だ。
こちらが撃つと城から一斉に砲撃が始まり、必死に走っているキリシタン達を襲う。
そして煙が全体を覆うと次の手が打たれる。
煙の中からピューと甲高い音を響かせ、空に軌跡を残しながら城に飛んでいく。
「報告!!棒火矢の発射を確認!次々と城内へ入ったのが確認出来ました!」
煙に紛れ、棒火矢の射程内まで移動し一斉に発射したのだ。着弾し火薬に引火したのか本陣からも城に火の手が上がっているのが確認できた。
「……後は頼みましたよ。兄上(義勝)」
義照が呟く頃、煙に紛れていた先方組が動こうとしていた。
「義照は上手くやったな。ここからはワレ等の戦だ!突撃!!」
煙の中からでも城に火の手が上がったのが確認できた義勝は一斉突撃を開始した。
城側は大砲と鉄砲を無闇矢鱈撃ち込んでいた。というのも、攻めて来ているのは分かるがどこにいるかは煙で見えなかったからだ。
義照は、秀吉が紀伊攻めで行った策を取った。
これは犠牲を顧みず、煙の為仲間が死んでも分かりづらい為、士気を気にせず突撃出来る事が利点だ。
それを、今回全方位から行っている。
大手門は仁科、足利、島津が、裏門は村上、毛利、浅井とその他だ。
「早く火を消せ!」
「敵が直ぐ側まで来ているぞ」
「煙で見えぐふっ」
「大砲の弾は何処か!!」
「その箱が最後です!」
臼杵城の南蛮、キリシタン軍は煙で目をやられながら反撃する。実は度重なる砲撃で大砲の玉は底を尽きかけていた。
「敵が門に取り付いたぞ!」
「油を持ってこい!奴らにくれてやれ!」
防衛側も必死に反撃をし、城門前に油を撒き辺りは火の海となる。
「油だ!奴ら油を撒いているぞ!」
「おい、火は消えたぞ!しっかりしろ!」
油に火が回ったお陰で門に取り付いていた先陣部隊は火にのまれた。
「殿(義尊)!ここは危険です!お下がりください!」
「直政、ここで引くわけには行かん!火を避け城壁を登るぞ!」
義尊は退かずに前に梯子を使い乗り越える事を指示する。既に他の部隊も城門を避け乗り越えようと進み続けている。
そんな中、ある一団が塀を乗り越えた。
「赤崎丹後守、一番乗り!続け!」
島津軍の赤崎が一番に塀を超え侵入する。南蛮軍も抵抗はするが赤崎達島津兵は肉迫し文字通り一撃で始末していく。
一箇所入られると敵は動揺し次々と侵入を許してしまう。
「城門が開くぞ!!」
一番乗りの声から少しして遂に城門が開く。
城門前はまだ鈍く燃えていたが、我先に兵士達が突撃した。
「報告します!島津家が三の丸城門を突破!」
「申し上げます!裏門、敵に動揺が走りもう少しで突破できます!」
連合軍本陣にいる隆元や親王の下に次々と朗報が入ってくる。その都度本陣は歓喜に震えるが現場(先陣)の方は苦悶の表情を見せている
島津軍本陣
「新納忠元様、御討死に!」
「伊集院忠棟様、御討死に!」
「……幸侃(忠棟)に忠元がだと……」
報告を受けた義久、義弘は衝撃なあまり呆然とし、他の家臣達も言葉を失う。
重臣、特に伊集院忠棟は島津家の筆頭家老だからだ。
「……あ、家久様は如何されたのだ!」
「そうだ!家久は!家久は無事なのか!」
家臣の言葉に義久は慌てた伝令に尋ねる。と言うのも討ち死にした二人は家久と一緒に先陣にいたからだ。
だが、伝令からはわからないとしか返って来ず島津軍は不安を抱えるのだった。