176 仕分け
「良し、次」
一条家の兵を中心に一人ずつ天幕に入れられていく。
中には武装した武将と兵達が待っていた。
「これを足で踏み、蹴飛ばせ」
「へ、へい…」
監督役の武将が命じ、兵は恐怖に震えながら置いてある銅像を踏み捻り、蹴飛ばした。
「良し。この先に進み指示を待て。次」
「へ、へい!」
銅像を蹴飛ばした兵はさっさと奥に進み、次の兵士が、入れられる。
他の天幕でも同じことが行われており、中には怒号や悲鳴が響き渡る所もあった。
「で、出来ませぬ」
「何、出来ぬと申すか!捕らえろ!」
銅像を蹴飛ばすことが出来なかった兵は直ぐに捕らえられ別の場所に連れて行かれる。中には抵抗する者も居たがその場で処理された。
「全く、村上殿は恐ろしい事を思い付く。だが、清々しいくらい効果があるな」
「左様、まさかこんなに簡単に見つけられるとは思いもよりませんでした。少々効果があり過ぎですが…」
連合軍本陣でキリシタンがどんどん捕まる報告を聞いて隆元達は驚きつつも、効果があり過ぎることで少し引いていた。
義照が提案したのは踏み絵である。だが違うのはイエス・キリストや聖母マリアの銅像を踏ませたり蹴飛ばさせたりしたことだ。
というのも、この地には教会が多くあり銅像も多数あったのでただ壊すよりは使ってやることにしたのだ。
結果は、キリシタンは踏みつける事ができなかったり、踏みつけたとしても、その先にある待機場で震えたり懺悔していた者を容赦なく捕らえられていた。
一つ問題を残して……。
「しかし、我が兵にも紛れていたとは痛恨の極みでござった」
「それは島津家や仁科殿を除けば我ら皆そうでござろう。まさか、討ち破ったキリシタン共が兵に紛れていたとは思ってもおりませんでした」
元春が怒りに震えながら言うと長政も深く落ち込む。
上陸後の戦いで多くのキリシタンを討ち取ったが、生き残ったキリシタンが殺した兵士の鎧兜を身に着け軍の中に紛れ込んでいたのだ。
島津と仁科の軍を除いて……。
島津家は元々組分けが徹底されており違う人間が紛れ込んでいればすぐに解り、仁科家に関しても組分けもだが、仁科兵は人外(義勝等)に鍛えられており圧倒的に実力が無い兵士が入ればすぐに分かる為である。
二日後、キリシタンの仕分けが続けられた結果、完全に連合軍から一掃することが出来たのだった。
だが、その数が二千人近くいた事、中には武将クラスもそれなりに居たので問題になるのだった。
「長らく倒れていた事、深くお詫び致す。今後軍(村上)はワシが指揮する故よろしくお願い致す」
村上義照は連合軍本陣に戻ってきた。医師から戦場に出ることは禁止されたが、本陣に居座ることは許されたためであった。
「村上殿が戻られた事は連合軍にとって吉兆になるであろう。さて、皆が再度集まった故今後について決めたい。総攻めか、このまま包囲を続けるか……」
総大将、毛利隆元の言葉に誰もが口を噤む。総攻めをしてまた大敗してしまうのではないか、包囲をしたとしても何時まで続けなければならないのか、分からないからだ。
「ワシは総攻めに賛成だ」
「ワシもだ。最早内通者はおらぬ。裏切り者がいなくなった故兵の士気も上がっている。今が攻め時ぞ」
仁科義勝が総攻めに賛成すると島津義久、吉川元春等、猛将達も続く。
「いや、奴らにはまだ大砲も鉄砲も効かぬ南蛮兵がおる。ここは包囲をし続けるべきであろう」
「義景様の申される通りかと。今回裏切り者達は捕らえたが城側に何の影響も無い。ここは包囲を固め敵を飢えさせるべきだ」
朝倉義景が包囲すべきと言うと、浅井長政や四国勢がそちらに賛同する。
今回の踏み絵でキリシタンが一番多かったのは一条家だったが、次に多かったのが毛利家だったので背を預けられないというのもあるだろう。それに、犠牲を出したくないのが本音と思う。
「村上殿はどう思われる?」
「ただの総攻めには反対だ。落とせたとしてもどの家の軍も壊滅するだろう。だから提案がある」
隆元に聞かれ策を提案する。包囲派にはかなり引かれたが、戦闘狂軍団(武闘派)は総じて満面の笑みを浮かべ賛成した。
「……準備だけ認め、その間は包囲を続ける。それでよろしいか?」
隆元が諸将に尋ね、承諾を得たのでそれぞれ準備を始めることにしたのだった。
村上軍本陣
「ということになった。直ぐに準備を始めるぞ」
「大殿。船から本体を運んだとしても焙烙火矢は使い切っておる為ありません」
「それについては問題ない。明日には…」
「申し上げます!島津家から当主島津義久様、弟の島津歳久様が大量の荷車を持って参られました!」
本陣で話していると、数時間前まで会っていた島津家がやって来た。しかも大量の荷車と……。
「村上様、頼まれました火薬や油等お持ちしました。漆に関しては後日お持ち致します」
本陣にやって来た歳久が先に挨拶と説明を始める。油はうちが良く焼き討ちで使う石油ではなく、一般的に使われる胡麻、荏胡麻などの草種子油や椿・榛など木の実油だった。
うち(村上家)のように臭水(原油)を蒸留して上澄みを和紙でろ過して使う技術は他には無いから仕方がない。
その後ろには義久が周りの家臣達を見極めていた。その目は何処か馬鹿兄(義勝)が引き抜きをしてた時の目と同じで警戒せざるを得なかった。
「あんたには良か家臣が多くおっね。」
「そりゃ、信頼できる家臣達だ。それよりもまさかこんなに早く持ってくるとは思わんかったぞ!!」
「火薬は我らが持ってきていた物を全て持ってきたからにございます。それと、村上様との誼を強くしたい……と兄上達が常々申しておりましたので」
腹の探り合いを無しに歳久は堂々と言った。普通、そういうのは外交の場でやるものなんだが……。
歳久の疲れ切った顔からして理解はしているが押し切られたといった事が感じ取れた。
(どこの家も兄に振り回される定めか……)
「相わかった。それについては後日話し合おう」
義久は嬉しそうにし、そのまま帰っていってしまった。歳久は残り今後について昌胤と話し合いをするのだった。
それから、十日後。
連合軍本陣に足利二引両、そして錦の御旗が掲げられ、全ての大名、それに付き従った重臣一同が伏して頭を下げていた。
その頭を下げた先に鎮座しているのは次期天皇、誠仁親王………。壬申の乱以来、およそ千年ぶりに皇子が鎧兜を身に着け九州の地に立ったのだ。
およそ一ヶ月ぶりの投稿です。
月一の投稿をすると申しましたが、少々問題事に巻き込まれてしまい、執筆が間に合っていません。
申し訳ありませんが当面不定期とさせていただきます。