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戦国生存記  作者: 現実逃避
175/180

175 兄弟

「聞いてたよりは元気そうだな。義照」

馬鹿兄に使いを送って三日目の早朝、何故か目の前には馬鹿兄が立っていた。


「……一応まだ絶対安静と釘を刺された。それより、早くないか?ここまで二日はかかると聞いていたのだが?」

片道二日はかかると聞いていたが何故かここにいる。しかし、使いに出した勝正と雨宮はまだ戻ってきていない。


「馬で夜通し駆けて来ただけだが?それより……」


ドゴッ!


近づいて来たかと思えばいきなり馬鹿兄に頭を殴られた。


「大殿!」

「仁科様、何をされますか!」


周りに居た近従達が慌てて取り押さえ様とするが逆に抑え込まれた。


「言いたいことは分かってるだろうな?義照。何故、一騎打ちをした?!」


「………馬鹿兄には関係ない……」


「ふんっ!どうせ南蛮人に情を掛けて、剣術で一騎打ちをしてやったってとこだろ?だけど、結局剣術じゃ勝てないから体術で終わらせただけだろ?自分の実力を見誤るとか馬鹿らしい!!」


何も言い返せずただ黙った。腹は立つが言ってることは的外れではないからだ。


「ふん、何も言わんか。なら、さっさと信濃に帰れ!そんな傷だらけでは戰場だと邪魔でしかない!」


「だったらさっさと臼杵城を落とせよ馬鹿兄!大量の大筒に鉄砲が効かん南蛮兵が居たんだろ?ただ突っ込むだけの馬鹿兄には一生落とせんだろうがな!」


「ほぉ?ならお前は落とせるって言うんか?まぁー口先だけならいくらでも言えるしな」


「はぁぁ!口先だけだと!ならやってやろうじゃないか!」

部屋にいた者達からしたらいつもの口喧嘩で終わると思っていた。大抵最後は、義照が口で言い負かして義勝が出ていくからだ。だが、今回は義勝の挑発に義照が乗ってしまった。


「ならやってみろ。どうせ城攻めはお前の方が得意だしな。で、呼び出した用はなんだ?」

え?

ええええええー


二人の喧嘩を見ていた若い近従や小姓達は口には出せないが義勝の身勝手さに内心驚き叫んでいた。


「……はぁ。なんで勝正をここに置いた?普段ならそのまま連れているのに?」


「あ?そんな事聞く為に呼んだのか?そんなんもわからんとか馬鹿になったか?」


義勝の言葉にその場にいた者達は義照の方に視線が向かった。弟とはいえ、本家(村上家)の当主に対しての言葉ではなかったからだ。


義照は何も言わずただ黙っている。少し誰も口を開けない雰囲気が続くが閉じていた義照の口が開いた。


「……おい、太刀を貸せ」

「え、あ、は、ははぁ!」


呆けていた近従は慌てて太刀を渡す。


義照は近従から太刀を受け取ると杖代わりにして立ち上がり、一刀で部屋の襖を袈裟斬りにした。一つ斬り終わるともう一度隣の襖を切り裂いていく。


誰もが驚いている中、義勝だけは黙ってその様子を見ていた。


「ッ!はぁぁぁぁ………」


義照は周りの襖を斬り終わると太刀を鞘に納め、側にいた小姓に投げ渡す。その後、義勝の目の前に座り込んだ。


「気が済んだか?頭に血が登り過ぎだバーカ」

「あぁーもう腹が立つ!それで!勝正をここに置くくらい戦況は不味いんか!?」


義照は苛立ちながらも義勝に尋ねる。義勝はため息つくと疲れた様に話しだした。


「不味いな。今は何とか保ってるが遅くてももう一ヶ月もしたら連合軍は崩壊するな。親父(義清)が昔話していた上杉の様に。いや、それよりも状況が悪くなるだろうな」


義勝は詳しい状況を伝えた。既に二度大敗していること、本陣はまとまらず、いつ崩壊してもおかしくないことなど。


「そんなにも状況が悪いんか……。小早川は何をしている?」


「必死に補給路を探しているそうだ。全くあれだけの火薬と弾をどっから集めたんやら……。おい、今の戦況と配置図それと、城と周辺の様子が事細かにわかる地図を持って来い。でなければ義照もわからんだろう」


義勝はヤレヤレといった感じに話す。義照もため息を吐きながらも聞き、先程までの喧嘩は何だったんだと周りは困惑した。

義勝に命じられた近従達が急ぎ取りに行き、義照と義勝の他に二人のみその場に残った。真田信尹と須田満胤である。 


暫くして大量の地図と駒が持ってこられ義照の前に並べられていく。並べ終わると包囲は完璧でアリの出る隙間もないのは分かった。流石は毛利の知恵袋(隆景)だ。


「これだけ見れば抜け道はないと考えるべきだな。しかし鉄砲が通じない兵はどうにでもなるが、大砲がこんなにあるとは堪らんな……城攻めなんぞしたくなくなるわ」


情報からすると大手門、裏門共に大量の大砲が並べられており正面から攻めるのは無駄死にでしか無かった。しかも日本の城造りとは違い、内側を高くして大砲を並べれるようにしているらしく攻めてから制圧は難しい。だが、射角より内側に入ってしまえば恐ろしくはないが、今度は日本の城特有の狭間から鉄砲による集中砲火が待っており城攻めが困難となっている。

どちらも火薬と弾薬が続くからこそ出来ていることでありどちらかが切れれば終わりなのだが……


「だから、頭を抱えている。普通の城攻めならもうとうの昔に落ちとるわ」

「だろうな。……それで小早川の見立ては?一条か大友か?」


「一条だろうな。毛利に合流していた大友の兵はキリシタン憎しで積極的に攻めかかっていた。一条の兵は寡兵というのもあるが一部手を抜いてるのが分かる程だ」


「なら、一条兼定が裏切り者か?」

ここまで徹底された布陣で考えられることは連合軍に裏切り者がいることだが、一番怪しかったのはキリシタンになっていた一条兼定と大友義統であった。だが、義統は父宗麟を討ち取られているので裏切っている可能性は低いのも事実だった。


「それがそうとも言えないから面倒だ」

義勝の説明だと兼定はキリシタンが宗麟を殺した後棄教しキリスト教を禁止したそうだ。しかも本人は義兄の宗麟の仇を取ると息巻いている程だ。


「長い間、大友と共にキリスト教を保護して布教してたんだ。家臣や兵の中にキリシタンが隠れていてもおかしくあるまい」

「なら、一斉に調べるしか無いか……。兄上、小早川殿に……」

義照はキリシタンを見つけるための方法を義勝に話す。義勝もそれならばと直ぐに動くと言い、屋敷を出ていった。これで、内通者の方は片付くだろう。


三日後、義勝は吉川元春と共に毛利隆元、小早川隆景、朝倉義景、原昌胤等と秘密裏に会合し直ぐに準備を始めた。


さらに七日後、連合軍陣地では悲鳴が響き渡るのであった。


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