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戦国生存記  作者: 現実逃避
170/180

170 、初戦

連合軍が軍議をしていた頃、豊後の臼杵城には艦隊を率いてやって来たエステバン・ロドリゲスとペドロ・デ・チャベス、それにカブラル達、宣教師等も集まっていた。


エステバンとロドリゲスはマニラの総督フランシスコ・デ・サンデの命でアジア地域のスペイン艦隊を掻き集めて豊後に来ていた。また、カブラルがスペイン帝国の王フェリペ二世に更なる艦隊の派遣を要請しており、その返答が彼等の元に届いたのだ。


「ガレオン船二隻にキャラックが八隻のみか‥‥」


「仕方がない。イングランドとの戦争が激しさを増したのだろう。あの忌々しい異端者共め」


返答は援軍は送れない。代わりにゴアにいるポルトガル船団を送ったと言うもので、平戸を攻めたのはこの船団だった。


「ジュスト(高山右近)が言うにはこの国(豊後)はかなり大きく兵も集められるらしい。あの猿(右近)が指揮をしたお陰で思った以上に商品(奴隷)を得られたし、何より港を簡単に押さえることができた」


高山右近は九州に集まった(流された)キリシタンを指揮して、南蛮兵を道案内して侵略の手助けをしていた。

日本人のキリシタン兵は四万にも上り、南蛮人が連れて来た正規兵一万、南蛮奴隷兵二万が豊後にいる全軍だった。


「全くだな。しかし、フロイスにしろヴァリニャーノ神父にしろ何が危険だから辞めろだ。これ程簡単に我等を信じ儲けさせてくれる猿などいないと言うのに」


「フロイス等が、悪魔ディアブロが来る等と騒いでいたがそんなのどこにおるか?」


「ムラカミヨシテルだったな。あの猿(右近)も危険と言っていたが海は我等のものだ。ここに来るまでに沈めてやる!」


南蛮人達は笑いながらこれからこの地を治めることについて話し合う。

刻々と死神が近付いていることを知らずに……。


その頃、マカオに三人の男達が到着していた。

アレッサンドロ・ヴァリニャーノ、ルイス・フロイス、そして、ロレンソ了斎である。


「数日、滞在した後ゴアまで向かいます。そこまで逃げたらあの悪魔(義照)でも来られないでしょう」


「フロイス、彼(義照)はキリストの教えに理解はして下さりました。彼は奴隷と、私達が土地を得ることに怒られたのでしょう。話し合えば理解し合えると私は思いますよ」


ヴァリニャーノはフロイスとは違う考えだった。確かに恐ろしいが宗教に関しては一定の理解を示し、勧誘は禁じたが他とは違い領内の滞在と通行は認めていたからだ。


「出来れば、解り合いたかったですね。彼と分かり合えれば日ノ本にキリストの教えを広められたでしょう。植民地等ではなく互いに手を取り合える相手として……」


「あの悪魔と分かり合えるとは到底思いません。それにしてもオルガンティノ様はご無事でしょうか…」


フロイスは義照の元に残されたオルガンティノのことが気になった。何せ、布教の為に連れて行くことを提案したのはフロイス自身だったからだ。


「最後の知らせでは、不自由なく暮らしているそうですが……」


「あの方(義照)は敵対しなければ必ず守られるでしょう。しかし……」


ロレンソ了斎は大丈夫と思いいつつも、豊後次第では危ないと二人には言えなかった。味方は仏の如く守り、敵には閻魔の如く裁きを下し敵地を地獄に変えることが有名になっているからだ。


「今は皆の無事を祈りましょう」

了斎はそう言うと懐から十字架を取り出して祈りを始めるのだった。




数日後


伊予灘を進む閻王の船上で義照は地図に駒を置き軍議を開いていた。陽炎衆が敵船団の数と場所を突き止めたからだ。


「大殿、肥前の敵船団に関しては火ノ山下から門司崎の間に鉄甲船全てを配置し関船と小早で敵の進路を塞ぎます」


「泰親、問題は敵の船だ。まさかガレオン船が二十七隻もいるとは思わなんだ。キャラックであればなんとかなると思っておったのだがな…」


一番の問題はガレオン船の数だった。

別府に二十隻、臼杵に二十六隻となっており、臼杵にガレオン船二十隻、別府六隻と文字通り大艦隊だった。


別府を先に潰したとしても、臼杵の艦隊で削られるのは目に見えていた。

それに、肥前の方の船団についての情報はまだ来ていないがガレオン船の可能性が高い。


「夜に仕掛けて敵船を奪うしかありませんな」

「奪ったところで動かせるのは我等のみだ。毛利も三好も動かし方を知らん」


奪った所でガレオン船と安宅船では動かし方が違う為、まともに操ることは出来ないと皆思っていた。


「村上様、教えていただいて動かすまでどれくらい掛かりますか?」


軍議に参加していた穂井田元清が尋ねてきたので泰親の方を向いて説明させた。


「まともに動かすのに短くて一週間程かと」


一週間と言ってもそんな余裕は無かった。敵は直ぐ側にいるし奪えばすぐに殲滅しに来るのは解りきっている。


「では、香宗我部殿、何隻までなら貴殿方で躁船できますか?」


「他の水軍から人手を集めれば十隻は余裕かと」


「良し!なら話は早い!!奪うのは俺達(村上武吉)に任せろ!穂井田様、それで良いな!」


「それしかあるまい。村上様、武吉の村上水軍と毛利水軍の一部で別府の南蛮船に夜襲を掛けます。南蛮船を躁船出来る者を御貸し下さい」


「泰親…」

「はっ。伊丹殿を護衛とし向井達でどうでしょうか?」


伊丹康直と向井正綱はそれぞれ元駿河水軍と元尾張水軍を任せている他、伊丹には戦列艦二番艦、向井にはガレオン船をそれぞれ預けている。


向井は元々伊勢の海賊で彼の下には信長に仕えていた因縁の相手である九鬼嘉隆がいる。

「穂井田殿、この夜襲失敗する可能性も高く、また海の為逃げ場はなく死ぬ可能性が極めて高いが宜しいので?」


「毛利の為、兄上達のためなれば命など惜しくは御座らぬ!」


「分かった。その覚悟確かに受け取った。伊丹、向井、毛利勢と共に夜襲に加われ。伊丹、天照(戦列艦)の全兵装の使用を許可する。万が一、奪取が失敗した際は出来る限り沈めろ」


「「ははぁ!!」」


風上を取っていれば、戦列艦一隻でも立ち回れるだろう。最悪、逃げて合流すればいい。


その後、成功した場合と失敗した場合を想定して話し合い、伊丹達、戦列艦一隻、ガレオン船二隻と毛利村上水軍、安宅船三隻、関船小早百五十隻が別府に先行して向かっていった。

残った毛利水軍は乃美宗勝が指揮をすることになった。


そして三日後


「船が来たぞ!!……天照が!」

遠眼鏡を持っている見張りが叫ぶと誰もが船団の方を見に集まる。


合流地点の佐多岬沖で待っていると、南蛮船の船団がやって来る。先頭は護衛に向かった戦列艦二番艦天照だが、遠くから見ても損傷が激しいのが分かる程だった。


「……総員戦闘用意」


「え?あっ!戦闘用意!敵が追撃しているかもしれん!急げ!!」


泰親は義照の言葉に一瞬戸惑うがすぐに理解し叫ぶ。

先頭の天照は損傷が激しく、後ろには南蛮船、そして、安宅船や関船等は見えなかった。もしかしたら、毛利水軍は全滅し天照は辛うじて逃げてきたのではないかと思われたからだ。


戦闘配置の鐘が鳴り響き、船員達は慌ただしく配置に付くが、監視員が大声で叫ぶ。


「あ!天照から信号!我成功ナリ!あれは味方です!!」


見張りが天照からの手旗信号を確認した。手旗信号は船同士の連絡手段を考えていた際、義照がつい口にしてしまい、水軍の中で符号を決め作られたのだった。


「誠か!」


「はい!あ、続きがあります………。負傷者多数…救援請う!医療の救援です!!」


見張りから伝えられことで、直ぐに治療を出きる用意を進め、それと同時に味方を船に派遣した。


そして、側にまで来た天照の姿に言葉を失った。

「なんと……」

「ここまでやられるとは……」


戦列艦はマストが三本あるが、天照は二本は折れて無くなり、残っている中央のマストも曲がっておりなんとか補強されて繋がれていた。また、側面には多くの穴があり、上にいく程大きく失っていた。恐らく海中の部分もやられただろうがなんとか補修していのだろう。


「負傷者が多過ぎる!他の船からも人を掻き集めろ!」

泰親の声が甲板に響き渡り、船同士を行き来するための橋が付けられ多くの者が天照に乗り移っていく。


「大殿!伊丹虎康がお目通りをと申しています」

「虎康?康直ではないのか?直ぐに連れて参れ!」


指示をすると直ぐに天照から若い男が連れて来られた。


「伊丹虎康に御座います。大殿にお目通り叶い恐悦至極に御座います」


「そんな事はどうでもいい。康直はどうした?他の者達は?」


「父上(康直)は…敵の砲弾が当たり討死致しました……」


伊丹虎康が何があったか全て説明した。

虎康達は予定通り夜襲を掛け南蛮船に乗り込んだまでは良かったが、船には敵兵が多く、更には乗り込んだ船は味方が居ようが容赦無く砲撃をしてきたそうだ。


その為、最初に乗り込んだ船は悉く沈められ、船が燃える明かりを目印に鉄砲と大砲を撃ち込み多くの者が海に沈んだ。


「父上は天照とガレオン船で敵の注意を引き付けなんとか他の者が船を奪えるよう動きました。しかし多勢に無勢、多くの砲撃を受け夜が明けた頃には大破致しました。戦果…報告を致します。敵ガレオン船含む十二隻撃沈、ガレオン船二隻、キャラック船五隻奪取、一隻逃走。損害、ガレオン船一隻、安宅船三隻、関船及び小早多数沈没。天照大破、戦闘継続は不可能。討死、父伊丹康直、向井正勝、長谷川長綱、それと穂井田元清様他、多数です」


「分かった。虎康、その方は天照を指揮し他の負傷者と共に周防まで撤退せよ」


虎康は涙を流しながら報告を終える。義照は聞き終わった後静かに指示をし虎康を治療に向かわせるのだった。

残った者達は言葉を失っている。特に毛利勢はその場で崩れ落ち周りを憚らず涙を流す。


「穂井田殿も討死か……。乃美殿、念のため確認に向かわれよ…。連れていって差し上げよ」

大声で泣き崩れている乃美宗勝を他の毛利家臣が連れて行く。残ったのは村上家の者四国勢の主な者だけだ。


「二日ここに留まり治療及び修理を行う。また、負傷した者達及び亡骸は周防へ移送する事とする」


「「はっ……」」


残った者達に指示をし艦尾の部屋に戻る。

「天照を失ったか……。次の戦で全てを失うかもしれぬな……」

地図を広げ駒を弄りながらこれからの事を考えるのだった。


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