163 隠居宣言
新年お喜び申し上げます。
本年もマイペースに投稿していきますのでよろしくお願い申し上げます。
元亀十年(一五七九年)一月
信濃 上田城
上田城の大広間には村上一門及び村上本家直臣が勢揃いしている。
一つは新年を祝う為の酒宴会、もう一つは……。
「ワシは二年後に隠居することとした。また、家督は輝忠が継ぐ。二年後としたのは引き継ぎ等がある為だ。来年までに主な部分は輝忠に任す。輝忠、皆に一言挨拶せい」
「はっ!私が家督を継ぐが皆にはこれからも村上家に忠節を尽くして貰いたい」
義照の発表は先に伝えられていた重臣一同を除き驚愕を持って受け止められた。
「さて、それとワシの隠居と一緒に昌祐を始め多くの者が隠居すると言っている。それにより三家老を始め新たに役職を入れ替えることなった。輝忠発表せい」
「はい。まず三家老を発表する。筆頭家老、須田満親!そして新たに、長野業盛、原昌胤!」
「「ははぁ!!」」
呼ばれた三人が前に出て頭を下げる。
筆頭家老は元から三家老だった須田で直ぐに決まった。元々、戦に出ず内政畑の男など影で色々言われていたが、実際疲弊しボロボロだった甲斐を建て直した功績は大きい。
次に業盛だがこれも妥当だろう。他の者より長く重臣でありワシ(義照)の娘が正室である。
そして意外だったのは原昌胤だ。ちなみに輝忠自身が推挙し望んだ。
昌胤は正直他の重臣達より影が薄い。戦も本陣側にいることが多く、手柄も大将首を取ったことは一度もなかった。
だが、それも仕方がない。何故なら、兵站の管理を一手に担っており兵糧の防衛等に就くことが多かったからだ。
勿論、武勇も凄い。兵糧に襲撃した輩は一人残らず皆殺しにしている。
「次に重臣だが名前を読み上げる!」
三人が戻ると今度は重臣の名前が発表されていく。
呼ばれた重臣は以下の通りだ。
出浦昌相
真田幸綱
鵜飼照貞(二代目孫六)
日根野弘就
佐野宗綱
甘粕景持
島左近
工藤祐久
斎藤利治
馬場昌房
木曾義昌
江馬輝盛
保科正直
諏訪勝頼
最年長は日根野弘就だ。まだまだ現役と言っており隠居する気は全くないようだ。
島左近や甘粕景持も今回重臣入りを果たした。左近は重臣では無かったが軍監衆の筆頭で村上軍の軍略、調略等を決めていた。真田昌幸や斎藤利治等も左近と共に軍監衆である。ちなみに北条の調略も彼らが行っている。
甘粕景持は何度か重臣になれと言ったが国境や重要地に滞在が多いので断っていた。だが今回は無理矢理やらせた。
後は輝忠に最初に付けた者達が多く入った。世代交代だから仕方がない。勝頼に関しては難色を示したが輝忠が譲らなかったので渋々認めた。まぁ、勝頼は輝忠には忠実なので暫くは目を瞑ろう。
重臣の後は役職が発表された。
こちらはあまり変化がない。大きく変わったのは、奉行衆筆頭が依田信蕃、副が穴山信嘉となり五奉行(行政、司法、財政、土木、宗教)の担当官がそれぞれ新しく着いた。
行政、依田信蕃
司法、大熊常光
財政、穴山信嘉
土木、室賀正武
宗教、跡部昌忠
大熊常光は大熊朝秀の嫡男で父譲りなのか財政の管理についても中々の手腕を持っている。だがそれより公平性が物凄く、武士と雑兵の喧嘩でも武士が悪ければ問答無用で罰していく。その為今回司法を任せることにした。また、配下には何処で拾ってきたのか岡盛俊がいる。岡定俊の父親だ。
跡部は奉行衆副頭だった跡部勝忠の嫡男、室賀正武は某大河ドラマでも目立ったあの男だ。一言で表すなら口うるさい。だが、仕事に関しては真面目にきちんとこなしていた為今回の抜擢になった。
不思議なことに、真田幸綱とは仲が良いが昌幸とは頗る悪い。詳しいことは知らないが幼少期に何かあったらしい。
穴山信嘉は奉行衆筆頭だった須田満親と副頭だった跡部勝忠が退いたのでそのまま昇進した。
後は一門衆筆頭が国清になったり昌豊が相談役になったことや、上洛する予定なことを発表し、後はそのまま酒宴会へと入った。
輝忠は新しい重臣達や役職を持った者達と話したり、新しく家臣になった元織田家の者達とも言葉を交わしていた、
(さて、隠居後はどうしようかな~。まぁ、先にあれを纏めて戦を無くしたいな……。だが九州が危ないか……)
「大殿、どうぞ一献」
宴会を眺めていると昌祐、昌豊、信春、正俊の隠居した者達がやって来た。
「昌祐、昌豊、ここまで長かったな」
「…はい。大殿に仕えた頃ここまで大きくなるとは夢にも思いませんでした。それにここまで扱き使われるとも……思いませんでした」
「誠に、兄上(昌祐)の仰る通り。亡くなった真田殿も隠居した後同じ事を言われておりました」
「ハハハそう言うな。ワシもここまでなるとは考えてなかった。ただ、誰にも指図されず、侵されず、御主らや民達と共に笑って暮らせるそんな国が作れればそれで良かったのだがな」
昌祐が注いだ酒を飲むと次は信春と正俊が前に来る。
「大殿」
「我等も」
そう言うと二人も盃に酒を注ぎ、こちらも二人の盃に注ぎ返す。
「信春、正俊、隠居したとはいえ、不死身の鬼美濃(信春)に槍弾正(正俊)と名を馳せた其方らだ。たまには兵達の訓練に顔を出してくれ。その方が気も引き締まるだろう」
「大殿、既に若い者達が育っております。その者達に任せましょう 」
「左様。業盛や幸綱達がおります。それに孫の世代も順調に育っております」
正俊と信春は嬉しそうにそう言う。これまで何かと兵士や若い子等に指導することもあり結構慕われている。
「そうか……。四人とも先に命じておくぞ。ワシより先に隠居するからにはワシより長生きするんだぞ。反論は受け付けん」
ワシ(義照)が言うと四人は少し困った顔をしていた。と言うのも四人ともワシより歳上であるからだ。
「大殿、人の生死は時の運に御座います。流石にそれは難しいですぞ」
「昌豊の申す通りです。ワシは大殿よりも十六も歳上に御座います。仮に大殿が百まで生きたとしたらワシは百十六、仙人になれてしまいますぞ!」
「ハハハハ、正俊が仙人か!それは面白い!見てみたいではないか!」
義照が笑うと正俊を除く他の三人も笑った。ホント、家中でもこの四人には気が許せる。
「大殿、楽しんでいる最中に申し訳ありません。某も宜しいでしょうか?」
皆で笑っていると大熊朝秀が徳利を持ってやって来た。
他の家臣達からしたら近寄り難かった様だが大熊は気にせずに来たようだ。それに大熊も今回隠居した。
「おお、構わんぞ。ほれ、御主も飲め!」
徳利を持ちワシがそう言うと朝秀は盃を前に出して受けとる。注ぎ終わると一気に飲み干した。
「おぉ、良い飲みっぷりだ!」
「大熊殿、某からも」
「馬場殿、少し待って下され。大殿、この場で申し訳ありません。御報告が御座います。伊勢本願寺、無事に落ちました」
「なに!落ちたか!」
大熊の報告に目を見開いて驚く。
大熊には信忠の逃走に手引きした伊勢本願寺と紀伊の畠山に対して調略と圧力を掛させた。伊勢本願寺には領地の明け渡しを条件に、紀伊の畠山については当主、畠山秋高、重臣の安見宗房・遊佐信教の首を要求した。
「はい。石山本願寺からの破門、比叡山での焼き討ちが効いたように御座います」
「大熊、良くやってくれた。隠居するがこの一件、最後まで取り纏めよ」
「ははぁ!!」
大熊にそのまま伊勢の事を任せた。新年から良いことがありこのまま続けばと思うのであった。