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戦国生存記  作者: 現実逃避
156/180

156 浅井家

元亀九年(一五七八年)七月

織田討伐を始め一ヶ月が経った。

信忠が尾張から逃げたことは周知の事実となり抵抗する者は殆どいなかった。そう、殆ど…。


「大殿、最後まで抵抗していた小牧山城、落城とのことに御座います」


「やっとか。流石は信長が作った城だな。それで被害は?」


「はっ、元織田勢の武将は幾人も討死しましたが、我が軍に討死はおりません。…ただ…」

清洲城に入っている義照の元へ最後まで抵抗していた小牧山城が落城した知らせが入った。


「どうせ馬鹿兄(義勝)がやらかしたんだろ?続けろ 」


「は。最後に仁科義勝様自ら先陣を切り、負傷されました。ですが、命に別状は御座いません」


やっぱり、やらかした。盛勝は元織田勢を上手く使い自軍の被害を減らそうとしたのだが、馬鹿兄が最後の最後で我慢出来ず突貫したのだ。


「はぁ。もう歳を考えて欲しいものだな。首実検の報告書は後で纏めて持ってこい。後、約定を果たした者達は仁科家に仕官させろ。馬鹿兄が勝手に約束したんだ。面倒を見させろ。それ以外は殺せ」


「畏まりました」


報告した家臣が出ていくと今度は大熊がやって来る。大熊は三河から攻めたが城は一つ残さず皆殺しにし、合流してから一つ仕事を頼んでいた。


「失礼します。大殿。大殿の予想通りに御座いました。伊勢一向衆、織田信忠の逃亡の手引きをしておりました」


信忠の逃亡を手引きした者達から拷問で逃走ルートを聞き出したが、伊勢で他の者達へ引き継がれていた為そこまでしか分からなかった。その為、大熊に伊勢の信忠の行動と伊賀を調べて貰っていたのだ。正直、伊賀の忍びが手を回したと思ったからだ。


長島願証寺は伊勢の北畠家に攻め込み伊勢の大部分を制圧したが、証意が急死した為、顕如が和睦を纏め大河内城を北畠家に返還している。


ちなみに、兄弟子(具教)は生きているが餅(具房)は死んでいる。


「やはりか……。願証寺の顕忍が手引きしたのか?陽炎衆が付いていた筈だが?」


「いえ、それが顕忍や下間頼旦等上の者ではなく、末端の者共が多額の金を貰い行っておりました。その者等は既に捕えております。…それと、紀伊の畠山家も絡んでおります」


何処もそうだが下まで管理は出来ていない。こればかりは文句は言えない。しかし、紀伊の畠山は予想外だった。


「畠山家もか。だがなぜ手を貸した?」


「それが、信忠は高野山へ出家しようとしていたようですが断られ、幕府が裏で要請した延暦寺に逃がした様に御座います。今、陽炎衆が詳しく調べております」


「分かった。大熊、よく調べてくれた。下がって休んでおけ」


「ははっ」


大熊は下がり部屋を出ていく。


(はぁ、しかし畠山にしろ比叡山にしろ舐めてるな。それに幕府か……)


比叡山に信忠一行の引き渡しを要求したが拒否されていた。

その為、軍勢を送るために近江守護になっている浅井家と交渉を行っている。

交渉役は出浦昌相だ。


「全く。……まずは尾張の仕置きからだな…」

義照はそう呟くと仕置きの続きを始めるのだった。



数日後、尾張で多くの者が斬首もしくは切腹した。


信忠が逃亡した後、抵抗していた城から城主(もしくは城代)の首を持ってきて降伏という者達が多かった。重臣の林光之を助命したことが原因だろう。皆殺しと命じていたので全員捕え、今日一斉に行った。他にも馬鹿兄のせいで仮助命した者達で条件を果たせなかった者達も切腹した。


そして、斬首は尾張各地に潜んでいた織田一族もいる。女子供問わずだ。だが、例外もある。


まず、産まれたばかりの乳飲み子だ。流石に親の顔も分からない赤子を殺すのは躊躇した。乳飲み子は孤児院で育てた後は百姓になるか坊主になるかはその時に決めればいい。だが、刃向かうようなら始末する用意も出来ている。


助命された者も三人いる。

まず、秀吉の養子となっていた於次丸。信長の子だが、幼少期から秀吉の養子となっており、今回秀吉は課した条件をやりとげたので助命した。

ただし、秀吉はこれまでは得ていた領地は全て没収し、長屋暮らしに戻った。弟(秀長)と家臣達はなんだかんだまだ付いていっているようだ。まぁ、あいつの才覚なら出世はするだろう。………国清の元で。


次に信長の甥っ子の津田信澄。

こいつは森可成達と一緒に馬鹿兄の所に助命の口添えを頼み俺が条件にした信忠の重臣もしくは側近の首で、佐久間の首を取ってきたので渋々認めた。


ただし、他の条件を果たした織田家臣と一緒に盛勝の家臣にした。ちなみに、光秀の娘婿でもある。


光秀は家臣と一緒に信長の爆死に巻き込まれて死んだ。信長を追って、かなり奥まで入っていたそうだ。

残された子供は昌祐が引き取っている。美濃の頃からの知り合いだからだろう。明智家は嫡男光慶が継ぎ祐久の家臣となった。まぁ、目ぼしい家臣は残って居ないから引き抜きはないな。


そして、最後の一人は人質として預けられていた織田信孝だ。


出陣の生け贄にしようとしたのだが、家臣達から助命嘆願が数多く出たのだ。中には元今川家臣や元徳川家臣からもだ。


これには流石に驚いた。人質だったが、学問は誰よりも学び、武芸も他の家臣達と共に鍛えており家臣達からの評判は良かったがここまでとは思わなかったのだ。


正直、ワシ(義照)からしても信孝の評価は諏訪勝頼と共に高い。憎い一族でなければ重用してもいいくらいだ。


結局、信忠にも見捨てられたので監視の元許すことにした。だが織田の姓を捨てさせ母方の坂の姓を使わせている。

なので、信孝は坂信孝と名乗っており、今は昌幸の元(監視)で過ごしている。


斬首された織田一族は晒し首にした後、纏めて再建した政秀寺に葬った。




その頃、近江浅井家では村上家と織田の戦について話し合われていた。

そして、今後についても…。


「尾張は完全に村上家の物となりました。抵抗していた者達は根斬りにされたとのこと」


「また、各地に隠れていた織田一族は悉く捕らえられ斬首されると噂になっております」


「織田信忠一行ですが、既に比叡山に入っておりました。どうも紀伊を通り京から向かったと思われます」


「村上家からは領内に軍勢の通過の許しを求めております。目的地は比叡山のようです」


浅井久政、浅井長政、浅井輝政の三世代の他に遠藤を始めとした重臣、家臣達が一堂に会していた。長政は家臣からもたらされる情報を黙って聞く。近江一国を領有しているとはいえ、村上と事を構えれば滅ぼされるのは分かっていた。


だが、すんなり軍勢の通過を許してしまえば国主として家臣や領民から見捨てられる可能性が無いとは言えなかった。


「信忠一行を捕らえれず申し訳ありませんでした!!」


家臣の蒲生賢秀と朽木元綱は長政の前で詫びた。叡山に繋がる道の領地は蒲生や朽木等の領地だったからだ。


「済んだことはいい。それに、まさか京側から入るとは誰も思っていなかったしな」

長政はそう言うと責は無いと言い、二人を席に戻らせた。


「長政、村上の軍勢の通過を認めた場合、そのまま我等を攻める可能性があるのではないか?」


「久政様のおっしゃる通りにございます。我等は掻き集めれば二万五千は集まるでしょう。ですが、村上は六万は優に出してこられます。そうなれば我等に勝ち目はありません!!」


「そうです。それに、浅井家と村上家には何の繋がりもありません!信用しては危のうございます」


久政の言葉に続き家臣から反対の声が続く。


「ですが、村上家は盟友朝倉家と婚姻同盟を結んでおります。それに、我等とは誓詞を交わしております」


「誓詞などただの紙切れと変わらぬではないか!」


「我等は朝倉と婚姻同盟しており、村上が攻めることは無いと思いますが?」


「朝倉と村上は婚姻関係だが我等浅井家とは無いではないか!状況が違う!」


「……なればいっそのこと婚姻同盟を提案したらどうでしょう?」


長政の弟、政元の言葉で言い争っていた場は一瞬で静かになる。


「政元、村上家との交渉は任せているがその様な話は出ているのか?」


「はい。既に村上家の出浦殿に提案はしております」


長政の問いに政元は答える。


「それで、村上はそれを認めるのか?織田でのことがあったばかりではないか?」


「はい。貰うことは無理でしょうが、こちらから出すなら認められる可能性はあると出浦殿が言われておりました」



「皆、この話どう思う。ワシ(長政)は村上が認めるならこの条件で良いと思うがどうだ?」


「長政、ワシは村上の軍が近江にいる間は人質を取りその後はその条件で良いと思うが皆はどうだ?」


久政が条件付きで認め、家臣に尋ねると家臣達は暫し考えた後、久政の言った条件ならと皆認めるのだった。


「では、政元、今回の条件で話を進めてくれ。では、評定はこれで終わる。解散」


長政が解散と言うと家臣達の殆どは出ていく。

残っていたのは久政、長政、輝政、政元の浅井一族、浅井政澄、海北綱親、雨森清貞、遠藤直経、といった一部重臣達。



「長政、上手く話は纏まったな」


「ええ。先に話を詰めておいて正解でした。海北、雨森、遠藤、上手く話を運んでくれた」


「はっ、聞かされた時は驚きましたが上手くいって何よりにございます」


そう、さっきのやり取りは前もって決めていた茶番である。


海北と雨森が反対、遠藤と政澄が賛成の意見を言い、久政が敢えて条件を言って反論を押さえるためだった。


「長政、政元。ワシは人質を預かるまでは決して認めぬからの。他の者達も同じ考えであろうしな」


久政は、そう言うと広間を出ていく。

海北と雨森も長政に礼をしてから久政について行くのだった。


「……政元、後の交渉は頼んだぞ」


「お任せを」


長政は父達を見送った後静かに溜め息を吐く。

言ってることは間違いではないのだが、既に隠居をしているのであまり政には関わって欲しくなかったからだ。


政元に交渉を託し長政は部屋に籠っている妻(市)の様子を見に行くのだった。

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