143 同盟の崩壊
上田城
「以上のことから北条家が盟約を破ったのは明白。何卒、援軍を出して頂きたい!」
穴山、小山田の反乱は北条が後ろで糸を引いてると武田は大量の証拠を持って言ってきた。
「これだけ持ってこられても偽装された物がほとんどではないのか?」
「左様、武田はこれまで幾度も欺き同盟国を裏切ってきた。信用せよと言うのが無理であろう」
使者の二人は家臣達から一斉に疑惑の目で見られた。
義信だけ見れば裏切りはまだないが、武田と見るとどうしても疑ってしまう。
けど………。
(武田が兵力3000に対して小山田、穴山が5000はどう考えてもおかしいな …)
武田は反乱鎮圧の為に軍を動かしたが、敵の数があまりにも多く、戦わず睨み合いとなっている。
ちなみに小山田と穴山のせいで東甲斐凡そ三万石は孤立しているが、高坂昌信と一条信龍が孤軍奮闘し死守している。
「北条は何と言っておる?」
「まだ、使者が帰ってきておりません」
義照の質問に信貞が答える。武田は北条に対して直ぐに使者を送った。
だが、未だに帰ってきてなかった。
「こちらから北条に使者を送り確かめよう。まずはそれで宜しいか?」
「…畏まりました。北条が関与をしていることが確認できたならば、何卒援軍の方宜しくお願い致します」
信繁達は帰っていき、義照は業盛に命じて北条に対して使者を送るのだった。
元亀七年(1576年)10月
上田城
北条に送った使者が戻ってきた。
首だけが……。
「これ(首)を持ってきた風魔から氏政の伝言として、同盟国である朝倉に侵攻した村上に対し同盟の破棄を申し付けると……」
「なんと…」
「朝倉と同盟とは…」
「孫六…」
「申し訳ありません、直ぐに調べます」
首を受け取った業盛の言葉に集まった家臣達も北条の愚行に驚きつつも朝倉と同盟していることに不思議に思った。
「業盛、北条との国境の守りを固めろ。満親、東甲斐で孤立している武田勢に援軍を送ってやれ。ただし、こちらから手出しはするな。それと、商人達に北条とのやり取りを全て禁止させろ。もし行った場合は資産は全て没収し罪人とし一族郎党撫で斬りにするとな」
「「ははぁ!!」」
俺は直ぐに全ての関所を封鎖した。それと、佐竹と武田にも使者を送った。
佐竹からは直ぐに返事が帰って来て俺達と合わせて北条領に侵攻するとあった。
今すぐ攻めたいところであるが周囲の影響のせいで動けないので、来年に三家が同時侵攻することで決まるのだった。
元亀七年(1576年)12月
駿河 駿府城
「御館様、山県様の江尻城ですが防衛に成功し、穴山、小山田の北条軍を撃退!!敵は撤退しました!!」
おおぉぉぉ~
「流石、山県様だ!!」
「武田家最強の赤備えと黒備えを率いられるだけある!」
「いやいや、赤備えは昌時殿(飯冨)が継いでおるではないか」
「だが、飯冨殿は山県殿に師事しておるではないか」
駿府城に集まっていた武田家臣団は喜び城主の山県昌景を称賛した。
武田家は史実とは大きく変わっているが変わらないこともある。
武田四天王だが高坂昌信、山県昌景の二人は入っており、史実の馬場信春、内藤昌豊の変わりに、飯冨虎昌の嫡男、飯冨昌時と曽根昌世が入っている。虎昌は既に鬼籍に入っている。
「それで、被害は如何程か?」
「はっ、城は三の丸が落とされましたが二の丸は健在。水軍も問題ありません」
伝令の言葉に義信を含め更に歓声を上げた。
何故なら、穴山、小山田軍は更なる北条の援軍を受け一万にも上っていたからだ。
「・・・兵の被害は?籠城戦とはいえ、2000に対し凡そ10000だ。かなりの損害であろう…」
誰もが喜ぶ中、信繁だけは顔色一つ変えずに訪ねる。
伝令は被害を報告したが、死者については何も言っていなかったからだ。
「・・は…。防衛に当たった2000名中半数は死亡、生き残った全員負傷しており無事な者は一人もおりません。また…横田康景様、三枝昌貞様等が討ち死に。それと曽根昌世様が生きてはおいでですが、深傷を負われ最早まともに槍を振るうこと叶わず、…また山県昌景様、鉄砲を受け重傷、私が城を離れる際に聞いた話では手当てをした医師からは見込みなしと…」
「なんだ…と……」
「なんと…山県様が…」
先程まで歓喜に沸いていたのが嘘のように静まり返る。
それだけ、昌景の影響力が大きかった。
「では、誰が指揮を取っておる?」
「負傷されておりますが他の方と比べて軽症な飯冨様が防衛戦の指揮を取られております。ですが、次に攻められた場合防衛は不可能だと」
伝令からの報告に全員が言葉を失くす。
このままではもうどうしようもなく、北条に呑まれてしまうのが確実だからだ。
「叔父上(信繁)、甲斐の昌信達は無事なんでしたよね?」
「あぁ。村上が数は少ないが援軍を送り北条も手を引いたようだ。北条としては村上を自領に引き込みたいのかもしれぬ」
義信は甲斐の状況を確認し目を瞑る。
これからどうなるか考え、何が最善なのかと。そして目を開け集まっている家臣達を見渡し口を開く。
「この冬の間は北条も動けないだろうな?」
「はい。なので今の内に兵を退いたのでしょう」
「御館様、如何されましたか?」
義信の言葉に土屋昌続が答え、昌世の子、曽根虎盛が訪ねる。
そして義信は自身の中で決断したことを発表した。
「このままでは裏切り者達の手によって滅ぼされてしまうだろう。私は村上家に臣従することにする」
「「「御館様!!」」」
家臣達は驚きどよめく。信繁や信廉も驚愕のあまり口が開いた。
「御館様!それはなりませぬ!」
「左様!村上は武田の滅亡を望んでおります!認められることなどあり得ません!!」
「そうです!殺されるだけにございます!!」
家臣達からは一斉に反対の声が上がった。だが、数人は目を瞑り黙っている。
「叔父上(信繁)と信利に交渉を任せたい。叔父上、条件は一任します」
「分かったが、禰津は如何する?義照は本気で禰津一族を根絶やしにするぞ?」
「準一門ですので出来れば逃がしたいと思っております。そこを含めて交渉をしてきて頂きたい。最悪、太郎や家臣達が生かして貰えるなら私の首を差し出しても構いません」
「・・分かった。任せて貰おう」
信繁は承諾し、直ぐに信濃に向かう為広間を後にする。
その後、評定は終わり皆広間を後にするのだった。
武田が苦渋の決断をした頃、上田城で一人の男が決断を迫られていた。
(家臣になっても棄教はしなくていいと言われた。だが、領内での布教は禁じられた。それではこの国まで来た意味がない。だが、拒否すれば火炙りだなんて・・・)
人質となっている宣教師ニェッキ・ソルディ・オルガンティノである。
本当ならフロイス達が戻ってこなかったので9月には火炙りだったが、織田や北条のせいで後回しにされていたので生きていたのだ。
だが、いつまでもそのままと言うことはなく、義照に最後通告されたのだ。
条件はオルガンティノ自身は棄教せずに信仰することは許すが、領内での布教は固く禁じ配下になること、拒否すればそのまま火炙りと言う内容だった。
どうして火炙りでここまで恐怖するのかと言うと伝統的なキリスト教の価値観では、最後の審判の時まで肉体が残っていなければならない為、火炙りはなんとしても避けたかった。
「あの方(義照)は恐ろしい…でもキリスト教を理解はしてくれる・・・生きていればいつかはきっと……」
オルガンティノは悩みに悩んだ末義照の条件を飲み家臣となるのだった。
1ヶ月後、オルガンティノは義照から小さな屋敷を与えられ驚く。
屋敷はオルガンティノの話を元に設計され、見映えは普通の屋敷だが内装は南蛮に近い作りになっていたからだ。
その後、村上領でキリスト教は禁教とし領内で布教した者は火炙りと触を出した。
ただし、既にキリスト教に入信していた者は関所で申告すれば、入国を認められた。
だが、無許可で侵入した場合、黙っていた場合は同じく火炙りとするのだった。