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戦国生存記  作者: 現実逃避
140/180

140 義照の思い

元亀七年(1576年)7月中頃

信濃上田城


信長に交渉を命じられた織田の三人はやっと義照と面会が出来るようになっていた。

信長の命を受け、信忠達は直ぐに信濃に入り面会を求めたが拒否された。

それでも諦めず三人と護衛達は何度も訪ねたが拒否され続け、若い信忠と護衛として来ていた森長可は我慢の限界であろうことか門番を押し退け城に乗り込んだ。


信忠の言い分は織田家は存亡の危機になっており同盟国の次期当主で婿がわざわざ来たのに面会拒否とはどういうことかと言ったのだ。


信忠と長可の暴走は光秀と秀吉には予想等出来る筈もなく慌てて二人を止めに入るが遅かった。


何より城で暴力沙汰を起こしたことが不味かった。二人は城門を越えるなり陽炎衆によって身柄を抑えられ、危うく首を刎ねられる寸前までいったのだ。



首を刎ねられそうな二人の前に三家老の一人、馬場信春とその息子昌房がやって来る。


信忠達は「無礼だ!離せ!」と言うが昌房は信忠の態度に激怒する。


「無礼にも使者も送らずいきなり面会を求めてやって来て、あまつさえ門番を倒して城に乗り込むとは織田は何様のつもりか! そんなに死にたいならここで切り捨ててくれる!!」


昌房はそう言うと太刀を抜く。秀吉と光秀は必死に懇願し許しを得ようと頭を下げた。


「待て昌房。大殿から殺すなと言われたであろう」


信春は昌房を止めるが個人的には直ぐにでも首を刎ねたかった。今回ここにやって来たのは義照の伝言を伝える為だ。


「大殿から伝言だ。世間知らずのガキが何様のつもりか? 婿だから一度は見逃す。出直して来い」


「な!ふ、ふざけ」


「申し訳ありません。直ぐに出て行きます」


信忠が怒鳴ろうとしたが光秀と秀吉は直ぐに二人を連れて上田城から離れた。

今度は本当に斬られかねなかったからだ。


それからは、光秀と秀吉は美濃で織田が負けたことを知り、必死に義照へ交渉出来るよう、村上家重臣や一門の元へ駆け回りやっと面会に漕ぎ着けたのだった。


面会には光秀、秀吉、信忠の三人だけで、長可のような護衛は立ち会えなかった。


「さて、光秀、秀吉久し振りだな」


「はっ…。これまでのご無礼! 深く! お詫び申し上げます。此度参ったのは…」


「要件は知っている。信忠に俺を説得させるのだろう? 信長が道三を説得したようにな。世間知らずの若造(信忠)に出来ると思っておるのか?」


光秀は要件を言おうとしたが義照に遮られる。すると今度は秀吉が口を開く。


「確かに若様(信忠)は世間知らずの所があるのかもしれません。ですが! 性格は殿(信長)によく似ておられますのできっと村上様も御認めになられると思います」


(おいおい、秀吉。それは誉めてるのか貶しているのか…)


義照は秀吉の発言に苦笑いをし信忠を見る。信忠は顔には出していないが複雑だろう。


「さて、信忠。婿殿として会談したいか?それとも、織田家次期当主として会談するか?」


義照は信忠に尋ねる。婿としてなら甘くあたり援軍は一切送らず、次期当主としてなら厳しくだが援軍を出すこと考えてやるつもりだった。

この場には次期当主として輝忠も参加しているが発言は認めさせなかった。


「両方で。私は義照殿の婿であり、次期当主でもありますので」


「ほぉ。ではどうやってワシから援軍を引き出すつもりか? 奈美(信忠正室)を人質にするか?」


「それも考えはしましたが、後ろの二人(光秀、秀吉)に止められました。やれば私は即座に殺され織田家は終わりだと」


信忠の言葉に家臣達は驚いた。義照の目の前でやろうとしたことを認めたからだ。


「ほぉ~それで? 止めたから援軍を出せとは言うまいな? その程度ならその首をこの場で落とすぞ…」


義照は笑みを浮かべているままだったが、誰が見ても怒りを我慢しているのは明白だった。


「勿論言いません。舅殿(義照)は織田家と同盟を結ぶ際、伊勢北畠との戦には手を貸さぬとし朝倉家と戦はせぬとは言っておりません。また、此度は幕府の要請を受けて立ち上がっております。朝倉は賊軍です!」


「そうだな。確かに幕府から見たら朝倉、浅井、北畠は賊軍になるな」


「ならば!!」「だが、それは幕府に義があればの話だ」


信忠の言葉を遮る。信忠はえ?と言った顔をする。


「此度は朝倉が強大になり過ぎた為に幕府が起こした戦。三好のようになると考えてな。ならば、朝倉が終われば次に狙われるのは我等だ。それに義昭も義景もどちらもワシが邪魔なようだ。どちらもこの戦が終われば村上討伐と周囲に漏らしていたしな」


信忠は驚いていたが後ろの二人は「やはりか」と納得していた。

この可能性は光秀が信忠に伝えていたのではあるがそれはないと高を括っていた。


「それに、織田に援軍を送ったところでワシ等に何の利がある?」


「利はありません。しかしながら婚姻同盟したならば互いに協力し合うのが当たり前ではありませんか!!」


信忠の言葉に光秀と秀吉は不味いと感じた。

それは周りの村上家臣達の一部が殺気だったからだ。


「プッ…ハハハハハハハハハハハハ!!!」


信忠の言葉に義照は大笑いし始める。

信忠は笑われることなどないのに大笑いされたことで怒りが込み上げ大声を上げた。


「何が可笑しいのですか! 私は何も可笑しいことなど申してはおりませんが?」


「ハハハハ…ぁぁ~よりにもよってお主(信忠)が言うか! 笑わしてくれる!。皆聞いたか!! 婚姻同盟しておれば協力し合うのが当たり前だとさ!」


義照がそう言うと笑う者は居ないが、殺気立つ者が増えた。特に三人の後ろ、下座の方に座っている者達だ。


「康政! 重忠! 忠隣! 正貞! 前へ!!」


義照に呼ばれた四人は信忠達より前に出てくる。四人とも今すぐにでも信忠を殺しかねなかった。


「今後お主ら四人に織田との交渉を任せる! 信忠! 協力し合うのが当たり前だと言ったのだ! この者達全員が認めれば援軍を出そう。後は御主ら(四人)に任せる。会談は終わりだ!!」


「「「ははぁ!!!」」」


「お、御待ち下され!!何故に御座いますか!!」


光秀は慌てて言い、信忠も何故か聞いてくる。秀吉は一人何かを思い出そうと必死に考えていた。何処かで聞いた名前だからだ。


「あぁっー!! 思い出した!!」

秀吉が急に大声を出し、皆の注目を集めた。

信忠と光秀も叫んだ秀吉に驚きつつも首を向けた。


「榊原康政、酒井重忠、大久保忠隣、内藤正貞、皆、徳川様の家臣だった者達で御座いますか!! そうか…義照様、そういうことで御座いますな!!」


頭の回転が早く直ぐに理解した秀吉は義照に訪ねる。義照もまさか直ぐに分かるとは思ってもいなかった。

今呼んだ四人は父親や親族が家康が切腹した後殉死していた。


「はぁ~多分御主(秀吉)の考えは当たりだ。秀吉。やっぱりうちに来ぬか?今からでも遅くはないぞ。その才を発揮すれば直ぐにでもうちの重臣の末席には入れるだろう。織田におるのが勿体無い」


「御誘いは嬉しいかぎりでは御座いますが、此度は辞退させて頂きます」


「猿! どういうことか!!」


信忠は秀吉に問うが光秀は事態を理解し青ざめる。



「信忠様、ここは一旦下がりましょう。村上様、此度は一度出直させて頂きます」


「あぁ、そうだ光秀。少し残れ。話がある。輝忠と重臣以外は広間を出よ。景持、信尹、婿殿(信忠)と秀吉を別室に案内してやれ。四人はそのまま交渉するように」


義照が指示をすると家臣達が速やかに動き出す。信忠は待ったと言うが聞く者は一人もいないのであった。

そして、重臣達と光秀が残る。


「さて、光秀。龍興からは寝返りの誘いが来てるのであろう?」


「はい。既に信長様にも伝えております。龍興様には御断りをし丁重にお帰り頂きました」


俺(義照)が知ってると思い、光秀は正直に話す。変に隠すよりは良いと思ったからだ。丁重にと言えば聞こえが言いが実際は信長に引き渡そうとしていた。


「うん。知ってる。龍興はあの木曽谷での会談の時と比べれば天地がひっくり返るくらい成長した。あの頃に今の半分くらいでもあれば同盟を続けていただろうな」


「……義照様から見て、信忠様は援軍を送るには値しませんか?」


「だな。間者から普段の様子を聞いていたがまさか、信長の倅の口からあんな言葉が出るとは思いもせんかった。まして、うちには裏切られた徳川家臣団も居るというのにな。まだ、預かっている信孝の方がマシだ。あれ(信孝)は呆れる程正直過ぎる。謀略をされれば忽ち騙されるだろう。だが、その正直さのお蔭か元今川家臣だろうが徳川家臣だろうが一定の評価は得ておるぞ」


「だから信忠様にあのような難題を課せられたのですか。徳川様の家臣だった者達を説得せよと」


光秀は秀吉に言われて全て理解した。協力するのが当たり前と信忠が言ったので織田が裏切った徳川家臣を納得させなければ同じ事をすると。


「まぁ、あれ(信忠)に出来るとは思ってはおらん。どのみち九月一杯までは何もせん。龍興との密約があるからな」


「それはどのような条件で?」

光秀は驚きながらも駄目元で訪ねる。

そしたら意外にも答えが帰ってきた。


「龍興が稲葉山城(岐阜城)か信長の首を取るから美濃を攻めてから半年は手を出さないでくれと言ってな。条件として、失敗した際は越前に攻め込むこと、龍興の首を俺が刎ねることとした」


「何故そんな約束をされたのですか!! 信忠様に嫁がれたご息女を危険に会わせてまで!! 貴方(義照)らしくもない!!」


光秀は声を荒げた。同盟相手を裏切ること、ましてや自分の一族を危険に晒すこと等決してしなかった義照がどうしてそんな事を認めたのか。


「……義龍を思い出したからだ。あの斎藤飛騨守の傀儡だった龍興が今では立派な武将となっていた。稲葉山を追われてから色々あったのだろう。今のあやつ(龍興)は若い頃の義龍を見ているような気分になった。御主(光秀)や昌祐、昌豊を巻き込んで楽しんだあの頃のな」


義照が懐かしそうに言うと、昌祐と昌豊は呆れていた。あの頃は苦労したと……。光秀も二人と同じ思いだった。


「そんな龍興が父である義龍と同じ事をしようとしたのだ。自ら織田を討とうとな」


「されど、親子とはいえ龍興は義龍様ではありません!! 状況も違います!!」


「そんな事は分かっとるわ!!!!」


光秀の言葉に義照は怒鳴り上げる。輝忠や重臣達はその光景に驚きを隠せなかった。

普段義照が感情を爆発させ怒鳴るなど無かったからだ。

特に輝忠は父親がここまで激昂し声を荒げる姿など見たこと無かったので驚愕していた。


「義龍の代わりなど居るわけがない!! あいつは俺にとって、この乱世でかけがえのなかった唯一無二の盟友ぞ! 一緒にするでないわ!!!」


光秀を含め重臣達、最古参の工藤兄弟にも義照の気持ちが理解できなかった。

いや、出来る訳がなかった。


気が付いたらいつ死ぬかもわからない戦国の世に転生し、武田に滅ぼされる定めだったのを必死になって覆そうと奔走していた義照にとって義龍はたった一人、心から信頼し許せる親友となっていた。


道三が聞けば、この乱世、他国に友など裏切られるだけだと言うだろう。

だが、義照と義龍は他の者が呆れるくらい本当に仲が良かった。互いに当主となってからは頻繁に手紙をやり取りしており、しょうもない内容の書状も幾つもあった。


そして、義龍が尾張を取ることを一番喜んだのも義照だった。自身が武田を打ち破り信濃を制圧したことで歴史は変えられると思っていたからだ。


だからこそ、桶狭間の前に義龍と尾張で酒を酌み交わそうと約束をしたのだ。

だが、結局義龍が病で倒れ全ては夢に終わった。


「光秀! うつけ信長が生きていれば伝えろ! 道三より譲られた美濃を失うなら死んで詫びろ! 俺が美濃と尾張を取る。預かっている信孝と信忠については反抗しなければ生かしてやるとな!!」


「っ!! …畏まりました……」


光秀は義照の激情を目の当たりにしてただ頭を下げるしかなかった。

その後、光秀は出ていき、義照は重臣達も下がらせ一人になる。

昌祐と昌豊は出ていく際声を掛けようとしたが、義照の表情を見て何も言えなくなり黙って出ていく。

それは輝忠も同じだった。


(誰も俺(義照)の気持ちが分かるわけないだろう。いつ死ぬか分からないこの戦国時代でたった一人何でも話せて信頼し心から許せた友を失った悲しみが……)


「なぜ、先に逝ったんだ。義龍……」


義照は、暫く一人で昔の事を思い出し涙を流すのだった。


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― 新着の感想 ―
ノッブに直接手を下さずに追い詰めるとか、史実だと死亡フラグ以外の何物でも無いんですが… 大丈夫? 武田(婉曲表現)しない?
[一言] 病気の事仄めかしもしなかったのに
[気になる点] なんか読めば読むほど主人公に嫌悪感がでてくる 最初の頃はよかったんだけどなー 仏の面も閻魔の面もあるって設定だけど最近なんか仏な面だした?笑
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