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戦国生存記  作者: 現実逃避
139/180

139 裏切り者

元亀七年(1576年)6月末

京 御所


正親町天皇の前に摂家の当主達と数名の公家が揃っていた。

理由は幕府と朝倉の戦についてだった。


「幕府からは朝倉に対し朝廷より討伐の勅を出して欲しいと申しております」


「馬鹿を申すでない!幕府が兼照や麿(前久)に何をしようとしたか分かっておろう!あろうことか帝の御息女に!」


「近衛殿、気を落ち着けられよ。帝の御前ぞ。それに、その件は皆分かっておる」


通勝が幕府の要望を伝えると前久が激怒し声を荒げ、実澄がそれを宥めた。


ここにいるのは九条稙通、九条兼照、近衛前久、二条兼孝、三条実信、三条西実澄、正親町三条公仲おおぎまちさんじょう きみなか、中院通勝、土御門有脩つちみかどありなが大炊御門経頼おおいのみかどつねよりだ。


「朝倉家からは幕府討伐の勅をと申しております。朝倉殿は幕府を支えていこうとしたが幕府に裏切られ已む無く戦になったと…」


公仲は朝倉の要望を伝える。今回、戦を仕掛けたのは幕府であり朝倉は自身を守るために已む無く兵を上げたと言うのだ。


だが、幕府が相手では幕府を重んじる者達が攻めてくるので朝廷の権威を借りようとした。


「・・実澄、稙通。応仁の大乱に並ぶ戦がこの都を襲うと思うか?」


「恐らく、彼の大乱程にはならないでしょうが、都は再び荒れ、廃墟が多くなるかと…」


「今は近江で戦をしておりますが、恐らく幕府は敗れ都に戻るでしょう。朝敵である大罪人(三好)共が既に都に入っております。今は大人しいですが、朝倉が都に入り戦となれば何を仕出かすか分かりませぬ」


帝の質問に実澄と稙通は顔を見合わせた後、答える。


二人は応仁の乱程の戦はならないだろうが、三好が御所に乱入したようなことが起きかねないと考えた。


「恐れながら申し上げます。主上に於かれましては何卒、越前へ御動座もお考え頂きたく……」


「経頼!帝に御動座とは何を考えておる!」


「関白(前久)様のおっしゃる通りだ!しかも越前とはお主は朝倉と謀り、帝を手中に納め利用する気か!」


「そうだ!!越前へ行けば利用される!それに幕府が黙っておる訳ないわ!!帝を危険に曝す気か!!!」


大炊御門経頼の言葉に摂家の三人(近衛、九条、二条)は激怒する。

実澄や稙通も口にはしないが同じ思いだった。


「然れど、このままでは帝の御身が危ういではございませぬか!!越前なれば第二の都と呼ばれる程栄えており、多くの公家達も逃げ込んでおります!!」


「公仲様の申す通りに御座います。今なれば、丹波に向かえば朝倉家に保護されましょう。どうか、お考え頂きたく……」


「公仲、有脩!!お主等もか!!」


前久達は朝倉の手が伸びていることは分かっていたがここまでとは思っていなかった。


「経頼、公仲、有脩。其方達は遷都せよと申すのか?」


帝の言葉に呼ばれた三人は驚きつつも、頷く。


「いえ、そこまでは…。ですが後土御門院様の例も御座います。一時避難をされても誰にも批判を受けることはないでしょう」


「だが、それは室町第に避難されたのだ!京から出てはおらぬ!前例ではない!!」


実澄は経頼達の言葉に我慢できず怒鳴り付ける。


「・・・でしたら、私の館へ避難されませぬか?」


「九条の館へか?」


「はっ。義照によって改修され砦としての機能もあり、僅かですが兵もおります。それに御所の目と鼻の先に御座いますので避難するのも容易いかと…」


稙通は自身の館に避難を勧めた。九条館は近衛館も吸収し、公家の館としては最大となっていた。

周りは堀が掘られ塀も高く、籠城も可能で、護衛として五百人が常時守護し、最大千人まで集まるようになっていた。


九条館と言うが敷地内には近衛館もあり土地としては半々となっており、境には塀もあるが常時通れるように門が付けられている。


「左様か…。経頼。朕は都を出ることはできぬ。稙通、兼照、もしもの時はよろしく頼む」


「「ははぁ……」」


「義兄上(義照)にもダメ元で護衛の軍を頼みましょう。それと、銭はかかりますが雑賀の者達にも声を掛けます」


九条は伏して頭を下げ、前久は伝のある雑賀衆に声を掛けることにした。


越前へ連れていこうとした三人は帝が認めたので黙ってはいたが、内心三人(九条親子、近衛)に対し憎悪を抱く。

朝倉からなんとしても越前へと言われ、報酬も約束されていたからだ。


三人はこの日以降、京を離れ越前へ向かうのだった。

それから数日、あの梟雄が動く。



大和

多聞山城

「もう我慢ならん!!ワシは朝倉に寝返る!!」


多聞山城で一人の老将が家臣を集め宣言する。


「父上、三好様(義継)には何と?」


「これまで三好家と幕府に尽くしてきたが幕府の横暴に最早我慢ならん!義継様には申し訳ない!そう伝えろ!!」


老将はそう言うと家臣達の前で立ち上がる。


「幕府など、恐るるに足らん!筒井を攻めるぞ!!!」


「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」


老将こと、松永久秀は宣言し家臣達は雄叫びを挙げる。久秀は幕府軍として参加していたが勝手に離脱帰国していたのだ。


松永久秀謀反は直ぐに幕府軍に伝わった。

それは東で起こった最悪な知らせを受けた直後だった。


近江 幕府軍本陣


「おのれ松永め!!折角命を助けてやったと言うのにワシ(義昭)を裏切るとは!!」


「上様(義昭)、申し訳ありません。我ら筒井勢陣を離れさせて頂きます。このままでは大和は松永によって悲惨な目に遭わせられますので。後免!」


義昭は怒鳴り、本陣に居た筒井順慶は直ぐに本陣を後にした。


「上様、丹波では味方の波多野殿が勝っており、丹後も山名殿が押しております」


「しかし織田がここまで弱いとは思いもよりませんでしたが、今ならまだ浅井、朝倉に勝てます。何卒、決戦の御指示を…」


幕臣達はまだ数が同数なので勝てると急ぎ決戦を望んだ。いや、決戦を行わなければ軍が崩壊しかねない状態だったのだ。


と言うのも、美濃関ヶ原で信長は龍興率いる朝倉軍に敗北し、重臣柴田勝家を始め多くの者達を失ったのだ。



遡ること数日前。


龍興は伊賀忍を雇い、尾張各地に焼き討ちを依頼し、熱田、津島等の重要地を含め火の海にした。


これにより織田軍の士気を下げ、あわよくば撤退させるのが目的だった。

村上(義照)が武田に対して行ったのと同じだ。


結果として動揺が広がり兵達の士気は一時的に下がったが信長は退くことはなく、今回の焼き討ちを利用し、恨みや憎しみを朝倉家へと向けさせ士気を上げた。


そして、両軍が激突したがここで織田家から裏切り者が出た。

美濃三人衆の稲葉一徹と氏家ト全だ。


二人は安藤への厳しい処罰を聞いてから自分達も不要になれば理由を付けて追い出されるのではと恐怖した。何故なら、美濃で大身なのはこの二人だけだからだ。

そんな時、龍興を通じ朝倉から寝返りの誘いを受けたのだ。


勿論二人は即時に拒否し追い返したが、龍興と面会したと噂が流され、信長に疑惑の目で見られるようになる。

勿論噂を流したのは龍興である。

周りのお陰で御咎め無しにはなったが、信長からの疑惑の目は続いた。


そして今回先陣を命じられ、手柄を上げなければ領地を召し上げると通告され、堪えきれず寝返りを決めるのだった。


戦が始まると即時に反転、織田勢に突撃した。

まさかの裏切りで織田の第二陣だった平手、佐久間勢は一瞬で崩壊、第三陣の柴田勝家は必死に応戦し時間を稼いだが、自軍の士気の低下と敵の数に圧倒され討ち死にするのだった。


そして本陣の信長は第三陣の勝家の軍の状態を見て即時に撤退を決め、殿しんがりを佐々成政、不破光治等に命じ自身は僅かな手勢のみで大垣城を迂回し岐阜城に戻り籠城の準備を急がせる。

と言うのも大垣城は氏家の居城だからだ。


また、北伊勢の防衛に当たっていた、森可成と河尻秀隆を呼び戻し、使者を長島願証寺に送るのだった。

史実の信長ではあり得ないことを行い、間者からの知らせを聞いた義照を驚愕させたのだった。



織田を裏切った稲葉と氏家の二人は朝倉家臣団に囲まれながら大将の龍興に面会した。


「色々言いたいことはあるが、信長を討った後にする。まず、今さら来たところで所領安堵は出来ん。手柄を上げなければ誰も認めん。だが半分の領地は安堵だ」


「か、畏まりました」

龍興の言葉を二人は頷くしかなかった。もう、織田に戻ることなど出来ないからだ。

二人の先導で大垣城に入り暫し休みと補給をした後、斎藤道三の最後にして最高傑作の城で自身の城でもあった稲葉山城(岐阜城)に向かうのであった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 信長は戦に強く領地を富ませたからこそ、部下に強気でもまぁワンマン社長として有りだったかもですが、 この世界線だと部下に厳しい割に戦でもあまり活躍してなく、同盟者や周囲には冷たい。同盟戦略も…
[一言] 史実なら織田が中世に終止符を打つ役割を果たしたわけですが、この世界では力不足。主人公の村上も中央政界に関心がなく、長尾も天下取りの意志はなく、北条も同様…これでは畿内以東からは天下統一勢力は…
[一言] 九条館ねぇ…義照はどう動くかなぁ…。
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