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戦国生存記  作者: 現実逃避
13/180

13、信虎追放

天文十年(1541年)六月末

甲斐


「此度の戦、皆大儀であった!」

信虎は重臣家臣を集めて今回の信濃攻めが思い通りにいったことを喜んでいた。


武田は北佐久郡を除くほぼ全てを手に入れた。これは信虎が最後に諏訪と村上を脅した結果であった。


「後は諏訪の婿殿を従えて中信濃を制圧し小笠原を滅ぼせば不服を申す村上も黙ってワシに従うか潰せば良かろう。さすれば信濃は武田の物になるだろう!」


信虎は既に村上と争うことを決めていた。諏訪頼重のように従順ならそのようなことをする必要もないと思っていたが、此度の戦で邪魔なのがよく分かったからだ。


「御館様、我らが留守中に駿河の今川義元様から書状が来ております」


そう言って飯富虎昌は書状を渡した。

書状には駿河に嫁いだ娘を見に来られよといった感じの内容だった。


信虎は丁度戦も終わり落ち着いており、晴信のことを頼まねばと思い駿河に向かうことを決めたのだった。


晴信のこととは、信虎は今回の戦の前に晴信を実質廃嫡し信繁に家督を継がせる考えを重臣、家臣達に見せていた。


その為、廃嫡した晴信を今川家に預けることを考えていたのだった。



数日後

信虎は僅かな共を連れて駿河へと向かっていった。

この時、甲斐へ戻れなくなるとは夢にも思っていなかった。


天文十年(1541年)七月

小県郡松尾城


「武田晴信は見事な手際で信虎を追放したな」


俺達は領地変えが終わり、小県郡四千石を貰い松尾城に入っていた。


戦も終わって間もないので、領地の復旧や整備に追われていた。


そんな中、甲斐武田で見事な信虎追放が行われ血を一滴も流さずに信虎を追放したのであった。当主は嫡男晴信が継いだ。


世代が変わったので同盟を今後どうするか話し合ったようだが、義利兄上の必死の説得で一応現状維持と言うことになった。


「なあ、昌祐、昌豊。お前達は甲斐に戻ろうとは思ったことはないのか?恐らく今なら戻れると思うが?」


「何を今更。殿、我らが仕える主君は殿だけですぞ!」


「左様!父上を殺され、放浪していた我ら一族を召し抱え保護して下さったこと、生涯忘れません!」


俺が二人に訪ねると、既に居場所はここだと言ってくれた。俺としては嬉しかった。


それと同時に書状を見せてくれた。武田晴信から誘いの手紙だった。既に手を付けられていたことに驚いたが二人とも断りここにいると言ってくれたのだ。


「二人とも、扱き使うだろうが今後も頼むぞ!」

俺はそう言って作業を続けた。



数日後

関東管領上杉憲政が佐久郡へ侵攻を開始した。その数三千だ。


父は直ぐに兵を集め出陣出来るようにした。待ちに待った北佐久郡を取り返す好機だから。


しかし問題もあった。南小県郡を諏訪に取られていることだ。


なので、一旦俺の城である松尾城で様子を見ることにした。出来れば南小県郡まで攻めてきてくれることを期待してだ。


しかし、その期待は直ぐに崩れるのだった。


諏訪は独断で兵を集め出陣していたのだった。俺達は小県郡の国境を守るために出陣すると両家(武田、諏訪)に知らせを送っているが諏訪は黙って出陣し既に上杉軍と対陣していたのだった。


数日後に俺達の元にその情報が入り父は激怒した。

更に翌日、諏訪が上杉家と和睦したと聞くと、諏訪と手切れにすると言って葛尾城に帰っていった。


和睦の内容は佐久郡を諏訪と上杉で分けるものだった。北佐久郡の領地奪還を目指していた父は我慢の限界だった。


父は直ぐに武田には諏訪が盟約を反故にしたので諏訪との同盟を手切れにするという使者を出した。


武田は仕方なしと了承していた。しかし、武田が諏訪との同盟を手切れにしなかった。人質として妹、禰禰が嫁いでいたからである。


その為、父義清は動くに動けなくなっていた。

今動けば最悪武田とやり合うことになるからだ。


そんな中、義利兄上に嫁いだ亀御料人が懐妊したという知らせが入り、諏訪のことは一旦忘れて皆、喜んだ。


特に父義清の喜びようは半端なかった。まぁ、男の子なら村上家は安泰だし初孫になるからだろう。


村上家が一時的な幸せに包まれている頃、甲斐武田では今回の諏訪の一件をどうするかで評定が続いていた。


「このまま諏訪と関東管領との和睦を見過ごせば武田に従う佐久郡の地侍共はことごとく諏訪に寝返りますぞ!!」


「佐久へ出陣すれば長き戦になろう。今そのようなことを起こせば父上(信虎)と同じ轍を踏むことになるぞ」


晴信は今戦をするのは避けたかった。もし行えば父信虎と同じことをしているだけだからだ。


「しかし、佐久を失いますれば信濃への足掛かりが失くなります!そうなれば、この甲斐は再び貧困を強いられます」


「御館様、諏訪を恐れては何も始まりませぬ。武田家を裏切ったのは諏訪にございますぞ!弱腰になられてはなりません!!」

重臣達と晴信が話し合っていると一人の男が口を出した。


「恐れながら申し上げます。しばらくは様子を見て機を見て出陣しては如何かと存じます」


「何故だ?勘助………」

晴信は勘助の考えを聞いてみた。晴信は勘助を知行二百貫で召し抱え、自らの軍師としていた。


「今回の一件で諏訪は村上と手切れになったので南小県郡の守りを固めなくてはならなくなります。また、諏訪に調略を仕掛け諏訪を二つに割り、頼重と対立する者達と手を組めば我らはその援軍として諏訪に出陣すればいいでしょう」


「高遠頼継か………」


「はい。我らは高遠の援軍として諏訪に向かい、高遠討伐に逸る諏訪頼重と有利に和議を結べば良いかと………」


この後晴信は勘助の策を認め、直ぐに調略を開始させるのだった。

それと同時に村上にも間者を向かわすことにした。


その際、村上義照の元へ潜り込むよう指示があった。晴信は村上と争うときに一番の難敵になると考えていたからだ。

村上義照の元へ間者として教来石景政が送り込まれるのだった。



天文十年(1541年)八月

小県郡松尾城


「それで、武田家を離れて私に仕えたいと?」

俺は一人の男に会っていた。仕官したいと甲斐からやって来た男だ。


「武田家は武田晴信の謀反の後、戦を避け臆病になりました。今回、諏訪の裏切りを許していることが何よりの証拠にございます。何卒!私も諏訪攻め参加させて頂きたくお願いに上がりました!!」


男は熱く語るがこの男が誰か知ってるだけに残念だった。


「そうか………。しかし、残念だが、父上は裏切りに激怒していたがまだ諏訪と戦を構えるつもりはないようだ。北の高梨との小競り合いが多くなったらしくこちらには手を出せないのだ。それでも構わないのか?」


「構いません!どうか私を御家来衆の端に御取り立てくださいませ!」

男は伏して頭を下げた。それを工藤兄弟と三人で見ていた。


「昌祐、兵の集まりはどうか?」


「はっ!金子はかなり掛かりますが既に目標の千人程集まっております。内訳は騎馬隊三百人、槍隊六百人、弓隊百人です」


俺が聞くと詳しく説明してくれた。騎馬隊だけは昌祐に完全に任せている。槍隊は昌豊、弓隊は領地移動してから家臣として付けられた出浦清種と一族が管理している。


「昌豊、槍隊百人を任せてみようと思うがどうか?」


俺が昌豊に聞くと考えた上でいいと思うと答えたので、任せてみることにした。


「では、お主に槍兵百人を預け侍大将としよう。知っていると思うが、うちでは領地の代わりにそれに見合った金子を与えている。領地はまだ少ないから重臣にしか与えてないがいいか?」


俺が聞くと男は驚いた顔をしてからまた、伏して頭を下げた。


「いきなり兵百人も与えられ侍大将として頂くなど、この上なく嬉しゅうございます!我が命尽きるまで殿に尽くす所存に御座います!」


男はそう言い工藤兄弟は感心していたが俺としては物凄く残念に思えた。本当に家臣としてそうしてくれるなら物凄く嬉しいが、口だけで間者として来ているとわかっているだけに、心の中では沈んでいる。


「では、よろしく頼むぞ。教来石景政」


「ははぁ!!」


教来石景政、後の馬場信春だ。史実では、諏訪攻めで多くの武功を上げ馬場家の名跡を継いだ。因みに、晴信の初陣だった海ノ口城の戦いで城主の平賀源心を討ち取ったとされている。


俺は工藤兄弟にだけは景政が武田の間者として来ているだろうということを伝えた。

二人は驚いていたが、どうしてそのままにするのか訊ねてきた。

一つは人手が足りないからと、もう一つはわざと自由にさせておくことで監視がしやすいからだと伝えた。


ただし、神水酒(清酒)の製造場所など重要拠点には入れることはないとした。実際入るのを許しているのは護衛として工藤兄弟だけだ。


二人には景政を密かに見ているように指示を出すのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 間者だと分かってれば武田と争う時には逆に切り札になりえるね。 情報は大事だが誤情報は致命的な敗北を生む。
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