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戦国生存記  作者: 現実逃避
128/180

128 東北

元亀三年(1571年)8月

上田大神宮


村上輝忠


親王様一行は上田大神宮に入られた。

行ったことが無いが伊勢神宮と同じ広さを僅か二年足らずで造り上げたと伝えたら驚かれ、どうしてそのようなことが出来たのか聞かれ答えるのに難儀した。


弟の兼照のお陰でなんとか誤魔化したが、父の考案した黒鍬部隊の陣地作成の訓練に利用したとは口が裂けても言えなかった。


宮大工にしても、京、伊勢から連れて来られていた。勿論誘拐ではなく、多額の銭を与えてだ。


ただ、完成後もこの地に残っているので大工職人達の腕が軒並み上がり、上田大神宮周辺の建物はどの職人が美しく見事に造り上げるか競いだす程だった。お陰で新しく出来ていく城下町はどこよりも美しく、活気のある町となっている。


(しかし、親王様は色んな所に行かれるな。それに、質問も容赦なく痛いところを突いてこられる...)

輝忠は気を付けながらも親王様に付いて回るのだった。



旧信濃御所

村上義照


(今頃上田大神宮を回ってるんだろうな~。親王様に輝忠と兼照が付いているから俺は行かなかったけど良かったかな?)


俺は包丁を片手に輝忠達が大丈夫か心配した。


「大殿様(義照)、こちらの料理はこれで宜しいでしょうか?」


料理長が出来上がった料理を持って来て試食する。


「うん、最高だ!これで行こう!それで、あれはどうだ?」



「はい!既に出来ております!きっと副将軍様もご満悦になるかと」

俺が訪ねると料理長は自信満々に答えた。

あれとは酒のつまみだ。ぶっちゃけ景虎専用でもある。


「大殿様、こちらこれで宜しいでしょうか?」


「そうだな..これはー」


俺はその後も宴の料理を準備していくのだった。


義照が料理を造り、親王様が信濃を散策している頃、大名達は外交交渉をしていた。


特に伊達輝宗、最上義光、長尾景虎、佐竹義重の四人と側近達は一堂に会していた。

目的は蘆名盛興についてだった。


史実では蘆名と伊達は既に和睦し、婚姻までしていたが、現在も争ったままだった。それに蘆名は長尾とも長年敵対していた。

また、今回招待されていないのは下野の宇都宮をそそのかして、村上を攻めさせようとしたためだった。


目的は佐竹と村上を争わせ、伊達から佐竹に援軍を送らせ、その隙に裏で繋がった、相馬盛胤、最上義光と伊達を攻めようとしたのだ。

義光が蘆名についたのは伊達から独立するためだった。


「まずは副将軍様、此度は呼び掛けに応じて下さり忝なく」


「輝宗殿、奥州探題の襲名、並び陸奥守を与えられたこと、遅くなったがお祝い申し上げる」


輝宗が景虎に礼を言い、景虎は祝いを申した。


「輝宗殿、本題を進めるべきでは?」


そんな二人を急かしたのは最上義光だった。

義光は内心悩みに悩んでいた。


輝宗から集められた理由は聞いており、自分が内通していることを知られていないことへの安心感と、対蘆名について敵対しているが最近は戦が起きていない長尾家が参加したことに驚きを隠せきれなかった。

蘆名から長尾に関しては問題ないと知らされていた為でもある。


「確かに義兄(義光)の言う通りだな。では、集まって頂いたのは蘆名についてでござる。ここにいる者は蘆名と敵対している。此度は奥州探題として戦を起こす蘆名を討伐したいと考えております。その為、ここに集まった大名同士、一時的に対蘆名の同盟を結びたい」


輝宗が説明すると景虎は黙って聞いていた。

義光は場合によっては蘆名と相馬を裏切ればいい、と考えながら聞いていたが、景虎から出た言葉に驚愕する。


「輝宗殿、我ら長尾家は蘆名と和議を結んだ」


「なんと!」「いつのまに!」


「それと、此度参ったのは蘆名家から伊達家との和議の仲立ちをして欲しいと頼まれたからだ。直江...」


「はっ...輝宗様、こちらを。蘆名盛氏殿よりの書状にござる」


景綱は輝宗に一通の書状を手渡した。

輝宗はそれを受けとると中を確認し、目を見開いて驚く。


書状には和議の内容が書いてあり、簡単に纏めると、輝宗の子を婿養子として招き入れ、次期蘆名家の当主を約束するとあった。そして、裏切り者についても...。


「何と書いてあるのですか?」

義重が聞くと輝宗は義光を見る。


「義光、お主裏切っていたのか?」


「なっ!なにをばかなことを言われる!!!」


書状を義重に渡し輝宗が義光に尋ねた。

そして、書状を読んだ義重も顔が真っ赤になる。


「宇都宮の一件、貴様(義光)が糸を引いていたのか!!!」


義重の怒号が響き渡り、今にでも脇差しを抜き義光を殺すのかと思わせる程だ。


「佐竹殿、ここは村上の領地。手を出せば生きては出れぬぞ。其方もだ」


景虎は落ち着いたまま言い放ち、義重や輝宗の後ろの鬼庭は脇差しから手を離す。


「蘆名殿から更に二通の書状を預かっております。我等に真贋の判断は出来ませんので....」

景綱はそう言うと更に二通の書状を渡した。見覚えのあるそれを目にした義光は全てを察した。


蘆名に謀られたと。


(蘆名め!俺(義光)と相馬を裏切り切り捨てたな!!)


義光は内心激昂したが、口に出せなかった。さっき自分も同じ事をしようとし、更にこの状況をどう切り抜けるかが一番考えなければいけなかったからだ。


「・・・副将軍様。今回の蘆名との和睦ですが、前当主盛氏を人質として差出し、当主盛興が米沢城に来ることを条件に受けます」


「相分かった。蘆名にはそう伝えよう」

景虎はそう言うと部屋を出る。景綱も後に続き戸を閉めようとしたが手を止める。


「伊達様、佐竹様、お怒りは分かりますが、くれぐれもこの地では事を起こしませんようお気をつけ下さい。如何なる理由があろうと、閻魔(義照)が黙っては居ませんので...」


景綱はそれだけ言うと戸を閉める。

部屋に残された六人は誰一人口を開かなかった。


だが、二人の鬼が義光に殺意を向けていた。鬼義重と鬼庭良直だ。



「義光!その首必ず貰う!必ずだ!! 」


義重は義光に怒鳴り上げると怒りのまま部屋を出ていく。

輝宗は黙って義光が蘆名に送った書状を読む。

そんな状況に堪えきれない義光も部屋を出ようと席を立つ。


「義光、そんなに我等から離れたいのか?」


「・・・当たり前だ。俺は独立し領地拡大を諦めた訳ではない」


義光はそう言うと出ていく。残された輝宗と良直は黙っていたが、輝宗が口を開いた。


「義姫には辛い思いもさせるだろうな。兄(義光)思いの良き妻だ」


「殿...。最上を許す訳には参りませぬぞ」


「分かっている。米沢に戻り蘆名と和睦後、最上と相馬を攻める。良直、準備をするよう連絡してくれ」


輝宗はそう言うと書状を再度読み返す。


「義光、お主を羽州探題に推挙しようとしたのにな....」

輝宗はそう一言呟き、部屋を後にするのだった。

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[気になる点] 義光が輝宗の義弟って書かれてません? 義兄でしょ?
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