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戦国生存記  作者: 現実逃避
127/180

127 一触即発

元亀三年(1571年)8月

上野


親王一行は北条領での巡行を終え次の目的地、信濃上田に向かっていた。


「義兄様!(九条兼照)この地の民は皆穏やかに過ごしているんですね!それにこの馬車とかいう乗り物は輿より乗り心地が良いですね!」


誠仁親王は大はしゃぎで小窓から外を眺めていた。


「殿下(親王)、馬車の中とはいえ巡行の最中にございます」


「参議(兼照)の申す通りにございます。何卒、今は自粛していただきたく...」


一緒に馬車に乗っている九条兼照、二条兼孝は親王様を諌めた。外とはいえ周りには護衛の為、浅井長政や幕臣達もいたからなのも理由である。


二条兼孝は史実の九条兼孝である。父である二条晴良は、永禄の変後の三好による朝廷への乱入(招き入れた)の首謀者だったが、彼(兼孝)は反対し続け、彼等(晴良一派)が四国に逃げたその後も京に残り帝や九条、近衛に謝罪し続けたので一人許されていた。


ちなみに二条晴良を含む三好の御所乱入、及び乱暴狼藉に加担した公家達は全員勅勘、及び官位の剥奪と言う厳しい沙汰を言いつけられている。その前に幾人かは処理されたが…。



馬車は四人乗りで、馬四頭で引かれていた。


(はぁ~、父上はなんでこんな物(馬車)まで知ってるんだろう...兄上も溜め息を付かれてたし)

兼照は心の中で父(義照)に関して悩んだ。


と言うのも、武蔵と上野の国境で北条家から村上家の迎えの軍が来たが、その際この馬車についての説明があった。


説明したのは兄輝忠で、始皇帝の銅車馬を模したものと言っていた。親王様は博識だなと兄を褒めたが、全て父に言われたことを話しただけと言い驚かれていた。そして、早く会って話がしてみたいと。


(はぁ~、後で兄上(輝忠)と相談するか...)


大はしゃぎする親王を他所に、兼照の心中は実家に帰るまでに疲れ果てるのだった。


兼照が馬車の中で疲れている頃、輝忠は長政と話をしていた。


「長政殿はかなり苦労されてきたのですね...私とは大違いだ...」


「それはどうでしょう?帝の信任が厚く、一代で大国にまでになった右近衛大将様(義照)の子として、いつも父親と比べられて来たのではないでしょうか?私にはそちらの方が大変だと思いますが?」


二人は意外にも意気投合していた。同い年で嫡男も同い年だったのもある。


「まぁ、それはありますが....。しかし、あの野良田の戦いが初陣だったとは...。長政殿が率いる浅井軍は相手にしたくないですね」


「それは私も同じです。村上家とはことを構えたくない」


二人は楽しく談笑していたが、後ろにいる傅役二人と幕臣の一人は深刻な顔をしていた。

「では、やはり上様は...」


「はい。朝倉の操り人形に近いかと。今は政所執事となった三淵様が何とか防いでおりますが...。副将軍様が居られた時は何も問題は無かったのですが...。それに、上様は三好と正式に和睦されました。全く朝敵に指名されている者と和睦されるなど....。三淵様や我等にも知らされたのは結んだ後でした」


「三好の一件、噂では朝倉殿が裏で糸を引いたのではとまで言われる。我ら浅井家と朝倉家の関係はかなり深い。万が一、戦となれば...」


遠藤直経、工藤昌豊、和田惟政の三人は互いの持つ情報を交換していた。その中で話題になったのが朝倉と幕府の関係だった。


「遠藤殿、朝倉は北畠と同盟を結んだが、その仲立ちをされたは先代の久政殿らしいが、長政殿はこの事をご存じだったので?」


「いや、我らもその話は織田家から使者が来て初めて知った。長政様はその事について大層御立腹されている。戻り次第、久政様に問い質すと言われていた」


(やはり、殿(義照)が危惧した通りか....。では、浅井が割れる可能性も..)


「遠藤殿、工藤殿、三好の一件に、朝倉は一切関与しておらん。三好は人質を差し出して和睦を申し出てきたのです。・・・それと、此度の和睦を進めた者の名は....」


惟政が三好と幕府の和睦を取り纏めた者の名を言って、昌豊は言葉を失った。

昌豊を含め、義照もその人物が纏めたことをまだ知らないのであった。



信濃上田城


「お待ちしておりました。管領様(朝倉義景)、副将軍様 (長尾景虎)。しかし、管領様自らおいでになるとは。使者の話で代理を送ると聞いておりましたので・・・」


俺達は総構えの門前で長尾家、朝倉家を出迎えた。

まさか、一緒に来るとは思ってもいなかったので正直困惑している。それに朝倉は代理を送ると言って来ていた為、義景がここに来たこと驚きを隠せなかった。


「何、副将軍に誘われたから来たまでだ。景虎殿がわざわざ越前まで来られたら、来るしかあるまい」


義景は不機嫌そうに言うが、隣の景虎は満面の笑みを浮かべていた。


「村上殿、越後からかなり食材を運びいれたのは知っている。此度の馳走(酒)、楽しみにさせて貰うぞ」


「ははは、お手柔らかにお願いします。では、中へどうぞ...」


俺が中へ入れようとすると景虎に待ったをかけられ、一人の若者が前に出てきた。


「お初に御目にかかります。義父上様(義照)。長尾景勝にござきぃ...」



「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」


出て来てた若者は挨拶したが見事に舌を噛んでしまい、沈黙が流れる。

そしてやらかした若者こと長尾景勝は恥ずかしさから顔を真っ赤にする。


「まぁ~そうだな。緊張せずとも良い。娘のことは後で聞くとしよう。とりあえず中へ入りなさい」


俺が言うと、景勝はさらに顔を赤くして総曲輪の中に駆け込んだ。


「村上殿、すまぬな」


景虎は一言そう言うと中に入っていく。残された朝倉一行も、ひそひそ話しながら入っていくのだった。


(景勝ってなんかイメージ違うな~。政景殿が生きてるからかな?)


そう。史実とは違い、まだ父親の長尾政景は生きている。話によれば真面目に景虎に尽くしていると言うが、直江景綱は未だに警戒をしているらしい。


(まぁー俺には関係ないか)


俺はそう思いながら中に戻っていくのだった。


それから三日間、色んな大名やその代理がやって来た。

東北は南部家からは代理として九戸信仲が来て、安東、伊達、佐竹の各家からはそれぞれ当主の安東愛季、伊達輝宗、佐竹義重が来た。後ついでで、最上義光もやって来ている。輝宗が誘ったらしい。


北条、武田は氏政と義信が親王様一行についてきていると報告があった。


そして、織田と北畠だが・・・一触即発になっていた。


「まさか、貴様(具教)が来ているとはな...」


「それはこちらの台詞だ。なんなら今すぐ先の戦の続きをしようか?預かっている貴様(信長)の倅(茶筅丸)を磔にしてな!」


織田家臣と北畠家臣達は刀を抜き構えている。

いつ斬りあいが起きてもおかしくなかった。そんな中、場違いの男が二人乱入..突撃した。


「ははは!なんだスゲー面白いことになってるな!!俺も混ぜろ!!」


「おぉ!うつけの殿(信長)に叔父御(利家)じゃないか!まさかこんなところで会うなんてな!!」


乱入した二人は仁科義勝と前田利益であった。


「なんだ貴様等は!!」


「慶次~!お前、殿に向かって何て言った!ゴラッ~!!」


北畠家臣団と利家の怒号が辺りに響き渡った。そんなのをお構いなしに義勝は品定めをし、目を見開く。


「・・・おお!!おめぇ!かなり強いな!ちょっと殺ろうや!!!」


義勝が目を付け言った相手は誰であろう具教だった。


「誰だか知らぬが、叩き斬ってくれる!!」

具教はそう叫ぶと一瞬で義勝の懐に入り切り裂いた。

義勝は驚きながらも後ろに飛び、すんでの所でかわした..かに見えたが...


「なっ!!」「なんと!!」


「てめぇー...やるな~」


義勝の服が布一枚だが切り裂かれていた。

これに一番驚いたのは義勝ではなく、戦ったことがある柴田勝家だった。

なんせ、自分一人では傷を付けることさえ出来なかった相手にいとも容易く一太刀あびせたからだ。


「貴様、名は何て言う?」

具教は自身の一撃を避けられたことに驚き、警戒しながら訪ねた。

目の前の相手に師匠(卜伝)や弟弟子(義照)以来の相手だと感じたからだ。


「俺は仁科飛騨守義勝。お前は?」


「北畠不智斎だ。貴様、今張遼か。ならば相手にとって不足なし!!」


「北畠不智斎...知らんな。師匠から北畠具教って言う剣鬼がいると聞いていたがおめぇ、知らんか?」


「仁科殿!その者がお主の言う剣鬼、北畠具教だ!」


義勝が不智斎に訪ねるとそれが聞こえた勝家はついつい叫んで伝えてしまった。

聞いた義勝はと言うと物凄い笑みを浮かべていた。


「そうか!お前がそうなのか!ハハハ最高だ!師匠(卜伝)が言っていた!弟子で剣鬼以上の腕前は知らぬとな!俺は太刀では勝てぬと言われた!!ハハハハハハハハ」


義勝は顔に手を当て天を向いて大笑いした。その光景に周りはただ、戸惑うしかなかった。


「あぁー最高だ....。まさかこんな所で出会えるなんてな...」


義勝は笑うのを止める。そして、槍を構えた。その顔はさっきまでとは違い、一切油断なくその間合いに一歩でも踏み込めば一撃で仕止められる錯覚までさせられた。


「・・・フフフフフフ。生きている間にこれ程の相手に出会えるとは..。」


具教は低く笑った後、太刀を構えた。


「一応礼儀だ。名乗らせて貰おう。鹿島新當流免許皆伝、北畠具教」


「流派などないが...そうだな、仁科流槍術、仁科義勝...」


二人は名乗り互いに構えた。

この二人の殺試合の邪魔は誰にも出来なかった。

北畠家家臣も織田家一行も固唾を飲んで見ていた。否、二人の気迫に動けなかった。


互いに少しずつ間合いを詰めて行く...。

そして二人が間合いに入ろうとしたその時..


ドン!!


二人の間に鉄砲が撃ち込まれた。まさかの出来事に全員の視線が鉄砲を撃った者に向けられる。


「何してるか!!!俺の領地で殺し合いとかふざけるな!!!そんなに死にたいなら今すぐ全員地獄に送ってやろうか!!!」


撃ち込んだのは義照であった。


「義照!!邪魔をするな!!」


「そうだ!!このような相手とやれる機会など二度と無いだろう!!なぜ邪魔をする!!」


義勝と具教は二人揃って猛反発する。

他の者は口を閉ざした。特に織田一行はきっかけにはなったが、二人の殺し合いにはただ巻き込まれただけだったからだ。



「うるさい!!これからは親王様が来られると言うのに、余計な手間をかけさせるな!!」


義照が右手を上げると、数多くの忍が出て来て武器を構えていた。

中には鉄砲を持った者までいる。


「・・陽炎衆精鋭部隊虚うつろか...」


義勝は忍の強さからそう言った。陽炎衆は任務や強さから部隊分けがされており、虚は最強の精鋭部隊だった。

頭は源八こと二代目孫六である。


「ちっ、確かに分が悪いな...。仕方ない。義照、剣鬼(具教)と試合が出来るようにしろ!!」


義勝はそう言うと構えを解き槍を肩に担いだ。具教もそれを見て太刀を鞘に納めるのだった。



「・・・はぁ~。殺し合いではないことを条件に用意しよう...はぁ~」

俺はそうぼやいた後、忍達を下げさせる。


「さてと、織田も北畠も招待したのは俺だから今回は何も見なかったことにしよう。ただ...次、何か起こせば容赦はせぬ」


俺はそう言って両家を迎え入れるのだった。それから二日後、親王様一行が上田に到着するのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 脳筋戦闘民族が増えていくなぁ。
[気になる点] 兄に相談って父に相談するつもりやん(笑)
[一言] 何をやってるんだこいつらは・・・( ゜д゜)
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