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戦国生存記  作者: 現実逃避
118/180

118 謀神と閻魔

元亀元年(1569年)9月

九条屋敷


ここで、謀神と閻魔の会談が行われる。

周囲は誰も近付けない様に両家の兵が囲んだ。


義照側は閻魔村上義照、九条兼照、甘粕景持、原昌胤の四人。


元就側は謀神毛利元就、小早川隆景、宍戸隆家、国司元相の四人。


「お初にお目にかかる。村上家当主、村上義照と申します。隣にいるのは息子の九条兼照に御座います」


「これはご丁寧に、毛利元就で御座る。こちらは息子の小早川隆景、そして、娘婿の宍戸隆家に御座る」


俺が挨拶し、元就が返事を返したことによって和やかに会談が始まる。



「まずは、出雲での尼子討伐での戦勝おめでとう御座います。尼子とは深い因縁があったと聞きましたが無事に討ち滅ぼされたお気持ちはどの様なものですか?」


「なんとも、複雑と言うのが本当でしょうな。毛利家は元は安芸の小さな国人だった故、ある時は尼子家に、ある時は大内家に従ったりとしておったのでな。それに、経久殿には多くの事を学ばせて貰った」


「尼子経久ですか。確か、自らの死をも利用して大内の軍勢を出雲に誘い込み大勝された方と聞きましたが、どの様な人物だったのでしょうか?」


俺が訪ねると元就は尼子経久や大内義隆等の昔話をしてくれた。

元就は戦のやり方や頭の使い方を、経久の見よう見まねで覚えたと言っていた。

その様子から元就が経久を恐れながらも尊敬していたのだと知った。


「ワシの方はこんなものだな。ワシも聞きたいことがある。お主は既に幕府を見限っておるのか?」



「ええ。おっしゃる通り見限っております。表向きはともかく、あれ(義昭)には激怒してます」



和やかな話が一変し一瞬で緊張感に包まれる。

元就が、唐突に本題に突っ込み俺が笑顔のまま本音を返したからだ。


聞いた元就ですら驚いていた。元就としては誤魔化すか言い淀むと思っていたからだ。


「理由は言わなくてもお分かりと思います。上様にお会いになったと聞いておりますので... 」


俺が言うと元就も顔を渋めた。謁見をして同じように見限ったからだ。


「それに、つい数日前のことです。政所執事の摂津晴門と管領朝倉義景が帝の姫皇女様を将軍の正室にしようとしました。あってはならないことに御座います」


俺が笑みのまま答えたせいか、毛利側は物凄く警戒した。


「ほほぉ…。しかし、そちらの九条殿の奥方は姫皇女様だと聞いておるが?お主も同じ事をしておるではないか?」


「ええ、兼照の妻は春齢女王様です。帝より話を出され断ることなど出来ません。なので、いくつか条件を付けさせていただきました。全ては帝をお守りするために....」


俺は兼照を見た後、元就に帝と交わした条件を全て話した。

元就は平清盛を例にしながら確認していた。


「成る程な、それなら納得じゃな。しかし、幕府がそこまで愚かなことをするとは思いもよらなんだな」


「幕府と言うよりあの二人がですがね。戦を無くしたいと言う上様(義昭)のお考えは賛同できる物はありますがあの二人が全て悪くしてしまう」


「では、排除すれば良かろう。朝廷からの勅命なれば将軍も無視は出来まい」


俺が残念がって言うと元就は案を言ってきた。まぁ、前久が既に言っていたのだがそれでは奴等は生きたままだ。なので、地獄を味わってもらう。


「ええ、でもそれでは罷免しか出来ません。ですので・・・こちらで奴等を地獄に送ります....」


俺が言うと集まっていた者達は錯覚を起こしていた。義照が本当に閻魔に見えていたのだ。そんな中、国司元相は義照の怒りと威圧感で元就が危険と思い、脇差しに手を掛け、前に出て守ろうとした。

しかし、それは元就が手を出したことによって遮られた。



「成る程、お主は帝に忠誠を誓っておるのか。帝の敵は全て潰すつもりか?」


元就からすれば目の前の義照はそこまで恐怖に思わなかった。

まだ、恐ろしい者を知っており見ているからだ。


(まるで鏡山城攻略の時の経久殿の様じゃな。裏切り者は徹底して始末する。あの方はそんな方じゃった。・・・言われてみればこの者(義照)も似たような噂を聞いたな...)


「・・・ふぅ、失礼。頭に血が昇ってしまいました。少なくとも、脅かす者はですね。三好にしてもそうです。帝の居わす御所を包囲するなど決して許すことなど出来ませぬ。まぁ、水軍がいないので手が出せませんがね。毛利家には日ノ本最強の水軍が居て羨ましい」


俺が言うと元就より隆景の方が反応が早かった。

たぶん、水軍を管理しているからだろう。


「そうだな。村上殿と同じ名を持つ一族が率いておる。堺におるが会ってみるか? 」


元就の意外な提案は個人的に心が踊った。なんたってあの村上水軍を見れるからだ。


「なんと!宜しいのですか!村上水軍は是非とも見てみたいです。では、直ぐに行きましょうか」


俺がそう言って立ち上がるとその場に居た者達は「え?今から?」といった反応をしていた。


「いや、村上様、今出られては途中で夜に..」


「分かりました。鵜飼様にお知らせします。夜営の用意も行います」


隆景が言い終わる前に、景持が遮り用意をすると言った。


景持からすると(また殿の無茶振りか・・・)と慣れてしまっていたのだ。


「陸奥守様(元就)、こちらは夜営の用意をして向かいますが、殿(義照)と共に向かわれるのでしたら一緒に用意しますが如何されますか?」


景持は元就に一緒に野宿するなら用意するがどうするか訪ね、元就は少し悩んだ後、見てみたいと思い一緒に向かうことにするのだった。





その頃、数名の男達が廃れた寺に集まっていた。


「おい、その情報は間違いないんだな?」


「あぁ、間違いない。毛利元就と小早川隆景が京にいる」


「叔父上!まさに元就を殺る好機です!」


「立原殿、鹿之助の言う通りです。京の寺にいた孫四郎様(史実の尼子勝久)も毛利に連れて行かれ、尼子家再興は最早不可能です」


「庵助の言うとおりです。元就を討ち果たし毛利に尼子家臣団の意地を見せつけましょうぞ!」


集まった男達は一人の男に詰めよった。

男の名前は立原久綱、元尼子家家臣で尼子家再興を夢見て集まった男達を取り纏めていた。


しかし、全て毛利家に先を越され、旗頭にする筈だった東福寺の尼子孫四郎を奪われ、夢は潰えたのであった。


そんな中、毛利元就が京に来ていると聞き、集まっている男達は全ての元凶である元就を道連れにと復讐に燃えた。


立原自身は元就に誘われたが仕官を断り隠棲していた。しかし、追放された目の前の男達がやって来て、尼子を再興するから手を貸してくれと言われ、無駄だと説得しようとしたが無理だと分かり仕方なく取り纏めをしていた。


「皆、死は免れぬぞ!それでもというなら...元就を地獄に連れて行き、皆で晴久様に御詫びをしに行くぞ」


「「「おおぉぉぉぉ~!!」」」」


男達は決死の覚悟を決め、急ぎ襲撃の準備を始めた。

立原も、止められなかった自身が悪いと思い、一緒に死ぬことにしたのだった。




その日の夜。


俺(義照)は元就と共に天幕に入っていた。

「これは確かに良いな。しかも、思ったよりも明るいな」


「まだ、試作段階の物ですがね。明の北の遊牧民とか言う者達が使っているそうです。大抵の風雨には耐えれますし万が一の時は本陣になります」


俺が作ったのはモンゴルのゲルもどきだ。

ぶっちゃけ、組み立てに時間が掛かってしまうが完成したらそれなりに快適だ。

前回の難民キャンプ(一向衆門徒)の時には大いに役立った。

一部ではそのまま住居として使ってるそうだ。


「さて、この場にはワシとお主しかおらぬ。隠し事は無しじゃ。村上殿、そなた天下を狙ってはおらぬな?一体何を考えておる?」


「天下統一など面倒なだけです。北は陸奥、南は薩摩まである。これらを治めるなど時間が足りませんし、私は戦などせず領民達とのんびりしたいのですがね。毛利殿も似たようなものではないのですか?」


俺が答え、元就に訪ねた。尼子、大内を喰らった毛利家なら天下を狙えるのは間違いなかった。


「毛利は元々小さな国人領主でしかなかった。生き残るために必死に足掻いたらいつの間にか大国になり、今まで従っていた大内家や尼子家をも支配した。その為、毛利に対する怨みや妬みもある。隆元が襲われたしのぉ。ワシもお主と同じじゃ。戦を忘れ領民達とワイワイ騒ぎながらでもゆっくり過ごしたいものじゃ」


元就は話しながらも昔のことを思い出していた。一領主で領民と良く交流し互いに支えあって暮らしていた時のことを...。



「そうですか。では、毛利家は隆元殿次第と・・・何やら騒がしいな?」

俺達が話をしていたが外が騒がしくなった。

そんな時、孫六と小早川隆景がやって来た。


「殿(義照)、襲撃に御座います!」


「父上(元就)ご無事ですか!!」


「孫六、敵正体は?」


「不明!」


「人数」


「およそ三百人程、護衛についていた、二番組、三番組と毛利勢が応戦中に御座います。指示を..」


両家あわせて二千はいるが街道で伸びて夜営しており、ここの護衛は八百人程だった。


「毛利勢も応戦しているなら、四番組は他に野宿していた者達を避難誘導させ、直属(孫六の)の一番組はこのまま護衛、敵を抜かせるな!」


「ははっ!」「失礼する!大殿(元就)、襲撃してきたのは尼子の残党です!」


天幕にやって来た毛利家臣が敵の正体を報告してくれた。俺達は巻き添えを受けたようだ。

騒ぎの声がここまで聞こえて来た。


天幕から出て状況を確認した。どうやら、既に天幕の近くまで敵が抜けたようだ。


「居たぞ!元就だ!!」


「刺し違えてでも殺せー!!」


「殿をお守りしろー!!」

血気盛んな襲撃者が一斉に向かってきた。孫六達や隆景が連れてきた毛利兵が応戦したが数人に抜けらる。


「元就覚悟~!!!」


「父上(元就)!!!」

抜け出した襲撃者を孫六や隆景が相手をしたが一人の男が元就目掛けて槍を突き出したが、届くことはなかった。


「「え?」」


男と元就達は目を疑った。男はいつの間にか手に持っていた槍が離れており、組伏せられていた。


「へぇー良くもまぁ~この数を抜けて来たな。暫く寝てろ」


「ぐへっ!」

俺は組伏せた男を気絶させその場に放置する。



「さてと...聞けー!!今降伏すれば命までは取らぬ!拒否するなら全員ぶち殺す!!」


俺が叫ぶと、襲ってきた者達の動きが悪くなり、少しすると半分は武器を捨て降伏した。


孫六達は降伏した者は捕縛し、抵抗した者は皆殺しにした。


そして、降伏した者達は俺と元就の前に並べられた。といっても十数人しか居ない。



「さて、襲撃の理由を聞こうか? 」


「そんなの決まっている!!尼子家再興を絶たれた故、元就を殺し亡き先代様に詫びるためだ!この縄を解け!元就の首を寄越せ!!」


「我等は主である尼子義久様が降伏された後、共に付き従おうとしましたが、そこの元就様に拒否され追放されました。尼子家に忠義を尽くしてきた我等はなんとしてでも尼子家の再興をしようと京にいた孫四郎様の元に行きましたが、毛利家に先を越され孫四郎様を連れ去られており、尼子再興の望みは完全に絶たれました。ならば最後に死して一矢報いようとし、此度襲撃致しました」


ギャーギャー騒ぐ幸盛の横で立原久綱がゆっくり落ち着いて説明してくれる。


ちなみに、あの乱戦を乗り越えて槍を突こうとし組伏せられたのは山中幸盛・・尼子の麒麟児にして七難八苦で有名な山中鹿之助である。


「まぁー要するに領地も何もかも奪われ追放され、仕官も出来なかったから腹いせに襲撃したと言ったところか...アホか」


俺が言うと繋がれている者達が一斉に怒鳴り声を挙げ罵ってきた。

立原は下を向いたので半分図星だったのだろう。

他の者もそうなのだろうが当てられて反論出来ないから騒ぐのだろうな。



「立原と言ったな。領地ではなく銭払いで良いならうちに来るか?功績を立てたり役職に付けば貰える銭が増えるか領地を得られるぞ。どうだ?」


「村上殿、立原はワシが二千貫で誘ったが断り隠棲すると言ったのじゃ。まさか、この様なことをするとは思わなかったがのぉ~」


元就が立原をそこまでの評価をしているのに驚いた。しかも立原はそれを蹴っていると言うからだ。


「元就様、私は隠棲しようとしたのは誠で御座います。その為、貴方様の誘いを断り京で過ごしておりました。ですが、尼子家臣として共に戦った者達に協力を求められ、私には止める術が御座いませんでした。この様なことをしては義久様の身を危うくするだけなのは分かっていました。ですが最早止めることが出来ぬのなら共に死のうと此度は参りました。ですので、村上様のお誘いを受ける訳には参りません」


(勿体無い・・・本当に勿体無い。幸盛なんかより欲しいな...)


俺は正直、最初は有名な鹿之助を家臣に出来ないかなと思っていたが、山中より立原の方が欲しくなった。


「そうか...残念だ。元就殿、まだ立原を召し抱える気はありますか?」


俺は元就に聞くと条件は変わるがあると言うので提案した。


隆景は反対したが、元就と立原は承諾し立原は元就の直臣となった。

そして、行き場が無くて襲撃した者達は毛利が手に負えない者を除き、立原の家臣として召し抱えることになるのだった。

毛利が手に負えない者達は俺が預かることで決まり、最後までギャーギャー騒いでいた山中幸盛だけうちに来ることになるのだった。


(吠えるしか脳が無いこいつ(幸盛)はいらないな。・・・馬鹿兄にあげるか...)


俺は一人幸盛の処遇をどうするか決めた。夜明けになって負傷者を残して堺に入り村上水軍を見るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あらやだ、脳筋枠が増えちゃったw 脳筋に対して更なる上位脳筋をぶつけたらどうなるのか楽しみですw
[一言] 馬鹿兄に貰われた時点で 使い潰されて七難八苦どころじゃ済まなそう この先生きのこれるか
[良い点] 脳筋はアニキに押し付けようは草。でも出奔しそうですねえ
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