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戦国生存記  作者: 現実逃避
11/180

11、初陣

天文十年(1541年)六月


「進め!!松尾城さえ攻め落とせば小県郡は我のものぞ!!」


父の叱咤激励で兵士達が総攻めを行っている。

三家で決めた同時進攻のお陰で松尾城の兵の数はかなり少なく、多くて四百人程度だそうだ。

ただ、やはり情報が流れていたのか、籠城の準備をしていたようだ。


既に五月に海野平で勝利をしている。その為、敵は籠城しか出来ないのだ。しかし既に一週間耐えている。

結局この日も耐えきったのだった。


ドン!!

義清は怒りが爆発し机を思いっきり叩いたのだ。


「こちらは三千、敵は四百程度しか居らぬのに何故誰も落とせぬのだ!」


「敵の反撃は未だ激しく門を打ち破れません」


「折角義照様が海野平の戦で見事な初陣をなされたと言うのに………」


全員の視線が俺に集まった。海野平の戦いが俺の初陣だったが、昌祐と昌豊が大活躍したのだった。


時を遡り、

天文十年(1541年)五月

海野平


「こちらは諏訪、武田入れて九千、敵は五千、楽勝だな」


義清は圧倒的な兵力差に余裕だと思っていた。

武田軍四千、村上軍三千、諏訪軍二千だったからだ。


「これで小県郡は我らの物のようなものですな!」

重臣達も皆余裕だと言っているが俺は不安だった。余裕があり過ぎると緊張は途切れ警戒が散漫になる。もし奇襲でもされたらと思っていた。


法螺貝が鳴り響き、戦が始まった。

先鋒は武田が務めていたがなんなく敵を撃破していく。しかし、ある程度したら、そんなに攻めることはしなくなり、兵を進ませなくなっていた。

明らかに、兵の消耗を避けたいのが分かった。

こうなると両翼の俺達村上と諏訪だけが前に出る形となっていったので敵は両翼に集中し始めた。

そうなれば兵力は拮抗してしまう。


「武田め!兵を失いたくないからと手を抜きよって!」


父は激怒し周りの家臣も同じように怒っている。

黙っているのは兄義利と俺だけだ。

まぁ、兄上は批判が出来ないだけだろう。


「はぁ……。父上、手勢を率いて前線の援軍に向かいます。ごめん!」


俺はいるだけ疲れるので本陣を出た。父が何か言っていたが、聞かなかったことにする。



「昌祐!昌豊!出陣するぞ!」


「え!若が出陣ですか!」

昌豊は驚き聞き返してきた。


「本陣は武田に対して怒りばかり言っておって疲れたから前線を助け、さっさと終わらせるぞ」

それを聞いた二人は何も言えなかった。


「昌祐!騎馬隊は問題無いな?」


「はっ!皆鍛練に励みましたので問題ありません!」


それを聞いて俺は安心した。正直常備兵を戦に出すのも今回初めてだからだ。


「騎馬は貴重だ。出来るだけ一頭も失うな。練習通り一撃離脱を繰り返せ!」


「ははぁ!」


「昌豊!槍隊二百名は槍衾を組み、昌祐によって混乱させられた敵に突撃する。問題はあるか?」


「ございません!いつでも行けます!」


「では!旗を上げい!」

俺がそう言うと旗が立てられた。村上家の旗とは別で俺の旗だ。

旗には大一大万大吉と書いてある。あの石田三成が掲げていた文字だ。


意味はこれは、万人が一人のために、一人が万人のために尽くせば、政治や国はみんなが大吉(幸せ)になるとあるので、俺が目指している領地の在り方を示していたのでこれにした。

まぁ、天下は無理でも、村上の領地は何処よりも豊かにしたいとは思っている。


「皆聞け!これより我は出陣する!周りから穀潰しだ無駄遣いだと言われたお前達の力を見せてやれ!」


「「おおおぉぉぉぉ!!」」


常備兵に関しては結構影でこそこそ言われていた。その為、彼らを見る目もかなり酷く見られていた。だが、それも今日までだと全員がやる気になり、覚悟も違った。


「全員出陣!昌祐!行け!」


「ははぁ!!騎馬隊我に続け~!」

騎馬隊百人が一気に駆け抜けていった。全員槍ではなく弓矢しか持っていない。しかも全員和弓ではなく小弓のような小さい弓だ。


敵の側面に出ると騎馬隊全員が弓を引く。しかし、敵はそれを無視して前のみ見ている。

それもそのはず。遠過ぎるし、そもそも短弓の威力で人を殺すことなどほとんど無理だからだ。


「放て!! 」

昌祐の、号令で全員が一斉に矢を放ち、側面が一気に崩れた。何人も死んでいるからだ。

昌祐はどんどん矢を放ち敵は慌てだし崩れだした。

短弓の、正体は合成弓だ。

「さぁ~騎馬隊が崩したぞ!!皆突っ込め!!」

昌豊が大声を上げて槍隊が前線の敵へ突っ込んだ。

信長の考えた三間半の長槍を使っているため、敵の槍は届かずこちらが一方的に敵を叩いている。


敵は隊列が崩れているところに今回の長槍による突撃で完全に崩壊していた。

それを見逃す程、父の家臣、杵渕国季きねぶちくにすえは甘くはないので一気に前戦を押し上げ敵を葬っていった。


俺達の方にいた敵は遂に総崩れとなった。こちらが総崩れになると諏訪側の敵も引き始めた。


「昌祐!深追いし過ぎるな!ある程度したら下がれ!!」


追撃している昌祐に大声で指示をした。杵渕と共に敵を深くまで追いかけていたからだ。

昌祐は騎馬隊を反転して戻ってきた。


「若、よろしいのですか?折角の初陣なのですぞ?」


「これ以上はいいだろう。下手に追いかけて無傷の軍を失いたくないしな。それにこの後城攻めになるだろうし、追撃は杵渕殿達に任せて帰るとしよう。それに………父上に何言われるか分からないし………」


俺が言うと二人も察したらしく、やばそうに思えたのだった。

なんせ、一言いったとしても、勝手に出陣しているからだ。


「若、頑張って下さい」


「私達は兵達の確認などもしないと行けませんのでお一人ですがお気をつけて」


俺は二人に見捨てられたのだった。

渋々、本陣に戻るとまず、激怒された。初陣で勝手に軍を動かしたことだ。


その後は、騎馬隊で敵陣を混乱させ、槍隊で見事に討ち取っていったことを誉められた。


ついでに、父から昌祐と昌豊に褒美が渡されることになった。


と言っても領地ではなく金だ。

俺のところ以外では褒美として神水酒(清酒)が渡されることがあるらしいが、俺のところは製造元だし、いつでも飲めるので褒美にはならなかった。その為に金になるのだった。


海野平で勝利し、村上、武田、諏訪の合同の本陣が設けられたがここで騒動が起こった。


「それでは約束が違うではないか!!」

父義清は怒りのあまり立ち上がった。

何があったかと言うと、武田信虎が南小県郡を諏訪にと言ってきたのだった。


「何を言うておる?これは前から決まっておったことではないか?のぉ、婿(頼重)殿?」


「………ははぁ、確かにそうです………」

信虎は頼重に尋ね頼重も頷いた。しかしその顔は何か怯えているようだった。共にいる諏訪の家臣達もそうだ。


「ふざけるな!我らには何も知らせず勝手に決めるなど!」

父や重臣達が猛反発するが、信虎は何処吹く風だ。こんな状況なのに武田重臣達は落ち着いていた。しかし、そのうち数人は苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めていた。


特に使者として来ていた飯富虎昌は手が震えており血が滴り落ちていた。余程我慢しているようだった。


「こんなの同盟でもなんでもないわ!破棄させてもらう!!」


父がそう言い本陣を出ようとすると武田の兵士達が囲んだ。というか最初から仕組まれたことだったようだ。


「どうもワシは耳が遠くなったかのぉ?よく聞こえんかったが………」


「信虎~!!!」


信虎の挑発に父は激昂する。重臣達も同じだ。兄上も流石に今回のことは知らなかったようで驚いていた。


「父上、多勢に無勢、今回は引きましょう………」

俺は激昂している父 (義清)にいい、信虎達の方を向いた。


「武田様、諏訪様、今回の件、他に決め事がないのなら承知しました。南小県郡は諏訪の物としましょう。これ以上、ここにおれば刀傷沙汰になりかねないので私達は帰らせていただきます。この後は我らは小県郡中央を諏訪様は南小県郡を、武田様は佐久郡と言うことでよろしいでしょか?」


俺が確認のために聞くと信虎は勝ったと思ったのかにやけていた。


「お主が今言うた通りで良い。それと………お主が人質として残れ」


信虎は俺を人質にと言ってきたので、俺も内心ぶちギレた。


「御断りいたします。貴方(信虎)の首と引き換えなら考えますが、まだやることがあるのでこれにて失礼します」


俺は営業スマイルの顔で言って父達より先に陣を出ようとすると囲んでいた兵士が槍を向けてきたので容赦なく投げ飛ばし他の兵士にぶつけた。


それを見て何人か槍を構えて突っ込んで来たのでその者達も全員倒し何人かは肩を外したので悶絶していた。


周りから見たら始めの一人以外は俺に触れただけで倒されているように見えただろう。


「父上、兄上、何されてるんですか?戻りますよ」

呆気に取られている全員を置いて護衛の昌豊だけ付いて本陣を出た。


父義清達も我に帰り急ぎ陣を出た。

ふと後ろを振り返ったが中には顔を真っ赤にし何か喚いている信虎を重臣達が押さえているのが見えるのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 槍持ちの本陣護衛を担うレベルの人間に無双できる武術って何だろう。
[一言] そもそも主人公からしたら武田との同盟なんて信用ゼロだし裏切られる事が前提だろう。 武田なんて信用する方が悪いといっていいほど信用ゼロの大名だし。 これは信虎だからじゃなく晴信になってもある意…
[一言] 囲んでそのまま謀殺してないあたり有情ですね。 乱心したので撫で斬りとしないなんて優しい!
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