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お兄ちゃんの飛行機は真っ直ぐ僕に向かって飛んで来た

作者: おてもとおひや

いろんな事を忘れてしまっているけど不思議と何年経っても忘れない瞬間がいくつかある。

それは何故その瞬間なのか分からないくらい何でもない出来事だったりする。


小学生の時に住んでいた青い屋根の古びた家は玄関を出ると目の前に大きな夏みかんの木とイチヂクの木があった。


二本の木を横切ると深く茂る緑に覆われた小道に出る。

少しヒビの入ったコンクリートの小道は数メートル先の青いペンキで雑に塗られた鉄の門扉へと続いていた。


その小道は僕の家と週に一度くらいお菓子をくれる老夫婦の家とクラッシック音楽が大好きな大家さんの家の三軒のみが共有している私道で滅多に人は通らない。


数メートル先の青い門扉の前に立ったお兄ちゃんは蝉の声に包まれながら真面目な顔をして飛行機の翼の角度を微調整している。


お兄ちゃんが昨夜遅くまでかけて、何枚かの画用紙を切り貼りして学習机の上で作った飛行機は、真っ白で美しい翼を持ち先っぽに付けたクリップは夏の日差しを受けて少し輝いていた。


微調整が終わるとお兄ちゃんは「行くぞ」と言うと僕に向かってその飛行機をゆっくりと投げた。


真っ白な飛行機はまっすぐに僕へと向かって飛んでくる。

飛行機の後ろには真剣に見守るお兄ちゃんが居る。


大家さんの家から微かに「モルダウの流れ」が聴こえてくる。


飛行機は僕に向かって真っ直ぐに少しも曲がる事なくどんどん近づいてくる。

お兄ちゃんの目も真っ直ぐに飛行機と僕とを見つめている。


真っ白な飛行機があまりに真っ直ぐに向かってくるものだから僕は少し戸惑いつつも両手を大きく伸ばして受け止めようとする。


大成功を確信したお兄ちゃんは嬉しそうに微笑みながら僕に向かって駆け寄って来る。


そこで画面は白黒になり薄ぼけて消えて行く。


そしてまたカルピスをやっと飲み終えた僕は古びた家の玄関を勢いよく開け夏みかんとイチヂクの木を横切りお兄ちゃんの居る小道へと駆けって行く。


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