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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
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新たな研究を

 王城の総合魔法研究部門で部長を務めるクリストフは、白髪が増えてきた頭を抱えながら俯き、大きく溜息をついた。


 今日は国民の6歳児が対象になる全国魔力検査の日。人は生後から平均5年の間に魔法能力が決定付けられる、と言う研究結果を元に設定されている。誕生祭のように祭りとして昇華されてはいないが、この検査結果は子供の将来を考えるための重要な指針となる。


 王都で行われる魔力検査は貴族と平民で別れ、貴族は王城に、平民は冒険者ギルドに集まる。

 検査の内容は2種類あり、瞬間的な魔力の放出量を数値化する測定試験と、4つの動く標的に魔法を行使する技能試験。

 王城では、クリストフが所属する総合魔法研究部門、略して総魔研、がこれらの検査を担当する。


 毎年クリストフも検査会場へ赴いていたが、今年は部下達に任せ、自分の研究室に引きこもっている。


 クリストフは去年まで魔力検査の日が楽しみだった。

 数年置きに更新される測定数値に感心し、偶に現れる突出した技能に驚かされる。そんな子供達に引っ張られる様に、自分も切磋琢磨する。クリストフは新年祭よりも、この日から1年が始まると感じていた。


 だが、今年は憂鬱な日だった。


 原因は正室である王妃と側室である第2妃の確執。


 クリストフが魔法を教えていた、王妃の息子であり国王の第1子、キーファー王子が去年6歳となり検査に参加した。

 魔力量は、それまでの測定数値を大きく上回って見せた。4つの火球を同時に出現させて発射し4つの標的を同時に破壊する技術を見せた。この時は披露しなかったが土魔法は充分に、風魔法も僅かだが使用できるはずだ。

 検査で最も優秀な成績を残した子は表彰される。去年は勿論キーファー王子だ。クリストフを含め多くの貴族がこの結果に喜び、王国の将来は安泰だと噂した。


 それを面白く思わなかった第2妃の派閥。

 クリストフを強引に、第2妃の息子であり国王の第2子、バンブス王子の教師とし、キーファー王子を超えるようクリストフに厳命した。


 クリストフは頑張った。1年間バンブス王子と訓練をした。年齢的にまだ早いと思ってキーファー王子には教えなかったことまで、教えようとした。努力次第では兄を抜ける才能はある、とクリストフは思っていたから。


 しかし、バンブス王子は怠惰だった。よく訓練を抜け出した。魔法に興味がないのか、才能に胡座をかいていたのかもしれない。最終的にはクリストフの言葉に耳を貸さなくなり、母親に嘘の報告をする様になった。最近のクリストフは針の筵だった。


 反面、キーファー王子は真面目で、素直だった。子供らしさは無かったが、クリストフの意見をよく聞き実行した。魔法に対する興味が、バンブス王子とは違っていた。

 クリストフも教えていて楽しかった。その年はあっという間に過ぎ去ったが、今年の歩みは遅く感じた。


 しかし検査の日はやってくる。

 前日には第2妃に呼び出され、結果次第で城に居られなくなる、と言われた。その日はお酒が止まらなかった。

 なんとか出勤時刻に登城はしたが、朝から体調が悪いと部下達に伝え、研究室に引きこもった。部下達も理由は分かっているから、快く引き受けてくれている。


 頭痛が治って来た頃、部下の1人が報告に来た。


「魔力測定用の魔道具が故障し動作停止しました。技師が整備を行っていますが時間がかかりそうなので、旧式魔道具の使用許可を頂きに参りました」


 故障した魔道具は、キーファー王子の成績を元に改良されて作られた物だ。去年まで使っていた旧式の方では、キーファー王子を上回る数値に対応できなくなりそうだったため作られた。1年間で動作試験もしっかりやって、問題なかった筈だ。


 クリストフは首をかしげた。

 故障は魔道具自身の問題か。そうでないなら、供給する魔力量が多すぎたか。キーファー王子よりも?そんな馬鹿な。


「旧式を持って行っていいが、大人用の魔道具も用意しておけ。念のため冒険者ギルドの方に、魔道具を貸してもらう手続きを進めておくんだ」


「大人用の魔道具は魔石を多く使うため、予算を超えてしまいますが」


「起動はしなくていいから用意だけしておけ。旧式でもダメだった場合の保険だ。それから、故障した時に使っていた子の順番は最後に回そう。念のためだ。それで、故障した時の子を君は知っているかい?」


 バンブス王子だったら良いなと、クリストフは思って尋ねた。


「自分は遠目で見ていましたが、少女でした。名は知りません」


 違った。


「ではその少女へ、一気に力を込めるのではなく徐々に上げるように、と伝えなさい。一応、念のために」


 部下の退室を促したクリストフは考えていた。

 もし、魔力量が大きすぎて故障した場合、その少女が原因と言うことになるが、誰だろう。

 その子がバンブス王子を超えてしまった場合、自分はどうなるのだろうか。

 いくら考えても答えは出ない。見学に行こうかとも思ったが、第2妃と鉢合わせるのが嫌だ。

 さっきに部下に、バンブス王子が終わったかどうか確認しておけば良かった、とクリストフは少し後悔した。

 もう少し結果を待とう。いつのまにか立ち上がっていたクリストフは、椅子に深く腰掛けた。




 すっかり酔いが覚めて体調が良くなり、読書をして過ごすクリストフの下に、先程の部下が駆け込んできた。


「部長、すごい結果が出ました。先程の少女がキーファー王子の記録を更新して、歴代最高です。大人にも負けない魔力量でした」


 部下の熱が凄い。故障を報告に来た時の部下とは別人の様だ。


「結局、大人用の魔道具を使用したのかね」


「はい。最後に回った少女に徐々に力を加えるよう指示を出して旧式で測定しましたが、測定限界を超えたところで故障してしまいました。故障は魔力量が大きいためだという部長の考えに皆納得し、大人用を使用しました。ただ確認のため、2回起動させました」


 2回だと完全に予算は超えた。新型の製造費として多めに予算を取っていた総魔研に、追加予算は出ない。

 クリストフはバンブス王子のことを聞いてみた。


「バンブス王子は1番が良いと仰ったため、午前中に検査は終わっています。キーファー王子を超えられず、です。第2妃派閥の子らの検査も終わって見学も居ません。それよりこれから少女の技能試験です。一緒に兵士訓練場へ行きましょう」


 塞ぎ込んでいるクリストフを元気づけるように燥ぐ部下。

 それほどの魔力があるなら技能試験を見てみたい、とクリストフも思い部屋を出た。気付いた時には駆け足になっていた。




 少女の技能試験は、単純に凄かった。

 4つの動く標的に魔法を当てる試験だが、多くの子は1つずつ狙いを定める。余裕がある子は速射したり、同時に複数狙ったり、様々な魔法を行使する。この検査には技術点に芸術点が加算されるため、色々考えて来る。去年のキーファー王子は4つを火魔法で同時に破壊した。バンブス王子は火と土魔法を交互に速射し的を狙った。どちらもその年齢では優秀であった。

 しかし少女は、火、土、風、水の4属性を同時に発動させ、同時に標的を襲った。土は鈍く輝いて見えたため、金属魔法へと昇華させていたかも知れない。魔法を球状に形成した後、それぞれを動物の形に変形させて行ったのも見事だった。火は鳥に、水は亀に、土は虎に見えた。風は見え辛いためどうなっていたか分からないが、風切音に習熟を感じた。

 この歳でここまでやれるのか。自分の時はどうだっただろうかとクリストフは思う。


 感心しているクリストフと離れたところで、我が子がやってくれました、と騒ぐ男性がいた。クリストフの部下では無いが、顔見知りである。お祝いを伝えにいき、あまり騒いで第2妃派に目をつけられないように、とクリストフは伝えておいた。


 大人でも難しい技能をやって見せた少女が、その年で1番だったと翌日発表された。

 検査を見ていた研究者達により、魔道具における魔石使用効率の改善について、4属性を習得する平均年齢、属性の違いにより作りやすい動物、自動追尾の実践、魔法と精霊の関係、と言った論文が作成され国内外で話題となった。クリストフも少し助言をしている。


 そのクリストフは、後日行われた慰労会に参加した後、辞職した。

 慰労会は検査を受けた子やその家族が参加して行われ、その年に1番となった者はそこで表彰される。

 両親と弟を連れて出席していた少女には多くの人が群がった。クリストフも簡単に挨拶したが、元気で明るい子、と言う印象だった。

 そんな中、少女に嫌がらせをしようとしているバンブス王子と取り巻き達をクリストフは見つけた。注意しようかと戸惑っていると、気付いた少女に軽くあしらわれて王子達は逃げて行った。

 自分の記録を抜かれたキーファー王子は、特に不満を表すこと無く、気持ちよく少女に対応していたと言うのに。

 第2妃派の嫌がらせに疲れ、バンブス王子の姿に愛想を尽かしたクリストフは、仕事を辞める決心をした。新たな研究を思い付いたことも退職する一因にある。

 国王や王妃、キーファー王子から慰留されたが固辞し、クリストフは地元に帰って行った。


 クリストフは現在、少女の記憶を思い出しながら、近所の子供達に魔法を教えている。

 少女を超える才能には、まだ出会っていない。




 人々の記憶は薄れていくが、媒体を介して記録は残る。

 その年、王国史に初めて、アレクサンドラ・フリーグの名が刻まれた。

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