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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
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植物学者の挑発

 パスカルは少々浮かれていた。


 ついに男爵家の薬草畑を拝める日が来たからだ。


 王城に召集され、国王からエルフ族のエステルの事を頼むと言われた5月から約10か月。


 パスカルはなるべくエステルと仲良くなるように努めた。


 授業以外でも暇を見つけてはエステルに話しかけた。

 小煩い老人だと思われないかハラハラしたが、何とか悪感情を持たれることなく日々を過ごせた。


 秋が深まって来たある日、授業終わりにエステルを呼び寄せ、家宝にしていた本を見せた。

 授業では話さない植物が多く載った本だから、パスカルは少しだけ自慢したかった。


「ああ、この本は村にも有りますよ。良い本ですよね」


 エステルはこの本の存在を知っていた。

 パスカルは自慢げにしていた自分を恥じたが、この本に載っている薬草について話すことで更にエステルと仲良くなれた。


 そして年が明けて3月。

 日が暮れかけている学校に残って残業していたパスカルは、同僚のライナーが学生の女の子に絡まれている現場を目撃した。


 絡んでいる女の子は男爵家の娘、アレクサンドラ。

 エステルと特に仲の良い女の子で、エステルを通じてパスカルとも良く話をしてた。

 偶に突拍子も無い事を口にする子だが、頭は悪くないし、高い決断力と行動力をパスカルは何よりも評価していた。

 しかし、興味の無い事に関しては凄まじく手を抜く傾向にある為、教師陣の評価は真っ二つに分かれている。

 パスカルの授業中でもアレクサンドラはよく寝ていることが多いため、授業だけでの評価を言うとパスカルもアレクサンドラの評価は高くなかった。


「おや、ライナー君にアレクサンドラ君。もうとっくに下校の時間は過ぎておるのにどうしたんじゃ。特にアレクサンドラ君はいつもはすぐに飛んで帰ると言うのに」


 笑顔で声を掛けたパスカルに、アレクサンドラは笑顔で返し、ライナーは舌打ちで対応した。


 ライナーの様子を見ても、パスカルは態度を変えなかった。

 いつもの事だ。

 パスカルより1つ年下のライナーだが、教師歴はパスカルより長い。

 パスカルが衛生兵として各地を転任している時から、ライナーは学校で魔法の研究をしていた。

 噂では次期学校長の座を常に狙っているライナーが勝手にパスカルを好敵手認定しているそうだが、パスカルは常日頃から学校長になるつもりは無いと公言している。

 それにライナーが何年も学校長に任命されないのはその少しだけ傲慢な性格の為だとパスカルは考えていた。


「闇魔法についてライナー先生に話を聞きたかったんだけど、忙しいからって断られちゃって。無理矢理連れて行こうとしたら更に怒られちゃって」


 それはライナーじゃなくても怒る。

 しかしアレクサンドラが無茶な行動をしている時はきっと何か面白い事が有ると感じたパスカルは、アレクサンドラに手を貸すことにした。


「もう少し詳しく話してみなさい。そうしたらライナー君も手を貸す気になるかもしれんじゃろ?」


 優しく諭すように話したパスカルに対して、アレクサンドラは少し困惑して言葉を返す。


「え~っと、闇魔法が使われてるかもしれないから、ライナー先生に闇魔法かどうか判別して欲しいんです」


「誰が誰に闇魔法を使っているんですか?」


「誰がは解らないけど、誰には話していいのか分からない。ちょっとアンナを呼んでくる」


 唐突に走り出して行ってしまったアレクサンドラを見送ったパスカルは、逃げ出そうとしていたライナーの腕をがしっと捕まえた。


「闇魔法じゃよ。なかなか子供からは聞かない言葉じゃ。ライナー君は興味が無いのかね?」


「興味は無い。もう何十年も闇魔法については研究してきた。そう簡単に闇魔法が目の前に現れてたまるか」


「まあまあ。そう言いたい気持ちも解るが、アレクサンドラ君の家は今新しい事をどんどん取り入れている男爵家じゃぞ。もしかしたら本当に、長年追い求めてきた闇魔法に出会えるかもしれんぞ」


 鑑定など出来んと言い腕を振りほどいて逃げようとするライナーの説得を続けていると、アレクサンドラがエステルとアンナを連れて来た。アレクサンドラ達の送迎を担当しているというアンナとはパスカルも面識が有った。


「これから話す事はここだけの話に留めておいてください。南方伯夫人の体調がここしばらくの間芳しくなく、男爵家の知り合いである優秀な医者を派遣しました。その医者の話では薬で治るような病気では無く、精神的な物か、呪術の可能性が有るとの事でした。アリー様がライナー先生の授業で闇魔法の、呪術の話を聞いたそうなので、ライナー先生に見て頂けたら何か事態が改善するかと思い、学校に戻ってきました。是非男爵家の村までお越し頂いて、闇魔法の鑑定をお願いします」


「なるほど、そうじゃったか。しかしライナー君は村へは行かないそうじゃ。魔法学の教師を長年務めておるが、闇魔法に関しては全く自信が無いようじゃな。他の人を頼った方がええぞ」


「誰が自信が無いと言った。今は出来ないと言ったんだ。明日古文書と魔導具を用意して来るから、調べに行くなら明日の夕方だ」


 挑発に乗ったライナーを見てしめしめとほくそ笑みながら、パスカルも明日、一緒に村へ行こうと考えていた。

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