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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
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診療所の往診

 今日はニコル先生と一緒に貴族の屋敷に往診をします。往診する日もあれば無い日もあります。


 お昼の時間、患者さんの列が途切れた時を狙って外に出ます。ニコル先生が居ない間、診療所は基本的に休憩時間です。私は今日の午後早退するのでニコル先生について行きます。お昼休みは帰って来た後に少しだけ。


 往診はニコル先生が助産を担当する出産間近の妊婦さん、または出産直後の家を訪問します。

 今回は5家庭の訪問です。貴族の家が3か所と王都民の家が2か所。先ずは近場の王都民の家からです。


「うん、体温も平熱だね。何処か体が痛くなったり、急に食欲が出たり、出血したりすることは無いね」


 ニコル先生が手早く問診や触診を進めた結果を、私は記録用紙に記入していきます。書記も立派な仕事です。数値などを間違って記入していると、後で見返した時に判断を間違えてしまいますからね。


 よし、記入完了です。一昨日の往診時と比べても特に変化は無いようですね。出産はもう少し先でしょうか。


 診察が済むと次の家庭へと向かいます。診察を受けた家庭の皆さんがお茶やお菓子を勧めてくれることもあるのですが、ぐっと堪えて我慢です。ゆっくり食べていく時間は無いのですから。せめて手軽に持ち帰れる物だと助かります。


 次のお家は3日前に出産したばかりの家庭です。私は妊娠中の姿しか知らないので赤ちゃんに会えるのを楽しみにしていました。


「う~ん、ちょっと熱があるようだね。あれほど体調管理はしっかりするように言ったのに。授乳中は薬を使えないんだからね」


 ああ、大変です。ニコル先生の説教が始まってしまいました。

 ニコルさんはとても優秀な先生なんですけど、自分に厳しく他人にも厳しい先生です。先生の言う事を聞かない患者さんには鉄拳制裁です。とおっ。


「ふざけてないで仕事する。とりあえず3日間の乳母の手配を。今晩から乳母を寄越すからね。子供への授乳と貴女の食事管理は乳母に任せて3日間はゆっくりしなさい」


 赤ちゃんの母親が病気になった時は乳母を雇います。母親に薬を飲ませて治療する間、母親のおっぱいを赤ちゃんが飲めないからです。

 乳母には、1か月以上前に出産して赤ちゃんの様子も落ち着いてきた母親が選ばれます。出産後暫くはなかなか元の仕事に戻れないため、短期間でも乳母は結構人気のある副業です。




 次は私が住む村の領主、男爵家への往診です。とても可愛い双子の赤ちゃんが居ます。

 2人とも元気そうですね。リリー様も特に体調不良は感じていないようです。


 しかし、この家の主である男爵がニコル先生を怒らせます。心配なのはわかりますが、診察内容にケチを付けるとそれは怒られますよ。まったく、毎回毎回ニコル先生を怒らせないで欲しいです。後で機嫌を取るこっちの身にもなって欲しいですよ。

 アリー様とゲオルグ様を育てた経験を活かして、もっとどっしりと構えておくことは出来ないんでしょうか。何回子育てをしても慣れないんだと男爵は言っていますが、そういうものでしょうか。私は子育て経験が無いので正直解りません。


 男爵家を出ると残りはあと2つの貴族家です。実は私、この2つの家に行くのが苦手です。というか男爵家以外の貴族邸に行くのは気苦労が絶えません。平民だと思ってバカにして、態度がきつい人がいるんですよね。時々本気でぶん殴ってやろうかと思いますよ、まったく。


「おい、儂の大事な娘が生む大事な孫なんだからな。もし無事に産まれなかったら許さんからな」


 あちゃ~、今日は最悪ですね。元侯爵だか何だか知りませんが、引退した爺は引っ込んでろって話ですよ。まあこの家は旦那さんも嫌な人ですけどね。


「何度も言いますが、御不満なら主治医を変えてもらって結構です。次の診察は5日後なので変更するならその日までにご連絡を。では今日はこれで失礼します」


 うんうん、ニコル先生も当然怒ってますね。しかしこちらから診察拒否を言い渡さないのはお金の為でしょうか。違約金を支払えなんて言われたら大変ですからね。


「ちょっと、ぶつぶつと独り言を言ってないで次に行くよ。あっちはもうすぐ出産予定だからね」


 はいはい、すぐに片付けます。次の家では妊婦さんだけが待っているといいんですけど。




「そうか、往診って大変なんだな。俺は例え仕事でも貴族の家に行くのは嫌だな」


「そんなこと言って、そのうちこの船にも男爵家以外の貴族が乗るかも知れないよ。その時になって慌てても誰も助けてくれないからね。今のうちに言葉遣いを直しておいた方が良いよ」


「良いんだよ、この仕事は黙って王都と村を往復するだけでいいんだから。貴族屋敷に入るよりは全然マシだろ」


「とか何とか言ってどうせ無駄話をして貴族様の機嫌を損ねるんだろ。くれぐれも口の利き方には気を付けるんだね」


「大丈夫大丈夫、俺は無口なほうだから。ね、先輩」




 船の後方で操船する魚人族の船頭は、この後輩が2時間ずっと黙っていた事は無いよなと思い返しつつ、曖昧な返事を返すだけに留めた。

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