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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
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団長の機転

 ヴァルター達は腹痛で苦しむ子供を抱え、男爵家の舟が置いてある船着場へ行くことを目標にした。手の空いている団員達を先行させ、エステルの居場所を確認させた。

 途中で診療所らしき場所に差し掛かった。団員の報告通り、外の通りまで診察を待つ人達で溢れていた。ヴァルター達の集団では腹痛を訴えているのは子供達だけだが、行列には老若男女問わず苦しんでいる人々の姿が見られた。ヴァルター達は立ち止まらずにその場を後にした。


 暫く進むと先行させた団員が戻って来た。どうやらこの先の道で男爵家の人々が集まっているらしい。当然エステルも其処に居る。これで漸く息子を助ける事が出来ると安堵したヴァルターが自然と足が速く動いた。




「はあ、はあ、ようやく見つけた。リオネラさん、く、薬を。息子が危ないんだ」


 ヴァルターは漸く合流できたリオネラに、抱いている息子の容体を見せて薬が欲しいと訴えた。

 たいした話も聞かずに事態を察したリオネラは、背負っていたリュックから取り出した粉薬を息子に手渡した。他の苦しんでいる子供達にも同じ薬を。

 リオネラの手際の良さにたいした疑問を持たずに息子の汗を拭いたり等して看病していると、次第に顔色が良くなり呼吸の様子も落ち着いてきた。


「ここに来る前に何カ所か診療所も見つけたが行列が出来ていた。何か変だぞ、この街」


 ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、ヴァルターはこの街で起こっている異変を男爵家の皆に話した。


 特に数カ所の診療所で行列が出来る程の患者が出ていることからヴァルターは毒が撒かれたのではないかと疑っていた。


「私が飲ませた薬は収斂作用がある薬草と軽度の解毒作用がある薬草を混ぜたものです。腹痛を引き起こす食あたりには効果がありますが、強烈な毒には無力です。アリーちゃん達が回復したことから、何処かの屋台で傷んだ食べ物を提供していたんじゃないでしょうか」


 ヴァルターが話した内容に、容体を回復させた薬の効果からエステルが意見した。その話しぶりからは腐った食べ物を故意では無く提供してしまった可能性も示唆される。

 ヴァルターは思い出せるかぎり、今日屋台で食べた料理を羅列した。別行動をしていた他の2班もヴァルターに習って口にした料理を述べていく。


 それらと男爵家の人々が食べた物とを照らし合わせた結果、1つの答えが導き出された。


「あのベリーソース屋の隣にあったソーセージ屋だ」


 ベリーソース屋と言われてヴァルターはドキリとした。何せ土産にとソースを購入しているのだから。

 しかし隣のソーセージ屋と言われてヴァルターも納得した。あのあまり美味しくないと思った味覚は間違いでは無かったようだ。


 これから男爵を介してこの事を公爵へ伝えるというゲオルグと、診療所で行列作っている人達に薬を届けるというアリーとエステル達と別れて、ヴァルター達は宿へと向かった。護衛に団員達を付けようかと提案したが、診療所の案内に1人だけ選ばれ、後は子供達の看病を優先させるよう言われて素直に了解した。




 すっかり回復した子供達を何とか宿の室内に留め置いていると、暗い顔をしたエステルがアリーに慰められながら戻って来た。話を聞くと、道端で蹲って動けなくなっていた人は薬を飲んでくれたが、診療所の人々に薬を受け取ってもらえなかったらしい。どんなに効果がある薬を持っていても信用されなければ飲んでもらえない。無料で提供するというのも訝しがる居るかもしれない。折角男爵家の子供達が考えた案だからとヴァルターは反対しなかったが、少しは金を取った方が信用されたかもとヴァルターは考えていた。


 エステル達が帰って来てしばらくすると、こちらも暗い顔をしたゲオルグが男爵に連れられて戻って来た。どうやらこちらも上手く行かなかったらしい。公爵側は既にベリーソースの店主を腐った料理を提供した犯人だとして拘束しているようだ。ゲオルグは破壊されたベリーソースの屋台を見て更に気分が沈んでいる。


 エステル側の状況を聞いた男爵は自虐的な意見を口にした。


「この街を治める公爵は先王の兄で、王位継承を弟に譲って公爵になった人だ。王子時代からこの街を任されていて、街に昔から住んでいる人は公爵こそが王になるべきだと思っている人も少なくないだろう。その気持ちが男爵家如きの助けを借りるなんて出来ないという誇りに繋がっているんじゃないかな」


 エステルやゲオルグのせいでは無く、自分の力不足だと言っているんだ。


「だから、エステルの薬が悪かった訳じゃないから気にするな。道端で蹲っていた人達はおそらく余所から観光に来た人で、診療所を探す元気も残っていなかったんだろう。その人達だけでも助けられて良かったじゃないか。それに、アリーや村の子供達を救ってくれてありがとう。これからも良く効く薬を作って欲しい」


 男爵の優しい言葉に、今まで何とか我慢していたエステルの目から大粒の涙がボタボタと流れ始めた。

 エステル先生を泣かすなと子供達が文句を言い、娘からは腹を殴られた男爵。理不尽な世の中だなとヴァルターは少しおかしく思った。


「お、おう。アリーが元気そうでよかった。その怒りは競艇で発揮してくれ。じゃあ俺は舟の様子を見て来るから、集合時間に遅れるなよ」


 そう言葉を残し宿を出ようとした男爵をヴァルターは追いかけた。その手には妻への土産用に購入したベリーソースが握られていた。

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